323話 闘技祭 10
『さあさあさあさあ!いよいよ闘技祭も終盤へと向かってきたぜ!そんじゃ、4回戦目行ってみよう!これに勝ったほうはまさかのベスト4入りだぜ!そこで来賓のギルドマスター様方から何か一言!』
司会からの無茶振りに答えるのは、我らが誇る肉壁様だ。
「ラストスパートだ!声枯らせッ!……………ヒックッ。」
酔ってんな。だが、そんなノリだからこそ観客席も盛り上がる。
やめてほしいもんだ、こんなテンションの中無様に負けたらどうすると。
『いいな声枯らせよお前ら!じゃあ、赤コーナー行ってみよう!戦うたびに新たな手札を見せつけてくれるその姿はまさに奇術師!奇術と魔術、双方を用いながらも最後には泥臭く戦う姿、好きだぜ!『不死身』ロイド選手!』
うーむ、前の試合は寒かったのに今回はまた熱気がすごい。温度差に弱いんだぞ俺………。
『続いて青コーナー!こちらは美しさと強さを兼ね備えた幻想術士!その手に持つ杖は今度はどのような絵を描くというのか!?『天翼』アレク選手!』
こつこつ、と変に足音を立てながら『天翼』アレクが入ってくる。
そのイケメンフェイスには微笑が湛えられているが………目の奥から伝わってくるのは俺に対する侮蔑。
「ははっ、よろしくお願いするよ。」
そう言って、大仰に一例。気障ったらしい奴だな。
「どうも。だが、この試合が終わる頃にはその端正なお顔が泥と血で酷いことになることを予言しとくぜ。」
腹がたったので挑発してみると、仄かな怒気が空気越しに伝わる。
だが、それをすぐ抑え、おどけてみせる。
「それはやだね。彼女に会わせる顔がなくなってしまう。」
『はっはっは、モテモテだなぁ『天翼』さんよ!だが僻むことはねえぜ、ロイドくんよ!お前も十分可愛い顔してるからな!』
僻んでないわ。というかなんだそのフォロー。
『おっと、すまねえ怒るな怒るな!戦意はお互い十分!じゃあ、始めようぜ!』
お互い、武器を構える。
『第4回戦、スタート!』
(魔翼、展開!)
「詠唱破棄、『地を満たす純白の翼』!」
お互いに、空を飛ぶ。
やはりか。今までの試合、全てにおいてこいつはこの『地を満たす純白の翼』を展開している。大きさを調整できるようで、地上戦でも小さくしたこれを使っての加速を行っていた。
恐らくは、この『地を満たす純白の翼』有りきの戦闘技術を使っているのだろう。つまり、年季はあちらのほうが上とも言える。
だがしかし、俺の空中戦闘用魔法はもう一つ有る。
(『マジックガード』!)
こちらのほうが小回りが効く。そのまま距離を詰め、『ストロム・ベルジュ』と魔手を使い手数で一気に攻める。
「『万物の破壊を導く者』!」
それに対し、敵の剣は魔法により大鎌の形となる。
「『クレッセントスラッシュ』!」
忌まわしい剣術が俺の目の前で振るわれる。
「ほっ――――――――!」
それを上半身で逸らして避け、そのまま回転ざま蹴りを入れる。空中戦だから出来る技だ。
「!!」
『天翼』アレクの頬から、一筋の鮮血が迸る。
「意外と接近戦は弱いんじゃねえか?」
「………死にたいのか?」
靴に仕込んでいたのは、おっさんから余り物として貰った刃。いつもは歩くのにも邪魔なので外しているが、今は空中戦だ。関係ない。
意表をついて入れた一撃だったが、直ぐ様『ヘイレン』で回復される。厄介な。
「段々本性が漏れてきてんぞ。」
「………『天を満たせ純白の翼』。」
その目が剣呑な光を放ったと思うと、一気に翼の密度が上がった。
さっきまでとは比べ物にならないスピードで、大鎌を携え突進。
「うわっと!?」
おっかなびっくりでそれを回避。やっべ、演技を剥がしたいなぁとは思ってたけど、思った以上に本気が強い!
「『フェイタルラッシュ』!」
続いて多方向からの突進。小回りは俺のほうが効くが………肝心のスピードが違う………!
必死に躱す俺に、『天翼』アレクが囁く。
「やあ、その流暢な話し方から察するに……日本人かな?」
「や、やっぱりてめえもッ………!ぐおっ!」
「さあ?何の話かな。」
チクショウ!当たりか!道理でチート臭い!こいつの動きには年月ってものがないと思ったんだよくそが!
けどそれが今脅威として俺の前に立ちはだかっている。俺達のように魔力で翼を形成する者の強みとして、魔力で動いているために体力を使わない、というのがあるため、こいつの力任せの連続突進も尽きることがないのだ。
仕方がない。
(あんまり天丼芸は好きじゃないんだけどな………!)
「『ストロム・ベルジュ』『ゲイル・クラーク』!」
背中の翼目掛けて水の剣を振るいながら、風の拳を使って空中制御。
「『天を満たせ純白の翼』にそんな攻撃が通じると思ったか!」
「思わんわ!『カルト・フリーズ』!」
翼を凍らせにかかる。
これで動きは鈍く………ならない!?
「………その程度の威力じゃ霜すらつかないな。」
「くッ………!」
まずいな、案外手詰まりだ。
俺は忌々しい翼を見つめながら、ポケットに手を伸ばす。




