299話 吸血鬼の洞窟
「最高に「ハイ!」ってやつだァァァァァァアハハハハハハッッ!」
無制限に湧き出るアンデッド、コウモリ等をなぎ倒し続けた結果、俺のテンションはおかしいことになっていた。無双ゲーをやっているとテンションが上がるあれである。
1年前はここの雑魚2体に結構手こずっていたのを考えると俺の成長速度はかなり早い方に感じる。
特にジジイとの修行が効いた。
(これなら魔王軍とも戦えるな。)
やっぱり俺の光属性は相性が良い。というか『リュミエール・シーカー』で結構なモンスターが消し飛ぶってのがいい。
ついでに魔石も回収できるものは回収。ここは臭いやらジメジメしてるやらで皆来たがらないのでここの魔石を欲しがる人は多い。
でも依頼人がリッチの研究してたり吸血の研究してるのが怖いね。恐らく禁忌指定されてるような研究だ。だからかわからないが無駄に報酬が良い。
自転車やら何やらでおっそろしいほど収益は出ているだろって?
バーロー、いくら金持ちでも目の前に金が積んであったら取りに行くだろう。
(でもな………金溜まり過ぎるのも難だし使い道考えないとな………)
ロッ○フェラーさん並の思考である。孤児時代の俺が見たら血の涙を流すことだろう。
そんなことを考えながら戦っていられるほど余裕があった俺は、少しこのダンジョンを探検したくなった。
このダンジョンは人が少ないだけあってあまり探索が進んでいない。
もしかしたらこのダンジョンを俺と同じように対アンデッドの特訓する場として使う人がいるかもしれないし、他の冒険者のためにもマップを作るのは悪いことじゃないはずだ。
という訳で、紙とペンを取り出しマッピングを始める。
『リュミエール・シーカー』で基本的に敵の動きは察知できるので問題はない。
と、俺がマッピングを続けていると次第に周囲が暗くなっていく。
とりあえず光属性魔力で周囲を照らし、視界を確保する。
(そういえば、ここボス部屋がないんだよな。)
いつもピンチをくれるボス部屋だが、無いは無いで寂しい。えらーい学者様がそういうダンジョンだと言ってらしいんだが、そう言われるとなんとなく反発心が起きる。
よし、一旦雑魚処理はやめてマッピングに専念しよう。
そう考え、体の周りに『マジックガード』を展開して壁を伝い走ろうとした瞬間。
「え゛っ。」
俺は落とし穴に落ちた。
「いってえ………。」
俺が落ちた先には、一つの通路があった。
ただし、後ろは行き止まりで尚且つ俺が落ちてきた穴も消えている。あるのはただの天井だ。
「………なんてこったい。」
ここに来てこのしくじりである。
まあ、他に道がないってんなら前に進むしか無いわけで。
「うおっ!」
そんな俺に、バサバサとコウモリ達が突進してくる。
そいつらを魔手で叩き落とした。
きぃぃ、と断末魔を上げてコウモリが死ぬ。
「他愛無い」
ザ○ード並のセリフを吐いてリラックス。あのポーズが忘れられない。
さて、改めて落ち着いて観察してみると、ここはおっそろしいほど濃密な魔力に満ちている。
そして、元凶は間違いなくこの通路の先にある。やっべえおらワクワクしてくるどころか帰りたいぞ。帰れないけど。
ところどころコウモリを叩き落としつつ、俺は前に進む。
通路にはよくわからない文字が書き連ねられ、淡く光り俺の視界を少し照らしていた。
歩けば歩くほどコウモリの数は多くなり、感じられる魔力も濃くなる。
「………ッ!」
遂に、激しい悪寒とともにその元凶と俺は目が合う。
その目は黄色く、口元からは伸びた犬歯が、背中には黒い大きな翼が有り、その白い肌が薄暗い通路の中で映えている。
「吸血鬼、か?」
言葉を理解しているのかわからないが、俺の言葉を聞いてその口元が三日月状に歪む。
直後。
(速――――)
吸血鬼の顎が目の前に現れ、齧り付かんとする。
何とか『マジックガード』を展開するも、すぐに破壊される。いや、正確には吸収された。
だが、その間に俺は躱すことに成功する。
なんとか初撃を防いだ俺に、再び顎が殺到。
同じ手段でそれを凌いだ俺に、今度は左手が伸びてくる。
それを魔手で叩き落とそうとした瞬間、その左手が雷電を帯びる。
「ぐッ!」
雷の直撃を喰らい、俺の意識が一瞬手放される。
(しまった――――――)
その隙を見逃すはずもなく、吸血鬼の顎が再び開く。
(くそおおおおぉぉぉぉ!)
それでも頭を守らんと根性で顔の前に左手を出す。
吸血鬼はそこに躊躇なくかぶりついた。
「ああああああああああああッッッ!!!!」
ゴリッと手首に歯が食い込む。
更にそれだけではなく、俺の中の何かが吸い取られ、同時に何かが流し込まれる。
それは急激に俺の体力を奪った。
「あ………。」
思わず脱力した俺は、その場に膝をつく。
そのまま、俺は倒れ伏し意識を失った。




