343話 スラム街制圧作戦 1
「それで、話というのはだな。」
いやね、この状況で俺に言うことなんて一つしか無いでしょ。
「スラムを纏めろと?」
俺が先回りすると、『最強の魔法使い』は目を見開いた。
「………そうか、わかるか。」
「この状況で俺に言いそうなことなんてこれくらいしかないだろ。」
「なら、可能か?」
これは即答だろ。
「無理だな。俺のいたグループだけだろう、動いてくれるのは。」
総勢恐らく多くて30人かそこら。多いと言えば多いが、スラム街の住人はその何十倍もある。こんなんでどうやって俺の財産だけでスラムをどうこうできるのか。
「………せめて来るのは、2週間後らしい。」
「え?」
「2週間、2週間でできるところまでやってくれ。」
「ちょちょちょ!?他になんかないのか!?」
どうやってやるかの検討すらつかないんだぞ!?
「………俺は貴族出身だぞ、スラム街のことなど微塵もわからん。大体会議でした話だって元は俺の運営している新聞局にいるスラム出身の男の話だ。」
「じゃあその男に頼めば………。いや、それなら俺のが良いのか。」
「そうだ。お前はクロップス出身だし、名前も知られているだろう。」
だからといってムリなものはムリだと思うのだが………。
「やってみるかな。」
「本当か!?」
「他に誰も居ないんじゃどうしようもないし、だからといってスラムの危険な連中をただ放置したら勝てるものも勝てなくなる。」
別にスラム民からしたら魔王軍がどうこうなどあまり気にしていないのだ。それより、明日の飯だとか上の立場の奴らだとどうライバルを蹴落とそうとかしか考えていない。
そこにめっちゃ金のつぎ込まれた冒険者集団が来るわけですよ。何も考えないはずがない。俺だったら杖あたりを掠め取ろうとしていた自信がある。
「それじゃ、何か必要なものはあるか?生憎金はあまり出せないのだが………。」
「ギルマスを貸してくれ。」
「………は?」
本気で呆れられた。悲しい。
「ただの移動手段だよ。少し王都に行って協力を頼みたい奴らが居るんだ。」
「そうか、確かに奴は移動手段としては優秀だな。」
本人がきいたら多分泣く。
でもよくよく考えろ。どんな強力な圧力にも故障せず、離陸は僅か1秒で完了。空陸海全てに対応可能という高性能っぷり。それでいてなんとタダ。一家に一台欲しいね。
「そうときまれば早速出発だ。ギルマスをすぐに呼び出してくれ。」
「任せろ。」
目の前の男がピーッと鳴らすと、ギルマスがガラッと入ってきた。
「どうした!」
「こいつがお前を移動手段として所望だ。」
「移動手段!?酷くない!?」
「時間があまりないからな。まずは王都までひとっ飛びだ。」
「拒否権は?」
「あると思うか?」
「酷い………。」
しょんぼりとしながら背中を差し出すギルマスを見て、飛び乗りつつも少し可哀想になった。
「今頃パン屋のハンナちゃんと楽しいティータイムを過ごしていたはずなのに………。」
「よし飛べ。今すぐにだ。」
わかってはいたがなんて野郎だ。どうやったら人類の存亡かけた会議の合間に女の子と遊べるのだ。
「じゃあいくぞ………。」
ギルマスがしょんぼりしながら足腰に力を入れると同時に俺が部屋の窓を開ける。
おい何しょんぼりしてんださっさと行け。
「『弾壁』、『跳躍』!」
どっぴゅーんとギルマスが飛んで行く。俺は声を上げないように口を固く閉じながらギルマスにしがみついた。
3時間後。
城塞都市イタルペナの一角に、中々に懐かしい顔ぶれが揃っていた。2週間は帰れなくなる。そう最初に言ったのに、この場には20人もの仲間が同行してくれた。
「中には、よく状況を理解せずにこの場に集ってくれた人も多いと思う。」
その中心で、俺はベンチの上に立ち弁舌を振るう。
「状況を説明しよう。俺達冒険者は魔族を一人捕らえ、情報を得ることに成功した。そこからわかった人が一つ。それは、次の魔王軍の進軍予定地がクロップスだということ。」
喉がゴクリと言うのが聞こえる。
「だがここで問題が一つ。我らがクロップスは俺達を代表するようにスラムでいっぱいだ。これでは冒険者達は自由に戦えない。つまりだ。」
ここで一呼吸置く。
「魔王軍の来る2週間後までに、俺達そしてリーダーとも合流し………スラム街を制圧、最低でも魔王軍と交戦中は沈黙させなければならない。」
全員わかっているだろうが、これはどっからどうみても無理難題だ。あのスラム街は個々の戦闘力が高い上に俺達如きでは測れないほど闇が深い。コネもクソもない俺達が出来ることなどたかが知れている。
「無理だろう。ぶっちゃけ俺も出来る気がしない。だが、これが上手く行かなければ対魔王軍に支障が出る可能性が高い。乗ってくれるか?」
我ながら下手な演説だ。こんなのでは危険だぜついてくんなと言っているようにも聞こえてしまう。
「………魔王軍ってのはよ。」
ここで呟いたのはクルトだ。ガリガリだった彼の腕には筋肉がつき、逞しくなっている。
「占領したらその街を破壊するんだよな………?」
「俺が見た場所は逃げ遅れた奴らは全員アンデッド化していたな。」
「だったら、答えは一つだろ。俺は行くぞ。もう彼処には戻りたくはねえけど、ここで動かなきゃリーダーに申し訳が立たねえ。みんなもそうだろ!?」
「「当たり前だ!」」
間髪入れずに全員が答える。
「じゃあ決まりじゃないか。というよりはさ、ロイド、みんなここに来た時点である程度の覚悟は決まってるんだよ?」
「あっ………。」
そうだよな、このメンツが揃えられる時点で何か厄介なことだとはわかっていたはずだ。
「………よし!今日は夜通しで作戦を練るぞ!出発は明日!一秒も無駄にするもんか!」
「「「おおーーーーー!!!!!!!」」」




