367話 対魔王軍作戦 11
(やったか………?)
『リュミエール・シーカー』が発現できない上に、真祖吸血鬼には魔力探知能力がない。
そのため、生死が砂埃のせいで判別できなかった。
逆に言えば、ニーズヘッグの恐ろしいまでの巨体を覆うほどの砂埃が発生した、ということだ。
最早それは砂嵐とも言える。
だが、あくまでそれは俺達の魔法による副産物にすぎない。
渦巻いていた砂埃が解けて、俺の身体を強風が煽る。
早速ニーズヘッグの様子を見ようとした俺は……………強大な熱気の影を察知した。
【ッ!距離を取れ!今すぐッ!】
真祖吸血鬼が言うのとほぼ同時に俺は翼を活かして一気に距離を取る。
「ぐおおぉぉ………。」
だがしかし、あまりの威力に避けきることはできなかった。
更に、すぐに動けた俺とは違い、その巨体故に巨人は直撃を受けてしまう。
【――――――――。】
【くははははは!油断しすぎだ馬鹿め!】
さっきまでとはうって変わり、ばっさばっさと天空へその身を躍らせるニーズヘッグ。
先程まで纏っていた黒炎は跡形もなく、その燃えるような紅の鱗を陽のもとに晒している。
「どういうことだ………!?」
【ニーズヘッグが魔王に奪われたのはその膨大な魔力回路。そのため、あのほぼ格下からの攻撃を通さない黒炎を纏っている状態では碌な魔法が使えないのだ。
おそらく、我々の魔法を黒炎だけでは防ぎきれないと判断し、強力な魔法で相殺する考えなのだろう。】
【それが理解できた所で貴様らにはもう何もできんがな!】
なるほど、空を舞台としたのはそのためか。
全ての攻撃を下からに強制出来る上に、魔法は距離が開けば開くほど威力が下がる。つまり、相殺しやすいわけだ。
だがしかし、この背中の翼は断じてただの飾りなどではない。
【やはり、そう来るか!】
魔翼を超えるパワーで、真祖吸血鬼の翼が唸る。
(はええぇぇぇぇっ!!!!!)
自分でも驚くほどのスピードでそのまま一直線にドラゴンへと突っ込む。
黒炎が解かれているのならば、何も別に他に魔法を使う必要はない。この手の『ズレパニ・ブロンテ』で十分だ。
しかし、充分な気迫とともに放った回転斬りは虚しく空を切る。
(まずいっ!!)
コォォォォ、という不吉な音が真横から聞こえる。
魔法以外の防御は間に合わないだろう。だが、生憎雷属性も闇属性も俺は詳しくない。
だから、俺の脳みそがひねり出したのは単純な魔法。
「『ダーク・ブースト』!」
闇属性魔力が、俺の身体を纏い尽くす。
直後、灼熱の嵐が俺を襲った。
「あっちいいいいいいいい!!!!!!いってええええええええ!!!!!!」
ニーズヘッグのブレスは、容赦なく俺を地面へと叩きつける。
だが、残り5つしか無い札を切った甲斐はあった。紛れもなく世界最高峰のブレスを、熱い、痛い程度で済ませられたのだから。
【いくら魔力があろうと、力があろうとその翼なぞ所詮蝙蝠のそれに過ぎぬ。天空の覇者たる我に一瞬でも勝てるとでも思ったのか、この愚か者が!】
「さっきから愚か愚かうるせえんだよ!そんなにてめえは偉いか!」
残念ながら、こちらとしては敵の挑発に乗るしか無い。あちらは気づいていないだろうが、俺の魔法使用回数は残り4回。なんとかして『ズレパニ・ブロンテ』をねじ込まなければ死亡する。
隣の巨人は徐々に再生してはいるが、もう少し時間が要る。その間に更に魔法食らってしまえば機能停止するだろう。
だから、俺は賭けに出ることにした。
(魔腕、展開!)
俺本来の戦い方だ。
魔腕は本質的には魔法ではない。言ってしまえばただ魔力を放出しているだけなのだ。
「ふぅぅぅぅぅーーーっ…………。」
だが、この状態での制御には集中力が要る。それが、全部で8本。いつ解けてもおかしくない諸刃の剣だ。
その代わり、普段の俺とは違い魔力量が膨大なためパワーが桁違い。
「とうッ!」
魔腕で地面を押し、推進力を最大限に得たジャンプ。
そのまま魔腕に『ズレパニ・ブロンテ』を持ち替え、
「ハァッ!」
【ッ!!!】
躱そうとしたニーズヘッグの頬を掠める。
「次ィ!」
人間カタパルトで再び急接近。
魔腕を維持するには常に自分のペースで居続ける必要がある。
【『グレイトフル・バースト』!】
俺を吹き飛ばさんとする爆風を、『ズレパニ・ブロンテ』で切り裂く。
その先にあったのは、巨大な尾。
(ッ!!!)
俺は、ほとんど反射で身体を前に飛ばす。
それは、間違いなく反射だった。
だが、結果として。
【何ッ!?】
「死ねやゲロゲロトカゲ野郎ッ!」
俺は、その顔面に『ズレパニ・ブロンテ』を振り下ろす。
――――――――――ガキィ!
迎え撃ったのはニーズヘッグの両腕。
【『ラブリュス・ケマル』!】
【奴のウェポン・マジックだ!】
雷の鎌と、炎の斧が鍔迫り合いを始める。
「ぐぬぬ………!」
【ぬおお………!】
度重なる強力な火属性魔法のせいで、周囲の空気の熱気が俺を呑み込む。
(熱い………っ!)
俺の脳裏を、一瞬そんな言葉が掠める。
俺の集中が、鈍った。
【ふんぬッ!!!!!!!】
魔腕の制御が甘くなり、パワー負けする。
そのまま空中で体勢を立て直すが、目の前のニーズヘッグはそんな俺を見て愉快そうに笑った。
【そうか、不安定か!やはりその力は不安定か!】
(ばれた………!)
次の瞬間、俺の真横を熱球が掠める。
黒く変質した髪の端が、チリチリと音を立てて崩れた。
【ならば、答えは最初から単純だったのだ………すなわち、物量作戦!】
四方八方から、熱球の弾幕が張られる。
「ッ!!」
【フハハハハハハ!!!!!明らかに動きが鈍いぞ、真祖吸血鬼!】
死ぬほど飛び交う熱球を、身を捻らせて避け、避けられない物は『ズレパニ・ブロンテ』で裂く。
ジリ貧だ。
4度しか使えない魔法で、どうこの状況を打開しろというのだ。
一度払った所で、又別の熱球がこの体を焦がすだけ。
「クソッタレ………ッ!」
「そんな風に悪態を付くもんじゃないよ。」
【「ッ!?」】
熱球が、全て消滅した。
何度も何度も生成されるが、その度に熱球が消えていく。
【まさか………ッ!】
【久しぶりだ。200年ぶりかな?】
風の五大獣、フレースヴェルグ。
伝説の内4体が、一同に会した。




