332話 『リュミエール・シーカー』
(慣れたな………。)
ゆっさゆっさと揺られること2時間。
「ねえ、まだ見つからないの?」
「雑魚ばっかだな。地面にも這わせてみてはいるが…………。」
なんだかんだ言ってまだ山の3割くらいだしな、見てるの。
(………ん?)
そういや、『リュミエール・シーカー』はまだ魔腕みたいに編み込んで使ったことはなかったな。魔力操作技術も上がったことだし、試すか。
うん、成功。
「ッ!?ロイド、今何かしたか!?」
ギルがビックリして振り向く。
「ん?ギルどうしたの?」
「何か、こうロイドを中心にゾワって来たんだ!」
「ちょっと『リュミエール・シーカー』を弄ってみた。結構探索範囲が広がったな。」
言うなれば、岩の板を編み込んだ布にしたような感じ。体積が同じでも面積は違う。
(………お。)
ダンチだ。半径が2倍。つまり索敵範囲が8倍になった。
そして続くように、巨大な魔力反応を発見。やばいな、広げてなかったら絶対気づかない深さに居るぞこいつ。
「ギル、発見だ。一旦止まれ。」
「あいよ、どこだ?」
「ちょっと走った先、その下にいる。結構深いぞ。」
「………ぜんっぜんわかんねえ。」
「今から炙り出す。ちょっと待っててくれ。」
『リュミエール・シーカー』で魔石の位置を探り出す。
全く看破されないところを見ると………魔力の扱いには長けていないな。
(さて………ほいっとな。)
魔石に魔力を注入。心臓に異物を仕込まれたようなものだ。いくらその心臓が強かろうと、苦しくないはずがない。
――――――――――グラグラ。
「え!?何この揺れ!」
「地面からオーガが出てくるぞ。武器を構えろ!出会い頭一発ぶちかますぞ!」
「「了解!」」
そう言った直後。
「ガアアアアアアアアアア!!!!!」
「出たよ!」
「わかってらあ!『跳躍』!『双龍閃』!」
一気に地面から出てきた7メートルほどの巨人。その頭上から、ギルが二本の大剣を振り下ろす。
それをオーガが右腕で防ぐが。
「うお、らあッ!」
魔石に光属性魔力を流し込まれ、力が発揮できないオーガには、ギルの大剣は重すぎた。
――――――――ドメギャア!
やばい音と共に、オーガの右腕がひしゃげる。
「一本やりぃ!」
「次行くぞ、次!」
不意打ちで右腕を失ったが、オーガの戦意が衰えることはない。
寧ろ高ぶっている。完全に怒ってるじゃねえか………。
「グウウウウウ………。」
オーガは、残っている左手一本で軽々と木を一本引き抜いた。
そして………魔力を流している?
「シュウ、気をつけろ!ありゃあただの丸太じゃねえぞ!」
「了解!『タウント』!『ライト・フォートレス』!」
オーガの注意がシュウへと向く。
シュウが前に出ると同時に、オーガの地ならし。
(『マジック・ガード』!)
だが、俺の『マジックガード』にそれぞれ飛び乗ることにより揺れを無効化。
地ならしからの丸太攻撃へと移ったオーガは、手痛い反撃を食らうこととなる。
「『カウンタークレイヴ』!」
丸太がひしゃげ、オーガがよろめく。と同時に。
「『双龍閃』!」
「『クリスタ・ルーン』!」
ギルが横っ腹をぶん殴り、俺が左肩を擦り潰す。
「ッルオオオオオオ!!!!」
ここで急激にオーガの纏う魔力が上がったのを察知俺は、一旦下がる。
「ギル!」
「あいよ!」
二人で一旦距離を取り、シュウの後ろへ。ここが一番安全だ。
「力、上がった?」
「纏っている魔力が大幅に増えたな。」
「徐々に再生してるっぽいぜ。けど!」
「今の俺達相手じゃサンドバックにしかならないな。」
余裕が出てきた俺達の前で、オーガが顔を真赤にしながら残った左腕を振り回す。
だが、左肩に開けられた穴のせいで血がプシュプシュと飛び散る。
「アアアアアアアアア!!!!!!!」
怒り狂ったオーガは、俺達目掛けて突進。
だが、その前にはシュウと『封土の盾』。
「『ヘヴィ・フォートレス』!『パリィ』!」
いくら闇属性魔力をめちゃくちゃ纏っていようと、愚直な突進では今のシュウには効かないのだ。予測が容易な突撃の代償は大きく付くぜ。
「ルオオ!?」
まず、弾かれたオーガがたたらを踏む。
(『アース・ホール』!)
更に小さな落とし穴により転倒。そして。
「『炎渦忌龍紅覇撃』!!!!」
極めつけのギル。
「どっせぇぇぇぇぇぇいッッッッ!」
「ガアアアアアア!」
オーガの脳天を赤黒い大剣がかち割った。
恐ろしい力が込められていた左腕は力なく降ろされ、あんなに盛んだった魔力反応は静まっている。
「よっこらせっと。」
胸から魔石を引っこ抜き、俺達は近くの木で集まった。
「なぁ………お前ら、めちゃくちゃ強くなったな?」
半年前までエルダースケルトンに苦戦してたんだぞ。
「成長期だからな!」
「そうか、成長期なら仕方がないな!」
うん、でも、まだまだ俺達は強くなれる気がする。
俺は、オーガの死体を見ながらそう思った。




