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355話 スラム街制圧作戦 13

ガンガン!


「おい!いるのはわかってんだぞ!出てこい!」


太陽が照りつける中、俺達が襲撃する予定だった本部憲兵が怒鳴りながら蹴りつける。


「近日お前らを困らせてた連中をとっ捕まえたぞ!ちょっと話があるから開けろ!」


そう、我々は捕まった。憲兵に。

冒険者側からも話を通してもらって、憲兵にとっ捕まることにしたのだ。

先に説明しておくと、この作戦は俺達を出汁にギャング共と話し合おう、というもの。あまり襲撃での勝機が見いだせない以上、俺達は方針を転換する必要があったのだ。


「あーくそ!てめーら上から覗いてんのはわかってんだぞ!見えるだろ、こいつらもバッチリ縛ってるし!」


「だ、団長、落ち着いて………奥様と喧嘩されたのはわかりますが………。」


(ごめん………。)


なんともめんどくさい任務に駆り出してしまった。

というかやっぱり警戒されるのかぁ。冒険者に同じことをやってもらうことも考えたんだけど、対魔王軍を考えると負担がかけられないし、なんかしら確執ができると不味いと思ってやめといたんだけどなぁ。

憲兵相手なら何されても文句言えない………的なのを期待していたんだが。


「あーくそ!いいのか!こいつら解放すっぞ!おい!1分待つぞー、いー、にー、さーん、よーん。」


というか団長がこんな荒くれだとは思ってなかった。

一応俺達の解放を条件として使っていいとは言ったが…………まあいいや。上手く行けばなんだっていいや。


ありがたいことに団長の脅しは効力を発揮したらしく、上からひらひらと紙が落ちてくる。

団長はそれを拾って一瞥するなり、付き添い20人の憲兵に向けて呼びかける。


「ライム、ヘイズ、ガルムはそこのちびを連れてついてこい。」


「4人で大丈夫っすかね?」


「4人とそいつだけ連れて来いと言われた。なんかあればそこのちびを解放すれば何とかなるだろうな。」


「なりやすかねぇ………Bランク以上の冒険者が化物揃いってえのはよく聞きやすが。」


んな事言われても俺今両手縛られて猿轡はめられてるんだが。流石にアダマンチウムはないようなので実は魔法が使い放題………あれ、逆にこれは潜入するチャンス………いややめとこう。素直に交渉まとめてぱっぱと解決したい。

悪魔の囁きを振り払い、俺は4人組に黙ってついていく。そもそも喋れないがな。


前回は上から侵入したが、今回は下から堂々と入っていくことができた。

スラムの建物としては中々の広さを誇るこの拠点だが、結構中はボロボロ、人っ気は殆ど無い。

勿論誰もいない、というわけではなく『リュミエール・シーカー』にはビンビン引っかかっている。


「こうやって中に入るのは初めてだな。」


団長は少し興味深げに周りを見渡す。

そのまま階段まで近づくと、そこにはスラムに住む者にしては体つきのいい男がいた。


「ロキ様は3階でお待ちだ。」


そういうと、くるりと踵を返して階段を登り始めた。

ついてこい、というメッセージを受け取った俺達は素直についていく。

わお、俺が破壊した壁だ。日光が眩しいね。


そのまま俺達が発見した会議室へ。やはり正しかったか、俺の見立ては。


「粗相のないように。」


ギイイ、と扉が開くと、そこには20歳ほどの男がいた。

後ろには武装した10人ほどの男たち。


「よう、初めましてだな、戯神ロキ。今日は大事なお話をしに来たんだ。」


だが、その程度では威圧すらされないようだ。団長は不敵な笑みを浮かべたまま語りかける。


「余計な前座はいい。さっさと要件を話せ!」


それに対して、戯神ロキは少しお怒り気味な様子。


「お前、面白くねーやつだな………。まあいい、それはおいとくとしよう。

俺達の要求はただ一つ。これから続々と冒険者がこの街に入ってくるからよ、スラムから手出しするやつが現れないように統制してくれってえことだけなんだわ。」


「どうせそんなことだろうと思った!くそ、冒険者がやっぱり絡んでいたか!」


「………なに?」


戯神ロキの言葉に、団長の声が思わず低くなる。

やっぱり………バレてるか。


「こいつらの仲間を一人拉致ったらよお、ベラベラと話してくれたんだわ。断固拒否だ。めんどいしどうせリターンもしょぼいしよ。」


小馬鹿にしたようにロキが語る。

そっかぁ………。やっぱこっちの内情は筒抜けかぁ。

うーん、なら次のプランで行くしかない。俺が魔腕でつんつん団長を叩くと、どうやらあちらは察してくれたようだ。


「おいおい、俺だってどんくらいめんどいかくらいはわかってんだよ。ただとは言わねー。」


「そうかそうか、聞くだけ聞いといたるわ。」


完全にバカにしてやがる。


「よーし黙って聞いてろ?俺達がよ、このスラムを改善してやるわ。」


「は?」


こちらの斜め上の回答にロキの目が点になる。

こっから先は俺も聞かされていない。冒険者ギルドと話し合ったらしいが………。


「まずは水回りから改善していく。ここの水最悪だからな。次に近辺の掃除。更に上からも金を出して貰って公共の施設を増やしていく。この土地の価値を上げて高所得者を入れていく、ってわけだな。治安も改善、環境も整うし、悪くないだろ?」


(………は?)


