305話 装備新調 4
最初に一悶着あったものの、その後の話し合いは実に素早く行われた。
「他にご用件はありますか?」
「いえ、大丈夫です。」
動いた金額は約200万円。全く笑えない。クイーンタラテクトの糸が高すぎた。話を聞くと貴族御用達らしい。肌触りもよく色艶もいいのでドレスやらなんやらに引っ張りだこだそうだ。
それでいて冒険者の防具に使えるほど頑丈って最高の素材じゃねえか、というのが俺の感想だ。実際最高級だから高かった訳だが。
「では、『サイクロプスの巣窟』へ送るよう業者に言いますので。」
そしてこの親切対応。業者自体も商業ギルドお抱えらしい。
「何から何まですみません。」
「いえいえ、仕事ですから。」
俺が立ち上がると、アーノルドさんがすっと立ち上がって先にドアを開けてくれた。
そのまま階段を降りる。後ろにはアーノルドさん。
商業ギルドの玄関で、振り返って俺はお辞儀をした。
「今日はありがとうございました。」
「またのご利用をお待ちしています。」
これは冒険者ギルドは勝てない。俺はそう感じながら『サイクロプスの巣窟』に向かう。
横を業者さんがすごいスピードで走っていった。
「よお。」
「素材とともに客が来る現象を俺は初めて見たぞ。」
業者さんが綺麗に梱包された商品を開封している所で、俺は『サイクロプスの巣窟』に着いた。
「そうか。で、どうだ?これで足りるか?」
「バッチリ足りるぜ。」
「にーちゃん、嘘は良くない。」
いい笑顔で言ったおっさんの後ろで、俺よりちょっと大きいくらいの女の子が出てきた。
「うっ………ど、どこが嘘だってんだ?」
「『足りない』じゃなくて『余る』でしょ。目がちょろまかして懐に入れる気満々だったよ。」
「……………。」
ジィーっとおっさんを睨みつける。
「い、いや………なんせクイーンタラテクトの糸なんて高級なもんそうそう手に入らなくて………。」
「………まあ、いいけどな。俺が使うよりおっさんが使ったほうが良いもん出来るだろ。」
「よっしゃ流石ロイドわかってる!」
「それより、おっさんの横にいる子は誰だ?」
「ああ、こいつか。こいつは俺の友人で魔道具の作成が専門だ。」
「よろしく。」
まさかの女の子である。最近おっさん共としか接してないせいで免疫が………。
「そうだ、こいつにお前の杖だかなんだかを作ってもらえ。
前作った白濁拳は壊れたんだろ?お前専用のガントレットを作ってやるから、こいつに魔道具としての機能を頼んでおけ。俺は早速鎧の制作にかかるからよ。」
「待て。」
「なんだ。」
俺はメモにパッパと書き付けておっさんに見せた。
『女子怖い』
「…………。」
「私も言いたいことがある。」
そう言って目の前の子もそこら辺から紙を引っ張って何か書いておっさんに見せた。
字が書けるということは教養ありそうだな。
そして、そのメモにも目を通したおっさんは、態とらしくため息をついた。
「どいつもこいつもコミュニケーションがよぉ………。」
あっ………(察し)。
なんかそんな気はしたけど、コミュ障のようだ。俺が言えた義理じゃないけど。
「仕方がない。俺はどうしたらいい?」
「「一人にしないで(くれ)。」」
「てめえらはウサギか。」
おっさんはそう言うと、小さな木のテーブルを片手で引っ張り俺達の前に出した。
「よし座れ。」
俺と女の子が向かい合い、おっさんがテーブルの横につく。
「え、えーと。希望したい魔道具なんだけどな。」
そう言って俺はパパッとメモに纏める。
・攻撃魔法が撃てるもの
・どんな魔法だろうと威力が上がるもの
・自分の魔力回路と接続して代用できるもの
・その他なんか便利機能
「魔力回路を接続………?何か意味があるの?」
「とある事情で、身体が一時的に魔力回路が侵食されることがあるんだ。その時に代用できればな、と思って。」
「身体丸ごと侵食されるの?」
「そうだな。軽度だと左腕丸ごと。一番重症で全身だ。」
「そこはにーちゃんの鎧に付加する形になるかな。」
「他の機能は大丈夫か?」
「この攻撃魔法、というのがわからないんだけど。普通に使えば良いんじゃない?」
「俺、攻撃魔法が使えないんだ。」
「珍しいね。ちなみに理由を聞いても?」
「魔力がおっそろしく閉じてるらしくて、攻撃魔法が全く使えないんだ。」
「………見てもいい?」
ここで言う見る、とは『マジック・サーチャー』のことだろう。
高い技量を持つ人なら、自分が『マジック・サーチャー』を使われたことに気づく。更に言えば覗き見されることは気分が良いものではない。だから俺に許可を求めたんだろう。
俺の『リュミエール・シーカー』を看破できる人はほぼほぼ居ないだろうけど。
「どうぞ。」
「我が水の力集いて彼の者を探れ『マジックサーチャー』。」
自分の魔力に別の魔力が介入する。
「試しにちょっと攻撃魔法を。」
「我が水の力集いて仇敵を討て『アクア・ブリット』。」
しかし なにもおこらない。
いつものことである。
「これは無理だと思う。少なくとも私がどうこうできるようなレベルじゃない。」
「デスヨネー。」
どんだけ引きこもってるんだ俺の魔力。
「他は大丈夫かな?この、その他便利機能ってのは………。」
「おまかせ致します。」
「ん。りょーかい。」
「早えなぁ………。」
おっさんがぼやく。シュウとかは武具作成の依頼の時はかなり時間かけるからなぁ。
「どうせ武器自体はおっさんが作るからな。あまり心配とかはないんだ。
俺の場合欠点は火力が出ないってことにいつも帰着するし、こんなもんだろ。」
「信頼が重いぜ。」
「にーちゃんならできる。」
グッ、と親指を立てるその姿を見て、俺は1つ疑問に思った。
「気になってたんだけど、おっさんに妹なんていたか?」
「いや、こっちで引き取ってたんだ。こいつあの学園に通っていたんだけどよ、一年目でえらーい貴族様の娘に目つけられてな。一悶着あって自主退学したんだ。それを俺が見つけて魔道具の技師として雇ってみたんだ。それ以来ずっと魔道具の技師として働いてんだ。つっても魔道具の技師は引っ張りだこでいつもここにいるわけじゃないけどよ。」
「かれこれ10年かなもう。」
10年、と聞いて俺は彼女をもう一度見た。
えっと………多分25歳位のはずなんだが………。
「あ、こいつ少しエルフの血を引いているからな?身体の成長が遅いんだ。」
「そう、私は仕方がない。」
何故か勝ち誇った顔で俺を見下ろす。
………おっさんいなくても別に普通にこの人話せるんじゃないかな………。




