344話 スラム街制圧作戦 2
「さて。」
翌朝。俺達は懐かしのクロップスを眼下に、丘の上に立っていた。
「まずは第一ステップ、潜入だね。」
俺達はあそこの警備兵には大分お世話になっている。会った瞬間懐かしみを覚えながら肩を組んでそのまま牢屋行きだ。間違いない。
という訳で、俺達は門番に見られずにはいる必要がある。それも一気に20人。
とか言っといてなんだが、もう潜入作戦は出来上がっている。失敗もないだろう。後は実行するだけ。
「よーし、やるぞー!」
俺が合図をかけると半数が地面に手をつく。孤児時代救われた魔法と言っても過言ではないだろう。
みんなの詠唱を待機して。
「「「『アース・ホール』!」」」
同時にトンネルを作成。
「ひやっほおおおおうううう!!!!!」
「あほぉ!声出したら疑われるだろうが!」
更に俺の『カルト・フリーズ』で生み出した氷でサーフィン。いいね、冷たいけど。
「あの場所ってどこらへんだったっけ!?」
「もうちょい進んだところじゃね?」
ココらへんでみんなの魔力が尽き始める。まぁ、俺の魔力はその点無限だからな。スピードは落ちるが支障はない。
――――――――――ボゴッ。
「おっ。」
「えっ?」
着いたか。
何年ぶりだろうか。忘れちゃったけど、まあいいや。
「久しぶり、キルト。」
「あれ、もしかしなくてもロイド~?しかも懐かしい顔ぶれじゃないか!うわぁ、お久しぶり~!」
そう、俺達の狙いは知り合いの中では最も情報を持っているであろう。キルトだ。誰だ?って人も多いかもしれない。
一言で言えば嘘を見抜く概念魔法を持つご隠居さんだ。地下に篭っている。
「それにしても、なんも変わってないみたいだな。」
俺は内装を見渡しながら言った。
「そういう君は変われたみたいで何よりだよ~。………甘さ、て言えば良いのかな。そういうのが減ったね。」
全てを見透かすような目だ。昔はなんも考えてなかったが………改めて見ると怖いね。
「さてと、じゃあ早速本題に入ってもらおうか~。ここまで来て何もないなんてことはないでしょ~?」
「ここからは僕が話そうか。実はかくかくしかじかでね………。」
「うーん、そうだね~。確かに興味深いし、中々に面白そうな話だとは思うよ~。だけどね――――」
ス、と俺の頭に指が乗る。
「――――――――無理だよ。」
「………やっぱりか。」
俺の何倍もここにいる男が言うのだ。まあ無理なんだろう。そこに異議を唱えるつもりはない。
「じゃあ少し話を変えたい。どこまでなら、やれる?」
「難しい話だね~。まあ、上手く行けば君たちの目標自体は達成できると思うよ~。」
「本当か!?」
「まあ、正直言って君たちは武力だけならこのスラムの誰よりも高いわけだからね~。つまり、この作戦に名前をつけるなら『斬首作戦』、ってところかな。」
「『斬首作戦』………。響きからするに、上層部の人間を暗殺するってところかな?」
「そうだね。単純に、急に上が空けばその座を狙ってスラム内で内乱が起こるわけだ。そうなればここはぜーんぶ戦場。誰がどこのスパイかわからない以上、サーチアンドデストロイ。血を血で争う結果となるだろうね~。
けど、こうすれば君たちには支障はなくなるだろうよ。力ない子供はみんな飢えて死ぬだろうから、スラムから出る人は確実に激減するね~。」
「そ、そうか………。因みにもっと穏便な方法とかは………。」
「上層部をかっさらって人質にして脅してスラムの外に出させないとか………でも、スラムでそんなものを守るようじゃ自分から餓死してるようなもんだよ~。」
「うーむ、でも死人は出したくないんだよなぁ………あまりッ!?」
俺がそう漏らした途端、キルトが俺の目をしゃがんで覗き込む。
「………うわぁ、嘘はついていないみたいだね~。ってことは、まだまだ甘いなぁ、君は。」
「な、なっ………!?」
「ここに住んでいたならわかっていたはずだよ~?スラムから人が出ないようにするってことは、どうやっても餓死者を出す、ってこと。まさか配給をやるなんて言わないよね?どれだけの人がここにいると思ってるのさ。それに、君たちは何も一日だけここに居るわけじゃない。
君たちはここで戦準備をして、戦って、しかもそれは多分一日じゃ終わらない。そのあと、負傷者に応急手当をしてそれで帰る。
君がどんなに財を得ていようと、これだけの飯は準備できないだろう?しかも、そんなものはここじゃ格好の火種だ。僕がそんなことはさせない。」
「……………ッ!」
その滑るような語り口に、俺達はただ黙って目を見開くばかり。
そんな俺達をみて、キルトの口調は戻った。
「うん、少し言い過ぎたかな~。でも、君達がやろうとしていることの残酷さってのはわかったと思う。
その上でだよ、君たち懐かしのリーダーがどこにいるかを教えてあげよう~!」
そう言ってキルトは地図を広げる。
「これは…………ッ!」
「そう、スラム全体の地図だね。その上で、僕が聞いたことを纏めて書いてあるのさ~。」
そして、地図の上をキルトの指がスルスルと動く。
「んで、ここだね~。君たちのリーダーが今暮らしている場所は。」
(……………ん?)
俺は、キルトが指差した位置を見て首をひねった。周りを見渡せば、他にも同じ反応をしている人がいる。
「………もしかして、俺が出た頃から場所が変わっていない?」
「え?あ、本当だ~。よほど上手く隠れているんだね~。」
これは面白い。ということは、俺が残した物ももしかしたら一杯残っているかもしれない。
(これは少し楽しみになってきたぞ………!)
さっきまでの暗い気持ちはどこへやら、俺は段々テンションが上がっていた。




