29話 俺氏、概念魔法を発現する
「あ！」
ふと、俺は目を覚ました。もう夜か。
頭とか打ってた痛みが急に消えたからショックで意識を失ったんだろうな。
ピンチの時にはむやみに使わないことにしよう。
敵陣の中で意識を失うとか真面目にシャレにならない。
「……っつ！」
あ、筋肉痛だ。『ヘイレン』では筋肉痛は治せないんだよなぁ……。
変な所で低スペックだな、『ヘイレン』って。
そういえば、昨日いきなり石が出たのは何だったんだろう。
なんか石が出た瞬間に少し俺の魔力が使われたような感じがしたんだが…。
もしかして魔法の一種か？
そこで、俺は筋肉痛の体を引きずってリーユさんに聞いてみることにした。
因みに、先生がいなくなってしまってからはリーユさんに教えてもらっている。
なんと彼女、この年で詠唱時間を減らすことに成功している。
原理は教えてもらえないが、とにかく凄え。
しかも魔法に関しては結構博識ときている。
属性が風のみなのが残念だが、十分だ。
後は俺の女性恐怖症がなければなぁ………。はぁ。
まあそれは置いといて、先にこれがどういう原理なのか知るためにも
一度魔力球を空中に作ってみる。
といっても、今までは全部手か魔力の手に触れた状態でやって来たから、
イメージが面倒くさい。
でも、できないレベルじゃない。実際俺やったし。
―――――パッ。
お、できたできた。
これに変形魔法をかけるのか。触れなくても出来るのかな？
(アース・ホール！)
よし、成功。小石が出来た。使った魔力も普通に魔法を使った時と変わらないし。便利だな。
じゃ、消すのも試してみよう。
(アース・ホール！)
―――――フッ。
何の問題もなしっと。
よし、聞きに行こう。ホント、これもチートの一つだったらショックだな。
4年生きてきて気付かなかった、てことだし。
「リーユさーん。ちょっと教えて下さい。」
「ん、何だ？」
「あの、今日の昼から不思議なことが出来るようになったんですよ。
見ててください。」
「ああいいよ。」
(アース・ホール！)
―――――パッ。
「！ちょっと待て、昼にお前魔法を使いながら何かを強く願ったか？」
なんか心あたりがあるらしい。
「あ、はい一応。今日すごい人に追いかけられて、小石でもなんでもいいから転ばせてくれないかなーと。その時『ウィンド・ブースト』も使っていましたね。どうかしましたか？」
「それはな、概念魔法と言われるものだ。
魔力を持ったものが魔力に干渉した状態で非常に強く何かを願うと、
願ったことができるようになるんだ。
恐らく君は、小石を存在させたいとでも願ったのだろう。
君のような前例は他にもいたらしくてね、その人は自分の概念魔法を
『離れた所に魔法を発生させる力』と呼んでいたそうだ。
因みに私も概念魔法を持っていて、『詠唱省略』と呼んでいる。」
えーと。色々情報があって混乱するけど、要するに俺は『離れた場所に魔法を発生させる能力』を手に入れたってことか？
でも、普通の人なら殆どいらないだろ。
攻撃魔法は自分を中心に20m以内ならどこからでも使えるそうだし。
さらに、魔力を沢山込めればもっと遠くまで距離が伸びるとか。
が、俺には有用かもしれない。試せばたらい落としとか出来そうだ。
後は相手の進路方向に尖った岩を置くとか。うん。使えるな。
「へえ。知りませんでしたよ。
それにしてもなんで先生は教えてくれなかったんでしょうかね？」
「先生？ああ、ウィルさんのことか。
概念魔法が発現するには3つの条件が必要なんだ。
1、何かを強く願う。
2、願っている時に魔力に干渉している。
3、概念魔法の発現条件を知らない。
今言った、3が理由だろう。
私達はかなり命が危ないからしょっちゅう概念魔法が発現する人がいる。
だから君のために概念魔法の存在を教えなかったんじゃないかな。」
おかげで俺の命が助かったと。
本当に先生には感謝が足りない。
「はああ。成る程。
一つ聞きますが、なんでリーユさんは概念魔法が発現したんですか？」
「あまりいいたくないんだがな………。
私は昔はすぐ舌を噛んでしまっていたんだ。おかげで魔法が使えなくて。
だから、何としてでも魔法を使いたいと願ったらこんなになったんだよ。
これ、他の人は教えないでね？」
やばいっす。めっちゃ殺気漏れてるっす。
あっちから言ってきたのに酷い。俺が聞いたんだが。
「は、はいぃぃぃぃぃ。」
「ならよし。しばらくは概念魔法の練習をしとくといいよ。
私も少しなれるのに時間がかかったし。」
「有難う御座いました！」
遂に俺もチートではなく自分の力で能力をゲットすることが出来たか。
なんか嬉しい。初めてアルバイトで給料をゲットした時の感情に似ているのだろうか。まあいいや。
とりあえず、とっさに概念魔法が使えるくらいのイメトレはしておこう。
あと、昼に農園に潜るのは止めるかな。
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