356話 スラム街制圧作戦 14
あの後、俺は勝手に話をまとめたことについて説教の一つでも貰うかなとビクビクしていたのだが、不思議な事に一つもなかった。
全部俺個人で金を出したからだろうか。だとしたらなんとも現金な奴らだな………。
「さて、長かった戦い、そして自由に乾杯!」
「「「うぇーい!!!!!」」」
その傍ら、リーダーたちは酒盛りに乗じ始めた。
今回は戦勝記念で酒場に来たのだ。あまり娯楽がこの街はない、というか大体貴族向けなのでこっちに来たのだ。ドレスコードがうんたらとか言われても俺はわからんしな。
いや、魔王軍との戦いはこれからなんだけど………とりあえず、スラムでの戦いは終わったのだ。
色々心が揺さぶられたが、結果良ければ全て良し。そういうことにしておこう。
「っておい!子供に酒はよくねえぞ!」
「そんな硬いこと言うなって!ほらお前も飲め飲め!」
「いやだ!俺は絶対酒は飲まねえぞ!」
何自分が口走るかわかんないしな!
「おー、楽しそうなことしてんじゃん!俺も混ぜてくれー!」
ここで何故かギルマスが参戦。
「なんでいんの!?」
「さっき着いたんだけどよ、道中で飲み尽くしちゃって体が酒を欲していたんだ。そしたらいい匂いがな!流石俺の鼻!」
ほんとロクでもないぞこの男。と思ったら、後ろには美女の群れが………マジ?こいつこんなところにまで連れてきてんのか………。
「お、もしかしてアレか?お前らロイドの昔の仲間か!よーし、これも何かの縁だな!金は全部俺持ちだ!」
「「「おおおおおおおお!!!!!」
「きゃー!シュルド様ったら太っ腹!」
「ぬははははははは!!!!!マスター!悪いけど大騒ぎさせてもらうぜ!出せるもん全部出してもらおうか!」
そう言って、ギルマスは金貨が詰まった袋をゴーシュート。
それまで腕与しながら突っ立っていたマスターも、その投げつけられた袋の中身を見て固まる。
一瞬間を置いて、超エキサイティンな気分になったらしく笑顔で樽をどんどん運び始めた。
「おおー、結構な量あるじゃねえか!これは到着記念かつ戦勝祈願といこう!」
ギルマスは満足気な笑みを浮かべて窓から首を出す。そして一息吸うとーーーーー
「お前らあああああああ!!!!!!戦勝祈願だッ!!!タダだから飲みにこおおおおおおい!!!!」
(あっオワタ……………。)
人のおごりほど美味いものはない、という言葉がある。結果として、アホが一杯猛牛の如く飛んできた。5体だ。仮にも上位冒険者とあろうものが、なんてザマなのだ。
「おい!今の話マジだろうな!?」
「慣れてねえもんでどこで飲めばいいのかもわからなかったんだ!」
「ありがてえ!」
こんなものに付き合ってられるかと俺がこっそり抜け出そうとすると、ギルマスに腕を掴まれた。
「おいロイド、いい活躍したらしいじゃねえか。二週間足らずでスラムを沈静化だろ?よくやった、お前には特別にワインのプレゼントだっ!」
「へぶっ!?かけるな勿体無い!」
「じゃあ飲めばいいだろ!」
「ぎゃあああああああ!!!!!!」
なんだこれきっつい!ワインって飲みやすいんじゃないの!?あれ、何か意識が遠のいて………。
「昼間から何やってんだお前ら?」
「「「ごめんなさい。」」」
近隣の住民から通報があったらしく、俺達は正座させられる羽目となった。
というか記憶がないんだが………。
そしてもはや『最強の魔法使い』がオカンの立ち位置と化している。最近はクソギルマスが率先して騒ぐから言えるやつが少ないんだよなぁ………グランさんは足が悪くてこっちまで来れてないし。
「兎に角、早ければ明後日には攻めてくる算段なんだ。それにいつあの繭のテレポートがくるかわからないんだぞ。もし町中に出現してしまえば、俺達が止めなきゃいけない。そんな時に酔ってたらどうするつもりだ?」
「俺は酒で潰れてても戦えるぜ!」
ギルマスが笑顔でサムズアップするが、無詠唱の魔法一つで地面にめり込んだ。
「お前は頭を使う必要がないからな。黙っとけ。」
「酷い………実際大丈夫なのに………。」
「じゃあ人に勧めるな。ロイドとか未だに目が虚ろだぞ。」
目が虚ろ………?確かになんか頭がぼーっとするな………。あれ………。
「うわああああああ!ロイド、起きて!死なないで!」
「ぐべっ!?な、なんだ?頭が重いぞ………。」
焦った顔をしたシュウに揺さぶられる。自分の頭に『ヘイレン』をかけてると、頭の重みが飛んでいった。
そして、ついさっきの記憶が少しずつ戻っていく。酒をどばーっと喉に流された結果、俺は泡を吹いて気絶したのだった。
「…………もう酒は懲り懲りだ。」
「おう、その調子だ。」
「というかこれ最悪命に関わってたよな………。」
「だから今死にかけたんだな!」
直後、ギルマスの姿が地上から消えた。




