374話 光の楔
「下手すると舌噛むので気をつけてくださいね。」
「りょうか………うおおおおおおおおおおお!!!!!????」
想像以上にすごいスピードで馬車がスタートした。
ジェットコースターなんて生易しいもんじゃない。こんなんミサイルだよ。
「うおっほおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
ただし、今のでジェットコースターに乗ったときの反応がわかった。
「「「BUHIIIIIIIIII!!!!!!!!」」」
(ゴム広めといてよかったなぁ………。)
「あうあうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺達は、絶叫しながら街道をぶっ飛んでいった。
「着きましたよー。」
「うぇぇぇぇぇぇぇ。」
もうグロッキーですよ。『ヘイレン』使っておこう。
顔を上げると、目の前には至って普通の辺境の村があった。
「ってか、まだ日落ちてねえな………。どころかまだ昼の範囲………?グランさん1日どころの話じゃねえぞ。」
「腹が減ってたのでいつも以上のパワーが出たみたいですね。」
「それ火事場の馬鹿力って奴だと思うんだけど大丈夫なのそいつ!?」
「まあ、そこらで魔獣でも狩って食わせますよ。」
Rc値跳ね上がりそうだな………。
「もしかして、Aランク様だべか?」
ヒュドラホース君が闇堕ちしていると、気の良さそうなおっさんが柵の中から頭を出した。
ただし、その目線は完全にリムさんに向いている。
「いえ、私も一応Aランクですが、今回解決してくれるのはこの三人ですよ。」
「はえー、街の方じゃ子供も凄いんだべなぁ………。」
「いえ、それはどうかと思いますが………。」
「でもまぁ、あのでっかいのは3体とも動かなくなったべ。問題ないべさ。」
ん………?
「動かなくなった?あいつらは元々そんな動かないだろ?」
「見てもらえりゃわかるべ。」
そう言いながら、おっさんはちょいちょい、と手を動かした。
「では、私はこの子の食料だけ調達したらお暇します。ご武運を。」
「きな臭くなってきたけどな。また頼むわ、出来れば次は速度落としてな………。」
「ははは………それはこの子次第ですね………。」
リムさんはそそくさといなくなる。
「そんじゃ、行くべ。なんも遠くないがな。」
おっさんはリムさんがいなくなるなり、案内を再開する。
「って、あれ?まさかあのでっかいやつか?」
「んだんだ。さっすがAランク様は目がええだべなぁ。」
俺達の前方の山の一部から、よくわからない複雑な色をした頭部が3つひょこひょこひょこと出ていた。
「結構近いじゃん!」
「これ、あと少しで村が潰される範囲だよ。」
「結構近いしょ?おらの村の長老たちもここを見捨てるべきか議論してたべさ。ただ、巨人がおかしくなってそんなもんも吹っ飛んだだよ。」
「なんだこれ………。」
俺達は、巨人の全貌を見ることができた。だが、何かがおかしい。
このグロテスク巨人はゾンビの集合体で、何やらもぞもぞ動いているものである。
一応歩くし、自衛に殴ったりすることもある。
だが、それが一切ない。
特に、おかしい点が一つ。
「この光の楔が刺さった途端、巨人の動きが止まっただ。」
腹部に刺さった巨大な光の楔。
『リュミエール・シーカー』による解析で、凝縮された光属性魔法、ということはわかった。
だが、この停止は『核に光属性魔法を打ち込まれた』ことが原因ではない。そもそも、止まるのは再生だけなはずなのだ。
(…………ん。)
更に解析を勧めると、どうやらこの光の楔から別に大量の鎖が出ており、それによって巨人はがんじがらめになっているようだ。但し、その鎖は普通の目では見ることができない。
もう一つ、気になる点があった。
「この楔を打ち込んだ奴は見たか?」
「一昨日、起きてみたらこうなってたべさ。」
「なるほどな………。」
3つの楔から、魔力の糸が伸びている。しかも、全て同じ場所に向かっていて魔力が今も注ぎ込まれている。
魔腕で掴んでみるが、ちぎることはできなかった。エクスカリバーで切ってみることも考えたが、今この場ですることでもないだろう。
なんにせよ、謎が多すぎるし俺達3人でどうにかできるもんでもないな。
「おっさん、この内一体をイタルペナまで運んでいいか?」
「Aランク様の判断なら問題ないべ。」
「ならよし。ギル、シュウ、リムさんに言って持って帰るぞ。」
「「あいあいさー。」」
ギルとシュウが『ブースト』を使って巨人の一体を持ち上げた。
うんともすんとも言わねえな。
次いで、俺は『リュミエール・シーカー』でヒュドラホース君を探す。
(めっちゃ食ってんな………。)
ご機嫌なヒュドラホース君の下まで飛ぶと、リムさんが目を丸くした。
「もう依頼が終わったのですか!?お早いですね。」
「いや、色々あってあの巨人を持って帰ることになった。このヒュドラホース君であれ運べるか?」
リムさんは、山の上から俺の指差した方向を見る。
「あ、多分いけます。任せて下さい。」
「おお。やっぱこの子パワー出るんだな。」
「ええ、いっぱい食べましたから元気いっぱいですよ。」
あれ、この子もしかして常にあんな荒ぶってるのか………?




