359話 対魔王軍作戦 3
「「「うおおおおおおおおお!!!!!!」」」
「「「GYAAAAAAAAAAA!!!!」」」
悲しいかな、さながら漫画の1ページのように分断されたモンスターが壊滅する。戦闘時間僅か15分。
俺達マジでいらねえなこれ。
「あっはははははははは!終わりか魔王軍!」
「やーい悔しかったら出てこーい!」
クレーターの向こう側から死ぬほど殺気が飛んできてるのだが、そんなことはお構いなしのようだ。
というかだ、今回全国から上級冒険者を集めたわけだけど………冒険者って皆こんな感じなのか………。
「ぎゃはははははは!どーした玉無し共ー!来れるもんなら来てみろやーい!!!!」
『黙っておけばピーチクパーチク抜かしおって!!!!!!!』
ほら、一人噴火しちゃったじゃねえか………。
轟くような怒声を上げたその男は、勢い良くクレーターの上を飛び越そうとする。
「あっ!一人引っかかったぞ!」
「やれやれー!」
冒険者共がそういった瞬間、いきなり魔人がクレーターの上でふらつく。
「『金剛一通』!」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!」
すかさず弓使いの冒険者が超火力で撃ち抜く。
羽を綺麗に撃ち抜かれた魔人は、そのままクレーターの中へとポトリ。
落ちた瞬間、魔人の体がプスプスと音を立てる。
「あづい゛!あづい゛!」
「な、なんだあれ………。」
クレーターの中でのたうち回る魔人を見て、思わず呟く。
すると、すぐ隣りにいた魔法使いが教えてくれた。
「知らないのか少年。我らが魔法都市の長の大魔法は常に二段階。見た目ではわからぬが並の者では到底耐えきれない熱量を発しているのだよ。」
「じゃあ、あいつらが追ってこないのも………。」
「バレているからであろうな。『マジックサーチャー』を使えばわかるが、未だに強力な火属性魔力が残留している。」
試しに『リュミエール・シーカー』を使うと、本当に強大な火属性魔力が残留していた。ってことは、あの男は出そうと思えばもっと火力が出せるわけか。今回のは地の利を得ることで敵を安全に削ろう、という作戦………。
「マジか………。やるなああの男………!」
「そうであろう。あの方を世に排出できたことが魔法都市の誇りだ。」
今回、作戦の立案は殆どあの男がしたという。
つまりだ、自分で作戦を建て自分作戦一人で敢行。見事作戦はハマり――――――――
「見ろ、あいつら帰ってくぞ!」
「一昨日出直してきやがれ!」
「睨んでるだけで恥ずかしくねえのかこの根性なし!」
この圧勝。
意図していたのかどうかは知らないが圧倒的冒険者の節操の無さにより敵の挑発まで成功している。同時にこちらも大分調子に乗っているが………多分後でシメるのだろう、空気を。
「よーし、こっちも撤退だ!」
「ほーい!!!」
「酒だ!」
「肉だ!」
「女だ!」
「それは難しそうだ!」
ギルマスの号令とともに勝鬨である。誰がなんと言おうと勝鬨である。
そのままズドドドドドと街の中になだれ込もうとした彼らは、無情にも固く閉じられた門によって防がれた。
「おい、どういうことだ!」
「いい気分のまま酒を飲ませろ馬鹿野郎!」
「ぶち破ってやろうか!?」
口々に喚く冒険者の前に、門の上から魔道具で拡張された声が響く。
「馬鹿野郎はお前らだ。このクレーターは後一時間で効果が切れる。つまり敵は攻め放題だぞ。
そんな時に街のど真ん中で酒でも飲んでみろ、お陀仏だ。」
声の主は『最強の魔術師』。至って冷静に説明する。
「飲みたい時に飲めない!そんなんで俺達冒険者が納得すると思ってんのか!」
「とりあえず腹が減ったんだよ!飯よこせ!」
「私たちはレミュニュレーションとディフィカルティのハーモニィでコンシストされているオキュペイションであるぞ!たかが酒一つケチって私達のモウティヴェイションがメインテインできると思っているのか!」
「もーちべーしょんだ!」
「でふかるてーだ!」
正直俺もよくわかんない………。
非難の嵐に晒される中、『最強の魔術師』は話を続ける。
「勿論、腹ごしらえは大事だ。酒もお前らアル中には欠かせないだろう。だが、それと同時に敵がいつせめて来るかわからない。あちらには食事がほとんど必要ないからな。
そこでだ、俺は集めうる限りの『アンチポイズン』使いを揃えた。
今から俺の魔法が切れるまでの1時間!この場で祝宴を開く!酒も飯も全部用意済みだ!死ぬほど食って死ぬほど戦え!」
「「「おっほおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」
門が開き、中から大量のお盆、樽が出てくる。
空気は一転し、皆有頂天となった。
とんでもない大判振る舞いである。俺達冒険者に全力を出させたい、という思いがビンビン伝わってきた。
(それだけこの戦いに全てを注いでいる、ということか………!)
ギルドの本気ぶりに俺は戦慄しながら、でっかい鳥の丸焼きに手を伸ばす。
そして、その手をパシッと握られた。
「えっ。」
「ロイドはこっちだよ。」
後ろを振り向くと、黒い笑顔の先生がいた。
彼が指差す方向を見ると、そこには見知った顔がいっぱいいた。そして、よくよく考えるとみな『アンチポイズン』の使い手である。
「あっ………。」
「そういうこと。さあ、僕らはあっちに行こうか………。」
「嫌だああああああああああ!!!?????」
俺の絶叫は、喧騒に包まれて虚しく消えた。




