354話 スラム街制圧作戦 12
とんでもない緊急事態を前に、俺達は再び会議を開いた。
「裏切りも考えたほうがいいか。」
重々しくリーダーが口を開いた。
「裏切ってようと裏切ってなかろうと情報はダダ漏れだろうな。命と引き換えにみんなを守る、みたいな男だったのか?」
「いや、マルザをそんなんでもねえな。あいつは年も食ってるし最近来たばっかだったし。
なんにせよ、俺達は2つのことをしなくちゃあならない。
1にここを離れること、2に計画の練り直しだ。」
見張りが捕まっているのだからどう足掻いてもここはバレているだろう。ここに留まっていれば碌でもない目に会うに違いない。
「なら行動は迅速にしたほうがいいな。昼動くのは避けたいし、今のうちに移動してしまおう。勿論アテはあるんだよな?」
「当たり前だ。それとロイド、みんなこれ以上起きたままにするのは明日からの動きに支障が出る。場所を教えるから『マジック・ガード』でみんなを運べないか?一応俺達もおぶってくけどよ。」
「り、リーダー!大丈夫だよ、まだ起きれる!」
「今無理するのはよしてくれ。お前らは貴重な戦力なんだ。然るべきときに力を発揮できないほうが俺達にとってはきつい。」
「でも!」
「ウィル、頼んだ。」
「うん。我が水の力よ、集いて彼の者を眠りへと誘え『スリープ』!」
『スリープ』は眠いやつには容赦なく刺さる。体力的に限界が来ていたちびっ子達はことごとく沈黙した。
そんな彼らを『マジックガード』に乗せ、年長組はちびっこ達をおぶる。
「それじゃ、いくぞ。」
「「「了解!!!」」」
俺達は長年苦楽をともにした基地を後にした。
「それでだ、明日からの計画も俺達は建てる必要がある。」
「ああ。今日までの計画は全部あちらにバレてるだろうしな。」
全員の意思を統一するために全員に詳細まで計画を伝えておいたのだが、それが裏目に出たか。
「けどさ、元々僕達の取れる手段は少ないんだから修正は難しいよ。」
先生の言うとおり、もう俺達にはこのゲリラ性能に頼る以外手段が残されていないのだ。
「相手が待ち伏せしてるところに突っ込むのも馬鹿馬鹿しいしなぁ。」
「なあロイド、俺達は何をしたら目標達成なんだ?」
「そうだなギル、わかりやすいところで言えば俺達がギャング共のトップの首をチョンパ、だな。後は俺達が逃げ回るだけでスラム内はゴッチャゴチャよ。」
「じゃあ簡単じゃね?今から乗り込んで首チョンパすればいいじゃねえか。で逃走だ!」
「何………?」
いや無理だろ。いやちょっと待てよ。
「………案外行けるのか………?」
「いけた、だな。元々の計画でも本部襲撃は明日だった。けどな、今この基地を移動したばかりの状態で犠牲なしに突破できるとは到底思えねえ。何より俺達が万全の状態じゃなければ無理だ。」
リーダーはそう言って深い溜め息をつく。地図とかの大事なものは大体詰めてきたんだがな。やっぱり俺達主力が動きにくいのは厳しいか。この会議自体も早めに仕上げなければいけないのだ。睡眠不足は今は俺達にとって致命傷になり得てしまう。
「あ、じゃあ、こういうのはどうだろう?今外にいるメンバーに手伝ってもらうんだよ。真正面から上位の冒険者でガッツリ行って、裏から機動力に長けたチームで刺す。」
シュウの提案も、リーダーはいい顔をしない。
「冒険者ががっつり絡むってのはあんまし良くねえぞ。これであっちがやるかやられるかって感じになれば肝心の対魔王軍の時が危ない。今ならこの状態は『いつも敵対している孤児共が凶暴化して襲い掛かってきやがった』で済むが、これが冒険者でしかも理不尽なゴリ押しをするとあまりの理不尽さに復讐心を抱くだろうな。」
これこそまさにスラムの厄介さだ。力押しでギャングだけ潰そうとしても、ただ散るだけで他のグループが大きくなるだけ。しかも今攻撃してしまえば冒険者による『予防』の攻撃にしかならないから、あちらも決死の覚悟を決めてしまう。『懲罰』だとか『忠告』だとかの意味合いがなければいけないのだ。
「じゃあどうするの?もう冒険者の動きだって不自然に見えてる頃だろうし、実際に被害が及び始めるのも時間の問題だ。今は僕達にかかりきりになっているけど、元々取れる手段のなかった僕達が更に制限されるとなれば、明日には宿屋にこそ泥が入ったっておかしくないよ。」
シュウの言うとおり、このままでは被害が出まくるだけ。どうにかしなきゃいけないんだが、どうにもこうにも…………ん?
「こうなりゃ捨て身覚悟で本部乗り込むか?一応明日は他の拠点4つが重点的に守られるだろうし、もしかしたらそれで本部が手薄かも知れねえ………けど相手はあのめんどいロキだぞ。」
「リーダー。」
「ん?」
「パッパと捕まっちまおう。それで行ける。」
「「「へっ?」」」
みんなのマヌケな声が響いた。




