381話 決戦目前
翌朝。
王都から30kmも離れたところにある広大な平原に、Sランク二人、Aランク50人…………つまりはギルドの戦力の殆どが集った。
「すごいなぁ………今までで一番の力の入れようじゃない?」
俺の隣でシュウが呟く。勿論『イレギュラーオルフェンズ』もこの戦いに参加している。
「ギルド側もこうやって人を集めるのに慣れてきたってのもあるだろうな。それと、あの甲冑女が乗り気ってのもあるんだろう。俺にはよくわからんが強いやつには人気らしいからぜ。」
あの甲冑、今まであらゆる戦いに一切参加して来なかったからな。古参の人曰く昔大暴れしてて、その時の影響でベテラン勢が皆惚れたらしい。恋愛方向ではなくその戦いっぷりに。
だから、今回いつもは参加しないようなベテランも大勢来ている。
「周りのオーラが凄すぎて倒れそうだぜ………。」
だから、ギルが珍しく体を震わせているのも無理はない、というべきだろう。それほどまでに、今回は精鋭が揃っている。魔王軍相手よりも多い、というのがなんとも言えないけど。
そんな俺達に、職員の方から今回の戦いの概要が渡される。
「はえー………。チーム個別にやることが書かれてるんだ………。」
「そうだ。そして、今回のお前たちの役割は並み居るAランクの中でも特殊なものとなる。」
シュウが呟くと同時に、俺達の前にいつもの調子で『世界最強の魔法使い』が現れた。
「『伝言』の件だな?」
「そうだ。お前達『イレギュラーオルフェンズ』の役割は、『勤勉なる遣い』の分析。」
「分析!?苦手だぜ俺そういうの!」
「アホ。分析するのはそこのチビだ。お前らの役割はこいつの死守。」
「なんだ、割といつもと変わらない内容だね。」
「俺はまた担がれるのか………。」
確かに、俺達専用のマニュアルにも似たような内容が書かれている。
「でだ、ロイド。今ん所のお前の見解を教えろ。まさか昨晩なんも考えてませんでしたってことはないだろう。」
(確かに考えたは考えたけどな………。)
昨日のことを思い出して、俺は顔をしかめる。
「………一応、出処はあてにならないけど信憑性はある情報がある。それについてなら、結構考察はしてきたんだ。」
言わざるをえない。本当に言えないところからの話だが、今回こんだけの戦力を投入するからには負けた時に『次』はない。そうなると、言わないわけにはいかないだろう。
………本当なら、この戦いでサタンを信用できるかどうか確かめたかったのだが。あの隙あらば俺の身体を乗っ取ろうとする輩の言葉なんて、早々信じられん。
「なんでもいいから言え。お前はそれにかけて考えて来たんだろ。」
「だったらもっと俺にそういうこと言えばよかったじゃねえか……3日はあったぞ。
まあいいや。本当にソースがアテにならないだが、『勤勉なる遣い』の能力は次のうち2つだと考えられる。あくまでどっちかで、どっちかはわからない。
一つ目が、『あらゆるものを貫通する槍』と『あらゆるものを防ぐ盾』。二つ目が『あらゆるものを超える肉体』だ。」
「………笑えない能力だな。」
「本当にな。だが、その性質はあくまで見た目だけ、本質は別らしい。だから、その本質ってやつを見抜けるかどうかに俺たちの勝機がある。」
「考えてきたのはその『本質』か。」
「そうだ。で、これが俺の徹夜の成果。」
俺は、そう言って収納袋から丁寧に整理したメモを渡す。今日時間がないのはわかっていたから、出来るだけすっと頭に入っていくように書いた。
「………なるほど。確かに、考え得るだけのものは書き尽くしてきたようだな。なら、これを元に作戦を練り直そう。まだ時間は2時間はある。なに、元々立てていた作戦自体奴の能力を捉えるためのものだったからな。そんな大幅な変更はないだろう。指針をもたせるだけだ。」
「信じるのか?我ながらぼくのかんがえたさいきょうののうりょく感がすごいぞ。」
「………一昨日の話だが、カンプーフで『風帝』がやられたらしい。」
「!?」
目を見開く俺に、目の前の男は2,3枚の紙を押し付ける。
「『風帝』だけじゃない。そこに載っている全員が、『遣い』に関する情報を提供すること無く封印された。ただの一人も逃げることができず、情報は全くのゼロ。」
「嘘だろ………?」
確かに、C,D,Eランクが大部分を占めている。だが、Aランク、Bランクも合わせて6人いる。
何より、あのクソ師匠が逃げることすらできない。
「嘘じゃない。そして、こんな馬鹿げた存在をどうにかできるなら、馬鹿げた話にでも縋るほかはない。
魔王誕生まで歴史を遡ったにも関わらず一切文献が見当たらない時点でどうしようもないからな。
何より、お前にしか見えない世界であろうと、お前が見たというのであれば信じる。お前にはそれだけの信用がある。」
別に、これは化学だとかそういう話ではない。サタンとかいう得体のしれないものがソースだ。
だが、内容ではなく俺を信じるというのならば。
「………ありがとう。」
くそ、これでサタンの話が嘘だったら一生悔やんでも悔やみきれないぞ。




