306話 真祖吸血鬼
装備のアテがついた俺が次に向かったのはカナルの家だ。
「よっと。」
「当たり前のように窓から入り込むなお前。」
「どこでも魔手が展開出来る俺からすれば鍵などなんでもないのだよ。」
「ロイド君、久しぶり。」
「アリエルもいたのか。久しぶり。」
「で、どうした急に。お前がここに来るなんて本当に久しぶりだぞ。」
「そりゃまあ、俺はカンプーフに修行に行ってたからな。魔王軍が『レークス』を占拠したって話しあっただろ?
俺あそこで丁度戦ってたわけよ。」
「相変わらず厄介事に巻き込まれまくってますね。」
「ああそうそう、更に厄介事に巻き込まれてな。今日はカナルに聞きたいことがあってきたんだ。」
「どうした。貴族として頼るならそこまで俺自身に力はないぞ。」
「いや、俺貴族として頼るならイグニスに頼るし。
そうじゃなくて、五大獣についてだ。」
「フレースヴェルグのことか?」
「いや、まぁそうなんだけど、端的にいうと五大獣の真祖吸血鬼に身体ん中に入り込まれたんだ。」
「「……………。」」
二人の視線が痛い。
「ここまで来ると芸術的ですね。」
「ラノベの主人公かお前。」
「俺がラノベの主人公だったら間違いなく売れねえ。寧ろヒロイン候補が恐ろしい程いるカナルの方が主人公ポジだろ死ねリア充。」
「俺は邪険に扱ってるつもりなんだけどな。」
「そこが良い、と評判なわけですが。」
「なん、だと………?何故だ………。」
「俺もわからん。
というか話が脱線しすぎだ。それで、フレースヴェルグとはどういう関係なんだ?」
「特にどういうということはない。どうしようもなくなった時に俺を依代に顕現して戦ってくれるだけだ。あとは奇妙な隣人という程度だな。」
「回路が侵食されて雷魔法がぶっ放せるとかはないんだな?」
「お前、ぶっ飛ばせるのか。」
「おう、こんな感じにな。」
バチバチ、と左手から放電させる。
すると、カナル側から突然奇妙な声がした。
『少年、それは年中貧血男の力じゃないかい?』
「「「!?」」」
荘厳な声が響き渡り、カナルから急に強力な魔力が溢れ出た。
「ふ、フレース!?どうしたんだ急に。」
フレース、というのはあだ名なのだろう。
『いや何、懐かしい魔力を感じてね。再び会うことはないと思っていたのだが………。
と言っても、しっかりと封印されているようだね。意識を出すことも出来ない、か。良い魔力を持っているよ少年。』
「え、えーと………光栄であります。」
でも俺この魔力のせいで攻撃魔法使えないんです助けてください。
『時に少年。私に聞きたいことがあるのではないのかい?』
つまり、この真祖吸血鬼について教えてもらえるということだろうか。
「この身体の中にいる存在、これを取り除くことはできますでしょうか。」
『残念ながら無理、と言っておくよ。そもそもその男は生物として寄生して生きる存在でね。私のようにいつでも受肉できる、という訳ではないんだ。その男は誰かに寄生し、寄生主の身体を奪って生きる。ただし血や魔力を摂取しないと段々飢えで理性が失われる、という仕組みさ。
今は君の中に封印されているお陰で飢えは満たされているみたいだが。左腕に寄生することで魔力を摂取している訳だ。』
「つまり、この左腕はもう既に寄生されていて治らないということですか?」
『そうだね、元のようにはならないだろう。だが直に慣れるさ。現に君のその魔力回路は少しずつ今の状況に慣れ始めている。』
「次に、この真祖吸血鬼を安全に開放させることはできますか?」
『彼の力を使いたいわけか。彼は別に好き好んで寄生をしているわけじゃないからね。君との共生が可能なら君と有効に接したいと考えるだろうし、そうすれば開放しても君が食い散らかされることはない。
少なくとも今の状態が続けば共生は可能だろうね。君は非常に優秀な人材だよ。』
つまり、上手く行けばこの強大な力を思うがままに振り回せる日が来るらしい。
「最後に、彼はとある洞窟の隠し部屋に居ました。どういうことかわかりますか?」
『うん、これは五大獣全員に関わる話なんだけどね。
君は初代魔王が五大獣によって造られた存在だと知っているかい?』
「はい。」
『その際、僕らはそれぞれ色んなものを奪われた。最たるものは肉体だ。私は軽度だったが、彼の場合は深刻で常に誰かに寄生しなければならない状態になってしまったんだよ。
同時に、彼は元々持っていた吸収能力の大半を奪われた。これによって彼は血や魔力を吸っても吸っても飢えがなかなか満たされなくなって悩んでいたわけだ。
実際、魔王が造られてからの彼の暴食っぷりは異常だったよ。気がつけば周りに血溜まりが出来ている、みたいな感じだ。
ここから憶測の域を出ないけど、多分彼は自分自身を封印したんだ。これ以上死を振りまかないためにね。彼は分類上モンスターだけど、虐殺は好まなかったようだし。』
「ありがとうございます。」
『以上のようだね。じゃあ私はまたカナルの中に戻るとするよ。』
そう言って、フレースヴェルグは消えた。
「………なんというか、本当に神代の話を聞かされましたね。」
「あいつがこういう話をするのは珍しい。」
と、ここで俺の『リュミエールシーカー』が下でカナルの監視員が動いたのを捉えた。
多分、今のフレースヴェルグのせいだろう。パニック状態に陥ってる可能性があるし、一応説明はしておきたい。
「いやー、良い収穫だった。と、いう訳で俺はもう帰るぜ。」
「おう、相変わらず嵐のように去っていくな。」
「こちとら忙しい身の上なもんでね。」
俺はそう言い残し、窓から飛び降りてカナルの監視員に事情を説明した。




