316話 闘技祭 3
「………ふぅ。」
俺がじっと闘技場を見ていると、横でそんな声が聞こえた。
声の主を見ると、『閃華』シュルムさんが仮面を抜いでいる。中から出てきたのは中々端正なお顔だ。
よし、おじさんやる気出てきたぞ。イケメンは等しくヘッドショットだ。クリぼっち舐めんな。
「では、ロイド選手は赤コーナーに。シュルム選手は青コーナーにお願いします。」
「あ、はい。」
「え………君が対戦相手?」
「悪いか。」
「子供を………嬲り殺す趣味はあまりないんだけどなぁ………。」
舐められてる。完全に。
なら。
(戦いでたっぷりと思い知らせてやる………!)
俺は、手をポキポキと鳴らしながら闘技場に足を踏み入れる。
『さて、赤コーナーから出てくるのはロイド選手!なんとこの男、最年少Bランク到達者だ!その実力は未知数!バトルロイヤルでも変わった戦いで会場を驚かせたこの男!この戦いで何をしてくれるのか楽しみだァッッ!!!!!』
観客席からの熱気がやっぱり凄いな。身体が丈夫ではない俺だと悪影響が出るかもしれない。
俺が闘技場の開始地点に立つと、次に闘技場に出てきたのは先程のイケメン野郎だ。
『続いて青コーナー!『閃華』の名で知られるシュルム選手!その実力は戦争に出たものなら知ってるのではないだろうか!?思わず見とれるほど美しく、正確無比な剣術を操る猛者!ご婦人方の黄色い歓声が羨ましいぜ!チクショウ!』
彼が開始地点に立ったのを見て、俺も新しく作ってもらった篭手を装備する。
そういえば名前をつけてなかったな、これ。なんか格好いいのを後で考えよう。
俺が篭手を嵌めると同時に、『閃華』シュルムも剣をスラリと抜き放つ。
スタンダードだが、いい長剣だ。太陽の光に反射して光り輝いている。
『両者、準備はいいなぁ!?それでは、スタート!』
その言葉と同時に、一気に敵が距離を詰める。
「疾っ……」
「早めに終わらせてあげよう。『華突』!」
懐から繰り出される左手で防ぐ。
勿論貫通だ。鮮血が迸り、激痛が走る。だが。
「『黒雷』………!」
直接左腕から『黒雷』を出し、剣に雷を伝わせる。
「ッ………!」
敵は慌てて剣を抜き、上方へと放り投げる。その間に、俺はバックステップで距離を取り、『ヘイレン』で左腕を完治させる。
ついでにいい感じに剣が空中にあったので魔手で拝借。
「………え?」
「いいもん持ってんな、お前。ありがたくもらうぜ。」
欲しけりゃ奪う、それが流儀だ!
あいつマジで辞めてほしい。御旗○イジは俺は絶対に許さない。
「そうか、君は中々やるようだな………先程のはすまない。許してくれ。」
目の前の男は、そう言いながら2本目の長剣を収納袋から取り出した。
「………マジ?」
「僕は傭兵だ。これくらいの備えはするさ。」
くそ、ほぼ勝ったなとか思ったんだが。そうそううまくはやってくれないらしい。
なら次の一手だ。
『おっとぉ!ここでロイド選手、ブロック戦でも見せた空中戦に持ち込んだぞ!』
やはり制空権を取るに限る。
俺がそう考えた矢先に、目の前にイケメンがいた。
「へっ?」
「『レイスラッシュ』!」
え、マジ、一瞬でここまで跳んだの?うっそん。
(って、やばっ………!)
急いでくるっと回り、魔翼で防ぐ。魔翼も元は魔手だ。ちゃんと防御力はある。
だが、そんなことをすれば勿論落ちる。そんな無防備な俺を、目の前の男が見逃すはずもない。
「『飛翔閃』!」
「『セイクリッドガード』!」
なんとか防いだはいいが、このままでは俺が背中から落ちる。衝突すれば即死。イカロス的なアレは避けたい。
だから、俺は『セイクリッドガード』を球状に無理やり展開し、地面と激突すると同時に転がる。
「おえっぷ………。」
無理矢理『セイクリッドガード』をいじった上に、ゴロゴロと転がったのでグロッキーになるのを、『ヘイレン』で無理矢理治癒。
だが、休んでるヒマは与えられなかった。
「シッ………!」
「おわっとぉ!?」
息もつかせぬみだれづきを、無理矢理『マジックガード』と体捌きで躱す。早速訓練の成果が出た。
けれど、所詮は付け焼き刃。俺の必至の回避も、結局は延命にしかならない。現に掠った場所から血が流れ出る。
(距離を取らなきゃ………!)
何とか後ろに下がろうと足を伸ばすが、それを咎めるように刺突が腿に刺さる。
しかもすぐに『黒雷』を警戒して抜くので、チャンスも中々生まれない。
まさにジリ貧。気を抜いた瞬間首が飛ぶと行っても過言ではない。
だが、後ろに退こうとすれば今みたいにバレる。横は無理だ。空はまた叩き落される。
(ん?)
待てよ一つあるぞ。一か八かだが、この状況を打破出来るかもしれない逃げ道。
………やってみる価値はある。
いつもなら絶対やらないが………最悪今なら死んでも生き返れる。よし。
(『アース・ホール』!)
直後、俺が消える。
「な!?」
「下だぜ馬鹿野郎!!」
『アース・ホール』で足元に穴を掘り、魔手で自分の体を引き釣りこむ。
普通に考えれば自ら退路を断っているが、それでも時間は稼げた。
充電完了。
「『黒雷』!」
「うぅっ………!?」
直後、篭手のスイッチを押す。よし、しっかり作動してるな。
敵が痺れている間に魔腕、そして
「『クリスタ・ルーン』!」
ずっと温存していた錬成済み土属性魔力を一気にここで切る。
そのまま人間カタパルトで俺を射出。
「だらっしゃああああああああ!!!!!!」
俺の右腕が、『閃華』シュルムの左胸を貫いた。




