308話 闘技祭に向けて
「んーとね、この人は武術が凄いな。なんでも使うけど、特に斧。不可視の魔手でももしかしたら防がれるかもしれないから、魔手装甲だね使うとしたら。」
「この人は剣術が凄いな。あと足さばきがすごくてすぐ動ける。ある程度体捌きが良くないと凌ぐことすら出来ないと思うよ。」
「あー、拳法で有名な人だ。『マジックガード』くらいなら軽く割ると有名だよ。躱したほうがいいね。」
とりあえず先生に3人分聞いたところ、こう帰ってきた。そう、3人分である。
「………先生、もしかしてこれ、武術で戦う人が多い?」
「というか、魔法使いのほうが珍しいくらいだからね。あと魔法使いはこういう決闘みたいなのに向いていないんだよ。基本は前衛が必要だしね。だから僕も出ない。一応呼ばれたけどね。」
「『セイクリッドガード』を展開している暇もこういう相手だとあまりないし、『マジックガード』は叩き割られる。かなり厳しい戦いになりそうだな………。」
「でも今から体術をある程度納めれば有利に動けると思うけどね。ロイドには『魔手装甲』があるわけだし、体術で躱しつつ魔腕や魔手で戦うと良いと思う。」
「でも体術を納めると言っても、どうやって?」
「誰かに教えて貰うのが一番だけど………。あ、そうだ。」
「?」
「僕の相棒がいる。彼女なら教えてくれるよ。少し天才肌なところがあるけどね。
僕が話をつけておくよ。」
「シオンさんか………。あの人なら信頼できるな。」
彼女はたしかに強かった。メインは拘束技だというが、それなしでも1年前の『イレギュラーオルフェン』全員と互角に戦っていたし。
「じゃ、明日ここに来るように行っておくよ。」
そう言って、先生は手早く身支度を済ませ、家を出た。
「久しぶりだね、ロイド。」
「シオンさん、また傷増えてないか?」
「背中以外の傷は勲章だってアタイは思ってるからね!あっはっはっはっは!」
相変わらずの特攻ぶりである。敵に特攻して拘束して先生に魔法ぶちかましてもらってるそうだし、そりゃもうなんで生きてるんだってレベルだろう。
先生の『ヘイレン』も水属性としては中々に凄い回復力を誇るし、フレンドリーファイアなんて間違ってもしないから、そういう所で息が合うのだろう。
「それじゃあ、ロイド。早速特訓と行こうじゃないか。
と言っても、やることは簡単さ。
アタイが殴る。あんたが躱す。ただそれだけだよ。」
「食らえば?」
「技は使わないけど、豪気を纏うからかなりスピードとパワーが出るし、無事じゃ済まないね。まあ、あんたの『ヘイレン』はなんでも治せちゃうから問題はないさ。
さあ、魔力の装甲を纏いな。」
言われて纏うと、シオンさんが徐に殴りかかってきた。
だが、この程度なら『風帝』はしつこいくらいやってきている。寧ろ殺人級の風魔法が飛んでくる。
だから、俺はそれを危なげなくかわした。
「うん、ここ半年で何をしてきたのかは知らないけど、かなり反射神経も良くなっているし装甲の密度も段違いだね。あんた自身もある程度体力がついたようだし。
正直、Bランクの拳をかわせるようになるまで鍛えろってウィルが言った時は正気を疑ったけど、確かにこれならモノになりそうだね。」
「ということは、闘技祭でも通用するように?」
「ある程度躱すだけなら余裕だね。ただ、躱しているだけじゃ勝てない。わかるだろう?」
「シオンさんを攻撃してもいい、という訳か。」
「正解。ガンガン打ち込んできな。ただし一つだけ条件をつけるよ。アタイの周りから離れないこと。
遠くから魔法をバンバン打ち込むんじゃあ特訓にならないからね。
じゃあ、始めようか。」
そう言うと、シオンさんの周りの空気が一変した。
急に、命懸けの戦いをしているような気分になる。前とは大違いだ。
「シオンさんこそ、かなり強くなったみたいじゃないか。」
「命懸けで戦っていれば進歩も早い。あんたなら経験があると思うけどね。それじゃ、いくよ!」
目の前の空気が爆ぜる。
瞬間、俺はほぼ直感で左に体を反らした。
フォン、と真横で何かが掠める音がする。ゾッと冷や汗が出た。確かに無事じゃすまない。
だが、今ので突撃分の運動エネルギーを使った分、次の一撃はさっきよりも遅かった。
それを、風闘法の空気の膜でギリギリ絡め取る。
だが、拳は止まりきらず、俺の胸を軽くつついた。
「グッ………!」
「いいね、面白い魔法を隠し持ってるじゃないか!」
軽く突かれただけなのに、かなりの衝撃が身体を走る。それを間髪入れずに『ヘイレン』で治し、次の攻撃に備える。
と思ったら、体が宙を浮いていた。
足払いだ。
「拳法が拳だけだと思ったら大間違いだよッ!」
(『マジックガード』ォォォォォォッ!)
迫りくる拳の追撃を、渾身の『マジックガード』で防ぐ。だが。
――――――――ベキベキ。
「くッ…………!」
「まずは一本!」
『マジックガード』を割った拳が、俺の意識を刈り取った。




