312話 闘技祭に向けて
「この件は、教会に対して猛抗議、というか賠償させることにしておく。」
そう『最強の魔法使い』は言った。
因みにギルマスは横で死んだように動かない。『邪神の加護』の使いすぎらしい。
俺の魔力回路はもう少しで回復しそうだ。
「出来るのか?」
「難しいだろうな。あいつらの価値観は俺達と根本的に違う。」
なんか言っても「あいつら勇者に手を出すとか最低!異教徒は殺すナリ!」とか言って大変なことになる未来がまざまざと見えるのだ。
「兎に角、こっから先は一冒険者が関わってどうにかなるようなもんじゃないからな。スッパリ切って今はお互いの再会でも喜んでおけ。」
「再会………?あ、ロイド久しぶりだな!」
「え、俺一瞬忘れ去られてたの!?」
「ギル、脳みそまで筋肉になっちゃったんだ………。」
(何があった……………!?)
ここ半年間の行動が非常に気になるところである。
少し話し込んでいると、急にギルドの扉が開き人が雪崩込んできた。
「薬師に回復魔法使い………?」
「お、俺が予め呼んどいたんだぜ………。だいたいロイドが治してたが。」
声の主はグランさんだった。崩れたカウンターの中から手だけ振っている。
ただ、俺は見えた範囲しか治せていないのだ。こんだけ荒れていれば取りこぼしは出る。
「いるぞ!誰か担架をもってこい!回復魔法も早急にだ!」
(『ヘイレン』)
見つかった人は俺が早急に『ヘイレン』だ。
「おお!?いきなり治りだしたぞ!?」
「まじかよロイドいんのかよ!やったぜ!おい皆、ガンガン見つけろ!半年ぶりのロイドの『ヘイレン』だぞ!」
「なんで俺達肉体労働する方に回ってるんだ………?」
どうやら期待されているようなので、お望みどおり回復しまくる。
どうやら思っていたより犠牲者は多かったようで、取りこぼしはかなり多かった。
というか、よくよく考えれば夜になる前に帰って換金している奴らが並んでいた時間である。そりゃ犠牲者も多い。勇者もどんだけ巻き込んでんだか。あいつまじで死なねえかな。
(ん。)
死者もそこそこいる。殆どが防具を抜いでた人達だ。こんな状況想定しろって言うのも酷だけど、装備は常に付けといたほうがいいってのを教えられる。俺の場合、暗殺されまくってたお陰で装備はいつも着用だ。
あ、装備といえばそろそろおっさんたちの強化装備たちも出来ている筈だ。
「ロイド、俺らやることねえし先に帰ってるわ。話はぼちぼちそっちで!」
「了解。ただ、少し遅れる。」
「大丈夫だよ、どうせ僕らは家のみんなに揉みくちゃにされるから………。」
シュウの顔がげっそりしている。みんな結構スキンシップをするからなぁ………。
二人が帰った後も俺は治療を続け、最終的に事情聴取も受けてから、俺は『サイクロプスの巣窟』に向かった。
「おっさん、いるかー?」
「その声はロイドか?おせえぞ、もうとっくのとうに出来ちまってる。むしろ磨き代を請求したいぐらいだぜ?」
「いやー、俺も闘技祭に向けてやることがあってな………。で、どこだ実物は。」
「そこに立て掛けてあるぜ。」
見ると、そこには黒光りする右手用の篭手と、今俺が来てるものと似た鎧があった。
「おー、なんか鎧はともかく篭手は凄そうだな。」
「鎧も結構な自信作なんだがな。篭手も確かに凄いぜ。」
早速はめてみると、スイッチがいくつかあることに気づいた。
「ん?このスイッチはなんだ?」
「それに関してなんだが、これを読んでくれ。」
渡されたのは一枚のメモだ。
おっさんの字ではない。そもそもおっさんが字を書くと幾つか文字が間違っていたりする。
ということは、書いたのはあっちの魔道具技師か。
・一個目 魔力回路変更 左手丸ごと篭手に切り替えられる
・二個目 魔力を貯めておくとスイッチを押したときに障壁を出してくれる
・三個目 かかっている軽量化の魔法が切れる
・四個目 でっかくなる。三個目と一緒に
因みに、スイッチは全て片手で押せる。なるほど、判断が間に合うならこれは便利だ。
その下は普通の機能のようだ。
・これを介して魔法を発現すると強くなる
・軽量化の魔法がかかってる
・魔力を貯めておける
・でもちょっと魔道具としては壊れやすいからにーちゃんに適度に修理してもらって
・壊れた機能はスイッチとかメーターが赤くなるよ
「なるほどな。」
「その篭手、色々詰め込みすぎたってあいつが言ってたぞ。使いこなせそうか?」
「少し練習が必要かもな………。まぁ、おっさんが作ったのなら普通に篭手として使えるんだろうな。」
「篭手というかナックルというか微妙に品物になっちまったが、多分大丈夫だぜ。」
試しにシャドーボクシングすると、ヒュッといい音がなった。使いやすそうだ。
次に、今来ている鎧を脱いで新しいものを着込んで見る。
「おお、着心地がいいな。」
「なんたってクイーンタラテクトだ。そりゃ最高の肌触りだぜ。機能としては今まで通り、耐久力はかなり上がっていてとりあえず吸汗機能だけ付けといた。使い心地は最高の一品だと自負してる。前よりも軽いし、機動性も上がっているはずだ。」
「おおすげえ、生身と変わらねえぞこれは。」
「だろ?これは結構自信があるんだ。素材が良かったのもあるが、薄くしたのに耐久力が上がるなんてそうそうないからよ。」
「おっさん、マジで助かるわ。これなら行ける気がする。」
「おう、闘技際頑張れよ!」
俺は、おっさんに別れを告げて『サイクロプスの巣窟』を出た。