語られた内容に、思わず目が点になる。

確かに今語られた内容はジェントリフィケーション、という手法的なものだ。スラム解消の1手としては非常に有効だ。有効なのだが……………マジで言ってんのかこいつら。


「マジで言ってんのか、おめえ?」


同じことを思ったようだ。というか、上はこんな方法でこいつらの協力を得られるとでも思ったのか。ちょっと考えればわかるだろうが。


「それじゃあ俺達は逆に損してんじゃねえか!」


「は?良くなってるだろ。病気は減るし盗みとかだってする必要がなくなるんだぞ。」


「ほんっとうにおめでたい頭だな!んなもん俺達が追い出されるだけじゃねえか!しかもな、ゴミってのはスラムでは大事な収入源なんだよ!なんもわかってねえ!誰がてめえらなんかに協力するか!おい、こいつらを追い出せ!こんな馬鹿馬鹿しい話ししてられっか!?」


あ、まずい。

ってか本当にわからんのか。くそ、団長もなんで困惑顔なんだ。お前らの考えるスラム改善とあいつらにとってのスラム改善はどう考えたって別もんだろうが!


ふつふつと怒りが湧いてきた所で、ふいに俺の頭の中でガゴン、と音がなった。


(……………あ。)


熱くなっていた頭が、冷静さを取り戻す。

今やるべきことはキレることじゃない、この状況を打破することだ。


俺は猿轡を魔腕で引きちぎる。目の前の男どもが武器を構えるが、無視だ。


「おい、ロキ。こちらの条件を変更させてもらおう。」


後ろの憲兵たちは、状況が飲み込めないのか止まったままだ。今のうちに畳み掛けさせてもらおう。


「今まで散々めちゃくちゃにしやがってよ、今更なんだ?」


聞く気はあるみたいだな。


「条件は3つ。

1に、俺達は襲撃をやめる。

2に、ここにでっけえ農地を拵える。

3に、その土地の所有権をお前らに渡す。」


指を三本立ててみるが、ロキの目は変わらない。


「おい、なんも良くなってねえじゃねえか。畑一個で喜べと?舐めてんのか!」


「アホか、これもスラム改善の一歩だぞ。冒険者ギルドから栽培のノウハウを持った奴を向かわせる。俺個人からだが、最初の一年は金も出す。でっけえ農地を作れば人手も必要になるだろ?その金でスラムで雇用を発生させるんだ。」


「そんなうまくいく訳がねえだろ。農業がどんだけ難しいかわかってねえな、お前。まずこんなところで始めちゃあ荒らされまくるわ。」


「お前こそ鈍すぎるわ。スラムは農村出身が多いことくらいわかってんだろうが。それに、お前らの構えてるその武器はなんのためにある!?」


スラムというものの形成を考えればわかることだが、スラムは食いっぱぐれた農村の若者がとりあえず都市に来ていたって奴が大部分だ。魔力持ちで捨て子とかも勿論いるがな。

だが、それでもロキを食い下がらない。


「何年かかると思ってんだ?」


「何年こんな生活を続けるつもりなんだ?」


「………ッ!」


表情が変わる。当たり前だが、こんなクソみたいな生活を続けたいなんて持ってるやつはいない。


「大丈夫だ、俺はこれでも発明王。金なら腐るほどある。資金の心配はねえぞ。畑だってここの10倍は準備できらあ。」


騙されて毟り取られるかもしれないけどな………。


「………要は冒険者に手出しさせなければいいんだな?」


ロキがぼそっと呟く。

俺は笑いが零れそうになるのを堪えながら真顔で答える。


「そうだ。」


「……よし、乗ろう。ただし、この誓約書に血判を押しな。」


そう言うと、ロキは手早く懐から紙を取り出し、羽ペンでサラサラと書き込んだ上で俺に見せる。

こいつはそこそこ教養があるようだな。

俺はじーっと内容を読み、問題がないことを確認した。


「おっけー。交渉成立だ。頼むぜ、ロキ?」


小型ナイフを使って血判を押し、俺はそのままサムズアップ。


「ああ。………もし裏切ったら命はないと思え。」


「お前らが失敗しなけりゃ裏切らねえよ。」


これ以上話すとまずい。相手がうまく説き伏せられた今のうちに退散しなければ。


「じゃ、団長、戻るぞ。」


「あ、ああ。そうだな。」


ようやく硬直から戻ったようだ。

俺は、大きな達成感に包まれながら拠点を後にした。

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