310話 『黒雷』
ギルマスに助太刀したい思いを堪えて、俺は先に治療することにした。
これ以上犠牲者は増やせない。まず、そもそも俺の援護などしょぼい。
展開している『リュミエールシーカー』に勇者が気がついていないのか、はたまた戦いに集中していて気づかないのか、何にせよ俺の存在はバレてない。
俺の距離無制限の『ヘイレン』が次々と冒険者を癒やす。
まさかの死亡者はなしだ。まぁ、二人のぶつかり合いで生じる衝撃を見る限り彼らの衝撃で皆やられた感じだろうか。今の勇者の頭にはギルマスのことしかなさそうなのが功を奏したのかもしれない。
素晴らしいことに、誰も呻き声すらあげない。流石生き残るプロの集まりなだけあるな。
治療自体はすぐ終わったので、次にギルマスに『グラウンド・ブースト』に『ウィンド・ブースト』に『ヘイレン』をかける。
かけた瞬間、勇者がすぐにその場から飛び退いた。
そして、俺の方に向き直る。やっぱり、流石に気づくよな。
「ここで立ちはだかるのか、きみは。」
「うるせえ、顔を見るだけでムカつくから死にやがれ。」
「………君が邪神の加護を持っていないのが残念だ。」
「おいおいおい!余所見とは余裕じゃねえかてめぇゴラ!」
そこで、さっきまで勇者がいた所にギルマスがいた。
身体に赤黒い豪気を纏い、その口調、雰囲気はいつもの堕落したものから好戦的なものになっている。
「………しぶといな。」
「ハハハハハハハハ!人類防御力最強の本気を舐めんじゃねえぞおおお!!!!!」
「の割には勇者に全然ダメージが入ってねえぞ。」
「こいつ、殴ってもすぐ回復しやがるからよぉ。」
と言いながらその体を見ると、昔見た『レーヴァテイン』のチャージ中のようであった。
『レーヴァテイン』は生身で攻撃を受ける必要がある。
あれ、ということはこの赤黒い豪気もその変貌ぶりも………。
「『邪神の加護』、か。」
「そうだ。相変わらず察しが良いじゃねえか。」
そう言うと、再度ギルマスが突撃する。俺の横を通る時、ギルマスが囁く。
「ロイド!てめえの左手、そいつにかかってるぜ。」
「……………!」
………確かに、こいつの魔法なら吹き飛ばせる。チャージも3秒あれば終わる。
だが、一発ぽっきりだ。しかも、この高速戦闘で的確に当てないといけない。
ギルマスの『レーヴァテイン』に勇者が気づかず、それでいて十分なパワーを持てるほど成長した頃。
そして、更に俺が勇者の意識から外れなければならない。
(けど、やるしかない………!)
勇者が俺と同じ光属性を持っている以上、生半可な攻撃は回復される。
なら今、頼れるのは俺のフルチャージ雷とギルマスの『レーヴァテイン』だけだ。
だから、まず俺は『リフレクトハイド』を使う。
「「!?」」
二人が一瞬驚いたような顔をするが、ギルマスは余裕げに、勇者は少し体勢を戻しながら二人の戦いに戻った。
目を慣らして勇者から不可視の状態から放てば、流石に勇者に当たるだろう。見えなくなると意識からも外れやすいし、俺の『リュミエールシーカー』なら勇者の『マジックサーチャー』をも崩せる。
だから落ち着いて、目を慣らして機会を伺う。
左手はもう既にチャージ済み。いつでも撃てる。
「『グロース・ボルト』!」
「『イージス』!」
「『クレッセントスラッシュ』!」
「食らうかボケェッ!」
『クレッセントスラッシュ』をギルマスが肘で挟む。
だが、その身に纏う『レーヴァテイン』はまだまだ小さい。今じゃない。
慌てて勇者が飛び退くが、俺の追撃がないことを不審に思ったのか、周りをキョロキョロと見渡す。
残念なことに、お前をぶっ飛ばせる魔法は『エクスカリバー』か『クリスタ・ルーン』しかない。
どっちもお前相手じゃ前者は出が遅くて後者は火力が足りないからな………。
「どうしたぁ!こっちからいくぞ、『崩拳』!」
豪気を纏ったギルマスの右腕が隆起する。そのまま、構えていた勇者に向かって駆け出し右腕を振った。
――――――――――――ブオン。
それを勇者の聖剣が迎え撃ち、拳と聖剣が激突する。
「ぐッ………!」
流石に堪えるのか、ギルマスが拳から血を出しつつ苦悶の声を上げる。
それを見た勇者が、喜々として聖剣を振りかぶる。
「『ドラゴンスレイヤー』!」
「ぐぬおッ………!」
それをまた、素手で受け切るギルマス。血が溢れ出てくるので、俺も『ヘイレン』を再度かける。
それを見た勇者は舌打ちしながら後ろに下がった。
「厄介な。」
「てめえがロイドを見つけられない限り、お前が俺を倒すことは不可能だぜ。」
「そうか………。なら!」
勇者が、突如無詠唱で『ファイアーブリッド』を後方に放つ。
その先にあった俺が頼んで置いて貰っている煙玉。
大量の煙玉に引火し、おっそろしい量の煙が立ち込める。
(まずい………!)
流石に、これはばれる。だから、俺はここで決めることにした。
近くにいるギルマスを魔手で引っ張り、俺の近くに来てもらう。
直後、勇者が突っ込んできた。
「『クレッセントスラッシュ』!」
何度も見た奇跡。それを躱すように左腕を突き出し、一言。
「『黒雷』!!!」
―――――――――――――バリバリバリバリバリ!
全てを焼き尽くすように黒い稲妻が走り、勇者に直撃する。
後は、頼んだ。
「『レーヴァテイン』、開放!!!!!!!!!」
俺の横から、赤黒い巨大な剣が弧を描く。
明日ポケモンSM発売ですね!!!!!




