376話 甲冑の世界最強
「王都のギルドか………。久しぶりだな。」
グランさんが、もはや城と呼べるレベルのそれを見上げる。
「いつも思うけど、これどう考えてもでか過ぎだろ………。」
この大陸における冒険者ギルドの本部であるため、ある程度デカイのならわかるんだけどな。
個人に委託してることが滅茶苦茶多いから別にそんな人と場所はいらんだろう、って思う。
「基本的にここに関してはここのギルドマスターの意向が反映されまくってるからな。」
「それだよ、そもそもここのギルドマスターの話なんて聞いたことがないぞ。」
クソギルマスや『最強の魔法使い』と違って、伝説の一人にも関わらず情報が少ない。
前闘技祭に来たときも全身黒い甲冑だったしな。クソ勇者を鍛えたってのは知ってるが。あと、他二人を超える戦闘力を持っているという話も有名だ。
「そうだろうな。本人の容姿が容姿であまり情報が出回っちゃいねえ。俺みたいのはごく一部だ。」
「やばい見た目なのか?全身ぐちゃぐちゃとか。」
「いんや………中身は兎も角見た目は可愛らしい少女だ。見た目が威厳なさすぎて甲冑を着てる。」
「………ッ!」
久々に女性恐怖症でゾワッときた。
「中身がほんとあれなんだわ、よく言えば猪突猛進、悪く言えば殺戮狂。というか普通に殺戮狂だな。
少なくとも、まともな人間じゃねえ。盗賊とはいえ大量殺人で血みどろのまんま美味そうに焼鳥食ってたからな………。」
闇が深すぎるだろ。他二人がまともに見えてきたぞ。
あれ………?
「グランさんはなんでそんなこと知ってるんだ?」
「あぁ………。それはな、」
グランさんは足を引き釣りながら頭を掻いた。
「実は、俺の剣の師匠なんだ。」
「師匠、入るぜ。」
グランさんの顔パスにより、俺達は特に問題もなくギルドマスターの部屋にまで通された。
グランさんのノックに返事はない。だが、彼は躊躇なくドアを開けた。
「よく私の前に姿を現せたな、グラン。足一本動かなくなったくらいで日和りやがって。」
入るなり飛び込んできたのは、内側にくぐもった声。
その主は、書類の中に黒い甲冑とともに座していた。
「別にもう来んなと言われた覚えはねえぜ。」
グランさんがそう言った瞬間、横の壁が消えた。
遅れた衝撃波が俺の頬をぶん殴る。痛い。
「そういうおちょくるような真似はやめろ。」
「相変わらず冗談通じねえなぁ………。」
グランさんの引き攣った顔を見て満足したのか、諦めたのか甲冑はまた椅子に座り直した。
顔が見えないから何を考えてるのか全く分からん。いや、顔見えたら俺がどもるが。
「それで、落第もんが私に何の用だ。」
「大したことじゃないんだけどな。」
「じゃあ言うな。」
「……………。」
お前どんだけ嫌われてんだ………。
グランさんは一端ゴホンと咳を鳴らし、続けた。
「『勤勉なる遣い』についての情報なんだが。」
「よし続けろ。」
(………?)
甲冑の声の調子が変わった。
「ここにいるのがロイドと言うんだが、こいつが光の楔を解析した。」
「そういえば最年少Aランクなんてのが居たな。そこのチビか。で、結果は?」
チビにチビって言われた………。
「『勤勉なる遣い』を殺せば、全てが解決する。」
そう言いながら、グランさんは例のメモを取り出した。
「相変わらず走り書きは汚いな。」
グチグチ言いながらも、素早く目を通していく。いや、甲冑で目見えないけど。
「………いいだろう、確かに探しに行く必要性は無さそうだな。
但し、探索だと『天翼』の方は役に立たなさそうだからな、そこのチビを借りるぞ。」
「持ってけ。後俺もここで情報収集するからな。」
「勝手にしろ。邪魔はすんなよ。」
そう言うと、甲冑は机の上の魔道具をひっつかんだ。
『全体に通達。作戦変更だ、『勤勉なる遣い』の捜索はやめで、総員奴の戦闘データをかき集める方向にしろ。捜索は『不死』ロイドに一任する。』
「これでいいな?」
「ああ、問題ねえぜ。」
「なら下で時間を潰してな。私は書類を片付ける。」
甲冑はそう言って、一心不乱に書類に取り掛かった。
グランさんが振り返って先程壊された壁から無言で立ち去るので、それを追いかける。
少し歩いた所で、俺は気になっていた事を聞いた。
「なんであの甲冑は『勤勉なる遣い』の話になった瞬間態度が変わったんだ?」
「それか。ここに来る前にこの件には師匠の私情が挟まれまくってると言ったな。」
「おう。」
「実はな、あの女クソギルマスに恋してんだよ。」
「へっ?」
「アイツの何が良いのかは全く見当がつかないんだが、精神がどうかしてる癖にいっちょ前に恋しやg「聞こえたぞ?」
横にあった壁が消えた。
衝撃波、痛い。




