361話 対魔王軍作戦 5
「死ねええええええ!!!!」
「ゴフッ!」
一転、冒険者達が反撃を開始する。
「オラァ!」
その支えとなっているのは邪神の加護を発動したギルマス。
10メートル以上ある血まみれの両手を振り回し、敵を近づかせない。
だが、総崩れになるのを防いだだけで負傷者が止まらない。
「グフッ………!」
長時間湧き出した魔力をそのまま『ヘイレン』に回したせいで魔力酔いが段々と負担になってきた。
ギルとシュウに運ばれているのだが、それによる酔いも中々に厳しい。
「ロイド、吐きそうなら出しちまった方が楽だぜ!」
「おろろろろろろろろ。」
ギルに言われて全部吐き出す。
「うわっ、きったねえ!」
「余裕あるなお前!」
偶々ギルマスの横を通っていたため悪態をつかれる。
「ねえよ!奴ら、魔力探知能力が高すぎてロクに魔法の援護射撃が効かねえ!このままじゃ俺が倒れて終わりだぞ!なんか考えろ!」
「んな無茶な!ずっと魔力切れで頭がクラクラすんだよ!」
「よしわかった!お前ら!怪我すんな!」
「「「らじゃあああああああああ!!!!!!!」」」
訳がわからないが、みんなが防御に入る。
これは、本気で俺に考えさせようとしているのか。
「意表を付けばいいんだな!?」
「そうだ!ただし大掛かりな魔法は全部防がれるぞ!」
『エクスカリバー』は無理っぽいな。となると、爆薬………こんな乱戦で使えるかって話だ。120%誰かを巻き込む。
なら、翼持ちに有効な『カルト・フリーズ』をやるか。
『ストロム・ベルジュ』を近くにいた魔人の翼付近に形成。
「『マジックガード』!」
「くそっ!」
何事もなく普通に防がれる。とんでもない魔力への反射だ。流石最強種族魔人。
こうなると、俺の手札は限られる。
ナトリウム、却下だあっちは空を飛んでるんだぞ。魔腕、火力が足りんわ。風闘法、なんで俺が肉弾戦しかけるんだ。
だからこそ、全く別のアプローチが必要になる。
例えば、防ぎようのない攻撃。空を飛ぶ相手に有効な攻撃。それでいて、何が起きたかわからせない攻撃。
………あるぞ。
ただ、それは俺一人では実現できない。
水属性の魔法使いの助けが必要だ。それも強力な。
となれば、俺の周りには一人しかいない。
「先生!手伝ってくれ!」
「なるほど、つまりそういうことだね?僕はなにをすればいい?」
「…………!」
本当に、この人は察しが良い。もしくは頭の回転が異常、というべきか。
「先生、魔王軍の頭上に大雨を降らすことは可能か?」
「うーん、僕だけじゃあ無理だね。」
魔力の効率にかけては右に出るものがいない先生が無理なら、大体の人は無理になる。
水の生成量ならAランクだって先生には勝てないからだ。
俺自身Bランク上がりたてほやほやなので、俺の友人は専ら中位冒険者。面識ないやつにいきなり「魔力尽きるまで雨降らして^q^」なんて言ってうまくいく訳がない。
うーむ、と頭を悩ませる俺と先生の背後から、聞き慣れた声がした。
「おい、ロイド。なんか思いついたようだな。俺にも手伝わせろ。」
「マジで………!?」
声の主は『最強の魔術師』。協力を仰げるなら最高の相手だ。
「過程はなんでもいい。お前の策は何をもたらす?」
「魔王軍を凍らせる。」
俺が即答すると、『最強の魔術師』が笑みを深めた。
「何をすればいい?」
「俺達を包囲している魔王軍の頭上に大雨を。」
「よしきた。時にお前、Bランクの『節約魔術師』だな?
なら俺達二人で足りるはずだ。呪文詠唱に入るぞ。」
「は、はい!」
先生は『最強の魔術師』と初めて対面したからか、緊張した面持ちだ。
だが、その呪文には狂いはない。勿論、もう片方もだ。
そして、呪文は最終詠唱へ。
「「――――曇天に酔え、『パルジャニヤの慈愛』!」
急に、それまで雲一つない快晴だった空に、ドーナツ状の巨大な雲ができた。
形はあれだ、まさに積乱雲と言った感じ。
直後、ザッと雨が降り注ぐ。
「なんだこれ!器用すぎんだろ!」
あまりにも綺麗に魔王軍にばかり降り注ぐため、冒険者の一人が声を上げる。
「そういう魔法だからな。それよりロイド、これでいいのか?」
「最高だ。」
本当に、最高だ。こんなスコールでなら、きっと上手くいくはず。
俺は半分祈りながら魔法を詠唱。
使う魔力量はほんの少し。魔人からすればありんこみたいなものだ。それだけで、このただ雨を降らすだけの魔法を激変させられる。
「『アース・ホール』!」
俺が認識できる範囲雨の中全域に無色の物体が精製され始める。
その直後。
「なにッ………!?」
飛んでいた魔人が落下。一人残らず地面とキスする。
それだけではない。雨にあたっていた敵全員に、霜がこびりついて動きを鈍らせた。
「今だ、やれッ!!!!!」
「「「おっほおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」
瞬間冷凍パック、というものがある。
殴ると瞬間的に冷え、水だって氷にできる代物。某密林で買うとお買い得でオススメなあれだ。
その正体は、吸熱反応という化学反応。その中でも、今回採用したのは硝酸アンモニウムと水による反応。
この2つは、触れると一瞬で周りの熱を奪い去る、つまり周りの温度を著しく下げるのだ。
瞬間冷凍パックも、内部に袋があり、そこに水が入っているわけだ。だから殴れば袋が破裂して水と硝酸アンモニウムが反応して温度を下げる。
「さみいいいいいいいいいい!」
「吠えろおおおおおお!体が温まるぞ!!!!!!」
本来であればここまで温度は下がらないが、今回は量が量。
本当は同じ量で4倍温度を下げられる水蒸気と赤熱したコークスが良かったのだが、後者がどうしようもない。ともあれ、だ。
「全軍、一時退却!」
「また逃げんのか玉無し野郎どもー!」
「明日だ!明日を楽しみに待ってろクソがああああああああああ!!!!!!!」
「小悪党くせーな!まあいっか。
お前ら、勝鬨だ!勝鬨を上げろ!」
「酒だ!」
「肉だ!」
「女だ!」
「「「フォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」」」
俺史上最高の逆転だな、これ。
久々のエセ科学です。




