369話 クロップス防衛戦 後日談1
―――――――その日、全世界に光が指した。
例え真夜中であろうと、年中闇の中にある暗黒大陸だろうと、容赦なく降り注ぐ。
「――――流石だよ、ロイドくん。」
その輝きに目を潜めながら、暗黒大陸の中央、魔王城の天辺で魔王は満足げに呟いた。
「まさか、本当に第七の守護者を目覚めさせるとはねぇ………。魔王さまの慧眼にはびっくりさせられるわ。」
その背後から魔族の女が感心したように呟く。見る人が見れば相当高位のネクロマンサーであることに気づくだろう。
そんな彼女の言葉に、魔王はそうだろう、そうだろうと見た目相応にはしゃぎながら、天からの光が消えるのを見守った。
「さて、ここからが肝心だ。第七の守護者は僕でも倒せない。勝てる可能性があるのは、正真正銘世界でもロイドくんだけだね。」
魔王は、そう言いながら手元の水晶に手をかざす。
浮かび上がるのは、黄金の羽と奇っ怪な槍、荘厳な鎧をまとった無表情の美女だ。
「これが、第七の………。」
「そうさ。そして、彼女の行動パターンからすれば、二人が対立するのは時間の問題………。」
ここで、一度魔王は言葉を区切る。
「――――――――世界征服も、もう目前かぁ。」
「ッ!!」
目が覚めた。知らない天井だ。
「おー、おはよう!やっと起きたか!」
覗き込むのはギル。相変わらずだ。
真っ白のベッドから起きて周りを見渡すと、一面白だらけ。ただ、置いてある機材を見るに病院のようだった。俺の腕に点滴刺さってるしな。
つまり、俺はあの後誰かに落下死する前に回収されたわけだ。多分フレースヴェルグだな。後でお礼を言っておかねば。
「それより、ニーズヘッグはどうなった!?魔王軍は!?」
「ニーズヘッグならお前の左手、魔王軍は巨人様が土に還してたぜ!」
「あー、なんか魔族来ねえなぁと思ってたら地上で止められてたのか。
っておめえ、今なんつった…………!?」
思わず左腕を見る。今まで黒い刻印だけが刻まれていた左腕に、新たに真紅の紋章が刻まれていた。
「ど、どういうことだ………。」
【私が無理矢理主の中に連れ込んだ。】
「何故に!?」
また左腕の魔力回路がおかしくなってやがる………。どうすんだこれ、まだ作ってもらった武器で魔力回路を差し替えれるからいいけれども。
【ニーズヘッグを倒した後、海の底から謎の光とともに巨大な存在が姿を表した。恐らく、我々一人では勝ち目がない。】
「だから、戦力として確保したと?」
【殺すには惜しい。説得は私がこれからする。】
「まあ、暴走のしようがないだろうから別にいいんだけどさ。」
本当に説得にいったのか、真祖吸血鬼が消えた。
それより、巨大な存在とやらが気になる。
「ギル、光る巨大な存在ってどんなやつだったんだ?」
「なんか海の上でピカーッと光って、変なでっかい槍を持ってたぜ。20秒位で急に消えたけどな!」
「なんだそりゃ………。」
だが、強力な存在であることは間違いないだろう。
タイミングを見るに、五大獣に何かしら関係するもの………。想像するだけで強いな。
「まーそんなん考えてもしょうがねえぜ!それより、皆ロイドの回復を待ってたんだ。早く顔見せに行こうぜ。」
「行くってどこよ?」
「ギルドだよ、ギルド。」
「ギルドってお前………帝国のギルドにいんのか、皆。」
一応とはいえ王国に就いてるスーパー戦力集団だぞ。帝国からしたら事が済み次第お引き取り願いたいはずだ。
「ここは帝国じゃねえぞ、イタルペナだ。」
「ファッ!?」
魔腕でシャッとカーテンを開ける。
「ほんまや………。」
物凄く見たことしかない光景だった。ばりばりイタルペナだった。
「………俺、どんくらい寝てた?」
「丸二日寝てたぜ。脈とか色々弱ってて大変だったんだ。何やっても起きねえしよ。」
吸血鬼化は血流がおかしくなるからなぁ。
結果的に、俺が個人的に提案していた点滴のお陰で自分が助かったわけだ。因みに、ポカリスエットの当初のコンセプトは飲む点滴、だったんだぜ。つまり俺は今ポカリを身体に流してるわけだ。だからなんだって話だけど。
「それより、ギルドだギルド!」
「お、おう。そんなか………。」
「皆待ってるからな、マジで!」
そこまで言われるといかなきゃ申し訳ない感がある。でも嫌な予感しかしねえのよな………。
自分の病室を出ると、医者たちが集まってきた。
「ロイドくん、無事だったか!」
「なかなか起きないからどうしたかもんかと………。」
「やっぱり点滴のアイデアは完璧だったぜ!これで重症の患者さんにも栄養補給が楽にできる!」
「こちらこそ助かったわ。あのままだと俺死んでたからな。」
俺がそう言うと、いつも手伝ってもらっているのだからお互い様だ、と返ってきた。
こういう持ちつ持たれつの関係っていいよな、と思った瞬間。
「おー、生きてる生きてる!」
「クソギルマス!?」
「元気じゃねえか!よし、身体借りるぞ!」
「えっちょっ………。」
俺は肩に担がれて運ばれた。




