324話 闘技祭 11
「くそが………『セイクリッドガード』!」
一旦手詰まりになった俺は、収納袋をかき回しながら『セイクリッドガード』の中に籠ることにした。
幸い、あちらはこの期に及んで魅せプレイに走っている。腹が立つが、冷静に思考できる時間が取れてラッキーだと思うしかあるまい。
さて、やはり鍵をにぎるのは『黒雷』と『エクスカリバー』だ。『クリスタ・ルーン』では『セイクリッドガード』を貫通できない。仮に貫通してもあちらは俺以上の回復能力を有していると見える。それじゃあ心臓か脳みそをガツン!と行かないといけない訳だが………。
(許してくれるはずがないよな………。)
誰だって心臓と頭は何とかして守る。それに、あちらはまだ魅せプレイ、つまり本気を出していないのだ。
となると。
(意表か、意表を突くしかないのか。)
舐めてる内にサクッと殺らなければならない。となるとさっきの挑発は余計だったな………。
「我が光の力よ、集いて我が敵を消し飛ばせ!『ホーリー・バースト』!」
おっと、まずい。詠唱付き魔法だと『セイクリッドガード』も連発するだけでボロボロになってしまう。
くそ、『リュミエールシーカー』が看破されてしまうのが痛いなぁ。
(『ウィンド・ロール』!『ゲイル・クラーク』!)
風魔法で自分をぶっ飛ばし、魔法を回避。思考している暇がなくなってしまった。嫌だな。
「さっきまでの威勢はどこに行ったのかな?」
「チッ………。」
急いで収納袋をかき回す。
(……………ん?)
そういえば………こんなものがあったな。
あるものを見つけ、内心ほくそ笑む。これで突破口は見えた。これなら間違いなく意表をつける。
だが………後ろに回り込む必要があるな。
「『マジッククラッシュ』!」
そこで、まずは煙玉を大量に点火する。見慣れた汚い煙が、俺達の周りに充満する。
「所詮は小細工。」
『天を満たせ純白の翼』が一瞬で煙を全て吹き飛ばすが、その間に俺は上空へと回り込んでいた。
「『クリスタ・ルーン』!」
「狙いが見え見えだ!詠唱破棄、『セイクリッドガード』!」
ガリガリ、と音を鳴らす2つの魔法。
その間に、俺は再び煙玉を投げつける。
「だから無意味だと!」
「うおおッ………!」
『天を満たせ純白の翼』の起こす風が、突風となって俺と煙を同時に吹き飛ばそうとする。
だが、俺の魔翼は小回りが効く上………その本質は滑空、つまり風に乗ること。
(うらっ!)
角度を調節し、高速で背後に回り込む。
「『天を満たせ純白の翼』をどうこうするのは無駄だと」「『ブースト』!」
収納袋から例のブツを取り出し、身体を豪気で強化して突き刺す。
「え………?」
『天を満たせ純白の翼』が散る。
「どうして………?」
「アダマンチウムって、知ってるか?」
落下する『天翼』アレクを、全力で加速して追いかける。
「ッ………!」
だが、さすがはAランクと言うべきか、ここで一旦魔法を諦め剣術で俺を迎撃する。
「くそっ………!」
遂に本気を出したな。剣術のキレがちげえ。洗練されてはいないが、速度、力が急激に増しやがった。
「『スラッシュ』!『クレイスラッシュ』!」
「『ストロム・ベルジュ』!」
一気に畳み掛けようと剣を振るうが、届かない。
「………へえ、なるほど刺さった場所の魔力を中和するわけだ。」
(バレたか………!)
抜かれては一溜まりもない。俺に出来ることは両手を使わせて引き抜かせるのを防ぐだけ。
刺したのはあくまで背中だけなので普通に魔法も使われれば片手は空いてしまう。だから、息もつかせぬ連続攻撃しかない………!
だが。
「ハハ、詰めが甘かったな!『クレッセントスラッシュ』!」
(まずい……!)
あれを食らえば吹き飛ぶ。吹き飛べば、アダマンチウムは抜かれもうチャンスはない。あれは最後のアダマンチウムなのだ。
あれを、躱さないといけない。
…………使うか。一か八かだが。
全ての魔法を解除し、人間カタパルトで俺を射出。今振るわれようとしている剣に向かって。
「諦めたか?」
違う。
「『バールゼフォン』!」
その魔法を唱えると同時に、世界が止まる。
多分それは、0.1秒にも満たないであろう時間。
だが、確実に世界は止まった。
――――――――ブオン。
俺の背後で、剣が鳴る。
「………ぇ……?」
「『黒雷』!」
フルチャージ。剣を振り下ろし、驚愕に目を見開く『天翼』アレクの首に、黒い稲妻が突き刺さる。体が、糸の切れた人形のように落ちる。
(成功したか………!)
かつて『最強の魔法使い』がクソ勇者に対して使った魔法。あれは、時間を停める魔法だったわけだ。
この魔法は、火水雷土風全ての魔力を使う事により発現する。俺の魔力量では全部使っても0.1秒も止められなかったわけだが………結果オーライ。
さて、トドメだ。
回復した魔力で、『ストロム・ベルジュ』を展開し、見下ろす。
「………!?」
『天翼』アレクの身体が、黒くなっていく!?
「『ブースト』!」
慌てて身体強化し振り下ろした水の剣を、その右手が急に動き握り潰した。
(嘘だろ!?握りつぶすのか!?無傷で!?)
そして、頭を糸で引っ張られた人形のような動きで立ち上がる。
「ワ………。」
(喋った!?)
「我こそは……『暴食』………ノ………けけ、化身ナリ………ッ!!!!!!」
「ぐえっ!」
突如吹き出る闇属性魔力に、俺の身体が吹き飛ぶ。
まさか………ここであの封印されてる輩を呼び出したってのか………!?
(良い、魔力だ………。)
その時、俺の内側から今まで聞いたことのない声がした。




