364話 対魔王軍作戦 8
――――――――感じる。
薬が効いてきたのを、感じる。
本来副作用といえるものだが、理論上は可能だった。
「上手く行けばいいけどな。」
脱出まで、後13分。
「五大獣だとッ………!?」
「うろたえるなアホ。問題は肩書じゃねえ、その戦闘能力だ。」
邪竜ニーズヘッグの名乗りにビビったBランク冒険者を、Aランク冒険者が宥める。
五大獣の名は非常に大きい。最も有名である勇者と魔王の童話、その中でも魔王の誕生を後押しした文字通りの『規格外』であるからである。
アーケードでプレイしてたら対戦相手がウ○ハラだった、そのくらいのインパクトがある。
(よりにもよって『邪竜ニーズヘッグ』か………。)
そんな中、『最強の魔法使い』はその膨大な知識量から冷や汗が止まらなくなっていた。
五大獣からヒントを得たと言われている、ウェポン・マジック。ロイドやカナルという前例から、それが間違いではないことをわかっていた。
そのウェポン・マジックの中でも、特に異彩を放つものがある。
元々、ウェポン・マジックは『ストロム・ベルジュ』のように少し変わった使い方を強いられる。
だが、その中でも火のウェポン・マジックは俗に言う『特殊能力』を持っている。
それが。
「魔法と豪気に対して相殺性が高い………あのニーズヘッグの様子を見る限り、あの黒炎はその強化版と言えるだろうな。」
だからこそ、『最強の魔法使い』は頭を悩ませる。
先程、ロイドの策に乗り魔法の最大火力である自分は魔力が殆ど無い。あるいはそれを見越しての登場でもあるだろう。
あのドラゴンは、全面的にこちらを見下してはいるが馬鹿ではない。
先程『白弓』の一射を見ても、豪気で突破できるものもほとんどいないだろう。
いたとしても、その下にあるのはドラゴンの堅い皮膚。ダメージは殆ど通らないと考えていい。
「なあ。」
「どうした肉壁。」
そして、同じく馬鹿ではあるが戦闘のエキスパートであるシュルドも同じことを考えていた。
だが、彼の場合少し考えは違う。
「何かしら弱点があるんじゃねえか?あの黒炎。そもそもアレは魔法なのか、それともブレスに類するものなのかもわかってねえぜ。」
「………そうだな。」
未練がましく正真正銘世界最強であるあの女がいれば、などと考えていた『最強の魔法使い』は、この問答で己の女々しさを自覚した。
そして、いつもの不敵な笑みを浮かべる。
「試すぞ、シュルド。作戦名は、『多種多様な攻撃を加えて弱点を炙り出そう』作戦だ。お前はその間ずっとあいつを相手にしてろ。」
「お前にしては可愛らしい作戦名だな。いいぜ、そのかわりだ、絶対にあの性質を見破れ。」
「当たり前だ。」
『最強の魔法使い』は、拡声の魔道具に話しかける。
「おっほほーーーーい!!!!!!!キタキタキタキター!!!!!!アイルビーバーック!」
こちらロイド。現在位置、胃袋と食道の境目。流れるプールを楽しんでおります。
………さて諸君、突然だが抗コリン剤、という物をご存知だろうか。
簡単にいえば、胃炎抑えるし下痢とか腹痛とかも抑えるよー、というシロモノだ。
要は薬であるが、実はこの薬、とある副作用によって忌避される傾向にある。
それが、下部食道括約筋という筋肉を弛緩させる、というもの。
この下部食道括約筋というのは、食道と胃袋の間にある筋肉で、これがきゅっと締まることによって胃液の逆流を防いでいるのだ。丁度俺が今通ったところに当たる。
で、この抗コリン剤。過剰摂取するとこの下部食道括約筋が緩む。物凄く。何者も過ぎたるは毒、という訳だ。
もうおわかりだろうが、俺は胃液に直接抗コリン剤を投入しまくった。
ドラゴンの胃袋なだけあって非常に吸収が良く、いい感じに下部食道括約筋も緩んでくれた。
そして始まる胃液の逆流………つまり逆流性食道炎のあれ、である。
「うおおおおおお重力すごいいいいいいいいいい!!!!!!!!」
第六層ならいえーぷってなってる。物凄い上昇速度だ。
流石にバリバリの塩酸である胃液の中に生身で突入するほどマゾではないので、『マジックガード』で作ったボールに入っている。
アルカリ性の物質で中和することも考えたのだが、「逆流性食道炎を防ぎたかったらガムを噛んで唾液(アルカリ性)を出せ」と言われるように、今の状況的にはよろしくない。
それにしても物凄く長い。流石ドラゴンというべきか、体内も物凄くデカイ。そもそもいくら小さめとはいえ人一人が余裕で流れることが出来るくらい食道が広いってなんだ。
と思っていたら、急にがくんと壁にあたって曲がる。
(あ、もう口の中か。)
流石にゲロを吐きながらブレスを吐くなんて器用な芸当は出来ないようだ。
つまり、鬼門突破。
「FOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」
「orrrrrrrrrrrrr」
俺はドラゴンの体内から脱出した。




