366話 対魔王軍作戦 10
わかっているとは思うが、強力な助っ人とはリーダーのことである。
土の五大獣である巨人と共闘できれば勝率はぐんと上がるはずだ。
(先程の孤児から考えると、リーダーもそいつらと一緒にいるはずだ………っ)
いくらなんでもあのリーダーがいきなり皆を見放すことはないだろう。
となれば、門からそんな遠い場所にはいないはず。後方支援要因として雇われた孤児たちが門から離れることはないだろう。
なんだかんだで時間はないので急ぐ必要がある。
俺が飲み込まれている間にみんなびっくりするくらい消耗していた。このまま放置はマズイ。
「おーい、リーdへぶっ!?」
誰もが家の中に避難している中、街で大声で叫びながら角を曲がろうとした俺は、顔面を誰かの腹筋に強かに叩きつけた。
「……ロイド、俺を呼びに来た、ということはわかっているようだな?」
「リーダー!」
「巨人がニーズヘッグの力を感知してな。丁度俺もお前を呼びに行こうとしたところだったんだ。」
流石リーダー、有能の極み過ぎる。
「残念ながら、もう既に冒険者達は崩壊しかけだぜ。」
「何ッ………!?先に言え!今直ぐ行くぞ、俺に飛び乗れ!おんぶじゃねえぞ、股が裂けるからな。」
言われた通り、四つん這いになったリーダーの上に立つ。
「それじゃ頼むぞ、『巨人』!」
リーダーが叫ぶと同時に、リーダーが肥大化を始める。
「うおっ!?」
5秒ほどで俺の視線が門の上まで上がった。
【飛ぶ。捕まれ。】
「おっけー、うおおおおお!!?????」
俺の身体が宙を舞う。
巨人が一瞬で最前線まで跳んだからだ。
【久しいな、魔王に家から叩き出された引きこもりよ。】
【挑発。低俗。】
低俗、とは言いながらも巨人は挑発に乗って右拳を突き出す。
あまりの速度に風圧だけで俺は落ちそうになる。だが、先に俺には伝えるべきことがある。
「巨人、貫通攻撃がそいつには有効だぞ!」
【助言。感謝。】
その拳が『クリスタ・ルーン』の如く高速回転し、何事もなかったかのように黒炎を貫通する。
【ハァッ!】
【ッ!!!!!】
しかし、ニーズヘッグはそれを読んでいた。挑発していたのだからある意味当たり前だ。
その巨大な尾を全力で横に薙ぎ、巨人の右拳を吹き飛ばす。
全力の拳を綺麗に飛ばされたせいで、巨人は完全に体勢を崩した。
【まんまと引っかかりおって!貴様は昔から住処に固執しすぎなのだ!】
パカっとニーズヘッグのデカイ口が開く。
何が狙いかなど考えるまでもない。ドラゴンの代名詞、ブレスだ。
その身を纏う黒い炎すらも吸い込み、ニーズヘッグの目が愉悦に歪む。
【ハアアアアアアアア!!!!!!!!】
眼前に漆黒の炎が広がる。
完全に体勢を崩している巨人には、避けるすべはない。
「『黒雷』ッ!!!!!!!」
フルチャージの『黒雷』が、ブレスを貫通しニーズヘッグの喉元に刺さる。
【ま、まさか貴様………ッ!?】
「その通り、お前のお仲間の真祖吸血鬼だ。」
背中の防具を貫通し、漆黒の翼が生える。犬歯が伸び、みるみる腕が青白く変貌していく。
魔力は真逆の感触。量はいつもの比にならない。
(私はあやつと戦いすぎて癖が割れているからな………。)
前回とは違い、今回は俺が身体の主導権を持っている。
(その状態での魔法は7発が限度と見た方がいい。それ以上は命に関わる。)
(了解だ。)
この状態での魔法の行使は、魔力回路、ひいては血管に物凄く負担を与える。
出来るだけ使う頻度は下げておくべきである。
「『ズレパニ・ブロンテ』。」
だから、もっとも便利なのは魔力さえ持てば一度の行使で永続的に発現できるウェポン・マジック。威力も申し分ない。残り、6発。
「いくぞ、巨人!」
【是。】
真祖吸血鬼の強力な身体能力を持って、ニーズヘッグの足元で回転するように鎌を振り回す。
俺の頭上からは、ニーズヘッグを上回る巨躯を持つ巨人によるアームハンマーだ。
【人類に媚を売った雑魚共が!調子に乗るな、『ムスプルヘイム』!】
ニーズヘッグの身体から、黒い炎以上の炎が吹き出る。あまりの熱気に、辺り一面が揺らめく。
だが、『ズレパニ・ブロンテ』の前では些か火力不足と言わざるを得ない。
「ウラァッ!!!!」
二人の一撃がニーズヘッグに炸裂する。
魔力をふんだんにつぎ込んだ二撃は、黒い炎、ドラゴンの鱗という強靭な二枚の縦を割り確実にダメージを与える。
【グッ………!】
「おら、スマ○ラじゃねえんだぞいくらでも叩き込んでやらあ!」
隙を見せてくれたのだから、ここは有難く連撃を叩き込ませてもらう他無い。
「うおおおおおおおお!!!!!」
【ッ!!!!!!!】
二人による連撃で、次々と鱗が破壊されていく。
そして顕になる、鱗の下。
叩き込むなら最高の一撃だろう。
「血の眷属よ、王の号令だ!王が元に集いその槍を振るえ!『キュロムニ・ハルシオン』!」
【『ハスタ・オブ・テラ』!】
天より舞い降りるのは、大山を真逆にしたかのような巨大な槍。
地を這うのは、超電磁力で大地を揺るがす複数の雷槍。
挟み込むように、災厄級の大槍達がニーズヘッグ目掛けて突き刺さった。




