320話 闘技祭 7
あの試合は、形式上はシュウが敗北、アリエルが勝利なのだが………闇属性魔法を使ってしまったことにより、国家のお偉いさんが色々来て事情聴取やら色々やられていた。
つまり、次の対戦相手は不戦勝というわけだ。ラッキーだなおい。
「まさか闇属性魔力を使ってくるなんて………。」
シュウも、なんやかんやでアリエルの闇属性魔力については知っている。
その上でだ。
「ありゃ確かに酷かったけどな。まぁ、ある意味自爆技だし、な?」
「でも、僕だけ二回戦敗退なんだよね。」
ああ、そういうことか。
「まあ、気にすんな。そもそもシュウは盾だぜ。」
「うん………まぁ、そう言われるとそうなんだけど。」
微妙そうな表情だ。
確かにシュウは俺らじゃいつもタイマン最弱だしな。
「でもま、運が悪いだけだからなお前は。実際が俺がシュウに勝とうと思ったら『エクスカリバー』でも持ってこないといけねえし。運が悪いってのもあるよ。」
実際、俺は闇属性を開放したアリエルには勝てない。ギルも対応不可に陥るだろう。
「そうだね………。いつまでもうじうじしてても仕方がないか。もうそろそろ二人の試合でしょ?」
「そうだな。まぁ、しっかりと対策済みだ。多分まけねえ。」
「………多分、ロイドが思っているよりギルは強くなったよ。」
「そりゃ、楽しみだな。」
本当に。
『赤コーナー!武術で勝ち上がる者が多い中で、独特の戦術と魔法で勝利を掴んできた異色の男!その戦術は常に観客を魅了してやまないぜ!ロイド選手の入場!』
『続いて青コーナー!その瞳に映すは未来か!?全てを見切り、恐るべき腕力で強者を葬ってきたその実力は未だ未知数!ギル選手の入場だ!』
相変わらずレパートリーが凄いな司会さんは。
そんな事を考えながら、篭手を呼び出す。
「ロイド、お前がさっきの試合で勝ったと聞いてからずっと楽しみにしてたぜ!」
「俺もだ。絡め手で散々嬲ってやるから、震えろ。」
「だったら、それを真正面からぶっ潰す!」
『おいおい、今回も殺る気満々だなロイドくんよ!それじゃ……スタート!』
(『ウィンド・ブースト』!)
開幕と同時に、俺は加速する。後ろに。
ギルの弱点は、さほど速くないことだ。少なくとも、俺のスピードにはついてこれない。
「卑怯だな!」
「あったりめえよ!けどな、最終的に勝てば良いのさ!」
勿論、逃げながら魔手の乱打だ。これで崩せれば良いのだが、ギルは何の苦もなく切り払っている。
2つ両手剣を扱うギルは、基本的に回転する動きでそれを扱っている。
相当疲れる上に三半規管がおかしくなると思うのだが、どうもそういう心配はないようだ。
(……………と。)
逃げながらバレないように細工を施していく。
「………何か企んでるな?」
「はっはっは、俺に限ってそんなことするはずがないじゃないかー。」
「やっぱ企んでるんじゃねーか!」
そう叫んだギルは、その剣で地面を殴る。
ボゴオ、という音とともに、大地が隆起した。
「『跳躍』!」
「何!?」
その隆起した地面を蹴って、ギルが接近する。
「くそ!」
早速予定が狂った。
慌てて唐辛子スプレーを発射し、ガスマスクを付ける。
「『双龍閃』!」
だが、突撃してきたギルは目を瞑っていた。
そのまま剣を振り下ろす。
「『セイント・ブースト』!」
だが、あまりの斬撃故に右腕がくっつかない。
(しまっ………!)
「『マジックブレイク』!」
急いで火で切断面を焼く。
そのまま人間カタパルトで脱出する。
「あぁぐッ………!」
痛いので、麻酔を取り出し左手で注射。
変な気分だが、痛くて集中が途切れるよりはマシだ。
「外した………!」
ギルはと言うと、剣で煙を吹き飛ばしていた。
「はっはぁ!早速一本取ったな!」
「参ったな、おい………。」
発想力が違う。あれも第六感のうちに入ったりするのか………?裏山すぎるお。
だが、これで諦めるようではいかんのだ。
仕込みは、全部で10個。まだ仕込めたのは2個だけ。
俺は、闘技場の距離を図るために左手で感覚を再度つかむ。
「何してんだ?」
「あとで痛いほど思い知るぜ。『ストロム・ベルジュ』!」
魔手での攻撃は一旦諦め、見えはするが威力の高い『ストロム・ベルジュ』に切り替える。
「なんのッ!」
それすらも軽々と切って行くギル。
だが、彼は気づいていない。
『ストロム・ベルジュ』は、言ってしまえばただの水が高速移動して剣となっているだけだ。
つまり、切り捨てれば残るのはただの水。
それを切り続ければどうなるか。
答えは簡単。
「ぴちゃぴちゃしてて気持ちわりいな………。」
そう、水だらけ。
そして、その水は俺のもとまでたどり着いている。
さて、ポケ○ペ愛好家としての意地を見せるかな。
「『カルト・フリーズ』!」
水を伝い、冷気が高速で走っていく。
来年もよろしくお願いします。




