315話 闘技祭 2
人が二倍になりました。
『長引いていたWブロックの試合も終わったみたいだぜぇ!それじゃ、出てきてもらおうか!64人のバトルロイヤルを勝ち抜いた猛者たちだ!拍手で迎えてやってくれ!』
「はーい!それでは皆様付いてきて下さーい!」
控室に集められていた俺達勝ち抜き組は、そう言われて列を作り歩き出す。
「うわっ、ほんとだ僕一番遅い!?」
その最後尾で、シュウが叫びながら走ってくる。
なるほど、長引いていたのはそういうことか。シュウなら納得だ。
などと考えてる内に、俺達は闘技場の真ん中に立つ。
『ここに立っている64人は誰もが一線級の実力者!熱い戦いが見れることは保証するぜ!』
「「「FOOOOOOOOOOO!!!!!!」」」
『さて、お待ちかねのトーナメント表だァ!』
バサア、と再び紙が降りてくる。
(誰だ………?)
俺の相手は『閃華』シュルム、というらしい。ダメだ知らない。少なくとも冒険者ではない。
しかもだ、俺は二戦目らしい。なんてこった調べてるヒマもない。
『一試合目は10分後!立て続けに試合をするから、皆トイレは絶対行っとけよな!漏らしても俺は知らねえからな!』
各所で笑いが起き、その後俺達は各々に用意された控室で休むこととなった。
但し、試合には遅れないようにすること、とだけ言われた。
控室からは試合の様子が見れるらしいので、他の人はそこで待ってれば良いのだが、生憎と俺は二戦目なので待機だ。
というわけで、今この場には4人いる。
一戦目で戦う二人と、俺と、『閃華』シュルムさんだ。
外見で言うとゴリマッチョ、仮面、爺さんだ。
俺がぼーっと3人を見ていると、横にいるお爺さんが話しかけてきた。よぼよぼだ。
「こんなに小さいのによくここまで進んだものじゃ。さぞかし大変じゃっただろう。」
「ええ、まぁ………。」
いや、待て待て待て待て、あんたが言うのは絶対におかしい。
「えっと………『閃華』シュルムさんですか?」
「いや、ワシは名も無き槍使いじゃよ。高名な『閃華』さんならそこじゃ、今も仮面を付けて寝ておる。」
「あ、これ寝てるんですね、へぇ………。え?」
ってことは、この爺さんこの強面マッチョさんとやるの?傍から見たらポ○ポがカ○リューに挑んでるのと同じだぞ………!?
「よく聞けばわかるのじゃよ。耳をすませば少し寝息が漏れとるのが聞こえるはずじゃ。」
言われて耳を澄ますと、確かに寝息が聞こえた。
「ほんとだ、よく聞こえますね。」
「ほっほっほ、年の功じゃよ年の功。」
そんな雑談をしていると、あっという間に10分が経過した。
控室にスタッフが入ってくる。
「時間です。フォウン様は赤コーナーに。ギリック様は青コーナーでお願いします。」
「ほっほ、ではいくとするかのう。少年、健闘を祈るよ。」
「あ、そちらこそ。」
当たり前だが、俺のいる場所からも試合を見ることが出来る。
(………大丈夫かな…………?)
俺も高名な人とやらされるらしいので人の心配をしている場合ではないのだが、思わず心配してしまった。俺はやだぞ、こんなに一杯人がいる中で人が良さそうな爺さんが無残に殺されるのを見るのは。
『まずは赤コーナー!出自、経歴、全てが不明!わかっているのはその名と槍を扱うことのみ!気がついたらブロックで立っていたのは彼だけだったぞ!フォウン選手の入場だッッ!!!!!」
ミステリアスな感じに仕立て上げられた爺さんは、穏やかそうな笑みとともに入ってきた。
思わず観客席がどよめく。
どうやらバトルロイヤルも見ていたようなのだが、この爺さんはあまりクローズアップされなかったのだろう。
『続いて青コーナー!商人の皆さんなら知っているであろうあの男!護衛任務でこいつに勝る男はいねえ!その身体に刻まれた傷は幾度となく命を救ってきた証明!『鉄槌』ギリックの入場だあああぁぁぁぁぁッ!!!!』
対して、マッチョに対する声援は凄い。なるほど、『鉄槌』のギリックなら俺も聞いた事がある猛者だ。
『それでは、両者位置について!スタート!』
司会の声とともに、二人は動き………出さなかった。
「ほっほっほ、流石にバレるかのう。」
「………構えが防御のそれだ。迂闊にこちらから攻め入るわけにも行かない。」
「うーむ、隙だらけに見えるよう研究してみたんじゃがのう………。」
爺さんは俺からするとただダランとしているように見えるのだが、どうやら違うらしい。
ってか、え、やっぱり強いの?そりゃ強いか。運だけで10人の中から勝ち残るとか不可能だしなぁ。
だが、このままお互いに仕掛けないのも何だと思ったのか、爺さんは槍の持ち方を変える。
「ほっ………『瞬身』。」
「ッ………!」
身体が爆発するように加速し、一瞬でギリックさんの背後に回る。
だが、そこは流石というべきか、くるりとその手に持つハンマーごと回転する。
それを木の葉のようにふらりと躱した爺さんは、その槍をギリックさんに向けて投げた。
だが、これもハンマーに打ち上げで槍を空中に飛ばす。そのまま、間髪入れずに踏み込んでハンマーの振り下ろし。
「『ギガントブレイク』!」
「『瞬身』。」
目で負えない程の速さで振り下ろされたハンマーが、大地をかち割る。
だが、そこにはもう彼はいない。それだけでなく、彼が飛んだ先には先程飛ばされた槍が。
「『プラチナ・フォートレス』!」
「すまんのう、『風塵飛翔斬』。」
後ろを取られ、全力の豪気で身を守る彼をあざ笑うかのように、爺さんの槍は安々と首を飛ばす。
残ったのは再び穏やかな笑みを浮かべた爺さんと、光の粒子だけ。
『勝者!フォウン選手!』
ワアアアアアアア、と闘技場が湧いた。
冬休みに入ったので、多分明日から毎日更新します




