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350話 スラム街制圧作戦 8

部屋の一つに入ったリーダーは、物凄く焦っていた。

俺の袖を掴み椅子があるにも関わらず、立ったまま質問する。


「………紋章は?」


ズイッと左手の袖を捲くる。相変わらず禍々しさと美しさを足して二で割ったような見た目である。


「左腕全体………けど、主導権は失ってないな。よかった。」


リーダーはそう言うと、上着を脱いで右肩を見せる。そこには幾何学的な紋章があった。


「………なるほどな、やっぱりあの巨人は五大獣か。」


「ああ。正確には巨人ヨトゥン。土属性を司っている。五大獣と魔王の関係は知っているか?」


「フレースヴェルグに聞いたよ。」


「何!?あいつとも接触できたのか!?」


俺がカナルについて語ると、リーダーはうーんと唸った。


「ヨトゥンはあいつ(フレースヴェルグ)は自由奔放だと言ってたんだがなぁ………そうか、宿主を見つけたか。」


「そんなにヨトゥンは教えてくれるのか?」


こっちの吸血鬼は何も言わないよ。戦闘狂なのは知ってるけど。


「15年の付き合いだ。ぽつぽつと教えてくれるわけだよ。ヨトゥン曰く真祖吸血鬼は『吸収能力』全てを奪われて飢えに飢えていたはずだが………。」


「俺の魔力回復量がクソ高いおかげでそれだけで補給できているらしい。」


「なるほど、そう考えるとお前は最高の素体だな。真祖吸血鬼がおとなしくしているのも頷ける。」


「素体って………。いやまあそんなもんだけど。

ところで、リーダーがここに留まっている理由もヨトゥンが原因か?」


「察しが良いな。ヨトゥンが奪われたものは『住処』。今の魔王城は元々ヨトゥンの家なんだ。

そのせいで安住の土地がなければ暴走してしまうらしくてな、俺の中に封印されるときの条件が「この街から出ない」になった訳だ。」


「因みに、どこで出会ったんだ?俺は吸血鬼の洞窟だったんだが。」


「冒険者が小さい頃の俺の目の前で行き倒れになっててな。そいつの上着を取ってトンズラしようとしたらヨトゥンの声が響いたんだ。『力が欲しくないか?』とな。」


なるほど、恐らくその冒険者は吸血鬼の洞窟のような五大獣の封印されているダンジョンで会ったのだろう。その後、紆余曲折があってリーダーの目の前でバッタリ逝った訳だ。


「まあ、俺の話はどうでもいいんだ。お前の無事がわかってよかったわ。」


リーダーはそう言って俺の頭をガシガシと撫でる。

俺は何か言おうとして、はたと急に気がついてしまった。

俺の予定では、ここでの戦いが終わった後、ここにいる全員に城塞都市での職を持たせることが決定していた。


(じゃあ、リーダーはどうなる?)


リーダーはここから離れられない。けど、指名手配されてる以上俺はここでは何もできない。


「ん?ロイド、どうした?眠いのか?」


急に黙り込んだ俺を、リーダーが気遣う。


「あ、うん、そんなとこ。」


「そうか、お前に言うのもなんだが睡眠不足は後に響くからな、しっかり寝とけ。」


そうだ、明日も俺には潜入が待っているのだ。ちびっこ4人の命も預かっているし、集中力不足で望む訳にはいかない。


「んじゃ、お言葉に甘えて。リーダーもしっかり寝てくれよ?今リーダーに倒れられるとみんなが困る。」


「わかってらあ。俺は自分の限界はわかってるつもりだ。じゃあな。」


俺は自分の部屋に寝袋とともに戻った。
























「ふいー、余裕余裕!」


次の夜、俺達は再度別の支部を襲撃した。『リフレクトハイド』が最強すぎてヌルゲーだった。

あちらは何がなんだかわからないまま爆弾で建物をボッコボコにされ、そこにいたものは倒壊を恐れて叫びながら外に飛び出る始末。

こういう妖術っぽいほうが人をパニックに陥れられる気がする。


「大佐!ぜーいん無事です!」


「ご苦労!敗北を知りたいな!」


今回のような少人数程度なら簡単に潰せることもわかった。

残る拠点は12個。小さいものなら一晩で2つはいけるぞ。


「それじゃ戻ろうか。いつまでもここに留まって見つかると不味い。」


「「「アイアイサー!」」」


こういう声もしっかり潜めながら言う辺りこいつらも中々のプロである。

寧ろ魔法なしの隠密行動なら俺はこいつらの20倍位しょぼい自信がある。リーダーもこういうところまで考えて選んでくれたのだろうか。だとしたら流石としか言いようがない。


『ウィンド・ブースト』を全員にかけていたので、すぐに基地のそばにたどり着く。


「………?何かおかしくね?」


最初に先頭を走っていた俺が異変に気がついた。


「すごく静か?」

「人影がまったくないよ!」


続いて、ちびっ子も異変に気づく。

そう、基地がやけに人気がなかったのだ。いくら隠れているとはいえ、この場所に慣れている俺達からすれば人気の有無くらいは判別がつく。

不穏な空気を感じ取った俺が、『リフレクトハイド』を全員にかけようとした所で、背後から誰かに背中を突付かれた。


「………ッ!」


瞬間的に魔手装甲を纏う。急いで振り向きながら距離を取ると、そこには見慣れた顔が。


「なんだ、シュウか。」


「ロイド、シッ……!どこで感づいたのかわからないけど、スラムの住民がここらを今うろちょろしてるんだよ。どこでもいいからとりあえず隠れて!」


「なんだと………!?」


言いながら、ちびっ子を手招きで寄せて『リフレクトハイド』を発現する。


あたりを見渡せば、確かに人の気配がしないでもない。人数が少ないのもあるだろうが、ここまで気配を消しつつ動けるとなると相手はそこそこの手練だと言わざるを得ない。


(なにやら不味いことになってきたな………。)


俺の中から、さっきまでのウキウキ気分がどっかに消えた。


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