28話 なんか変なところまで受け継いじゃっているんだが(;_;
4歳になった。
『堕ち豚』やら先生の『卒業の儀』から一年が経ったが、やっぱり俺の体はあまり成長していない。
さすがに身長が5cmくらいしか伸びてないことに気がついた時は涙が出た。
確か4歳って100cmくらいあったはずなのだが、俺は85cmしか無い。
栄養不足にも程があるだろ。
それはさておき、俺は今、とある農園でキャベツを漁っている。
『堕ち豚』の件で免疫ができたのかどうかは知らないが、俺は必要な時は物を盗んでも抵抗を感じなくなった。
最初に盗みを農園でやった時は、孤児としては進化しただろうが人としては退化したな、などとは思っていたが、これも生きるため。
仕方がないと割り切るようになった。
あと、盗みと言ってもこの農園で漁る方法は結構安全だったりする。
たいてい農民の方々は農作業で疲れて熟睡しているので、夜に農園に潜れば
かなり安全なのだ。
だが、やり過ぎると農園の警備が硬くなったり、農民の人が餓死する可能性すらあるので、これが許されるのは5歳になるまで。
ま、俺だと後1年続けられるけどな。
おかげで俺は畑の上で寝そべりながらキャベツをやっとしっかりしてきた
歯でガジガジキャベツを食える。
前世では学校にいく時以外王座にずっと君臨していたのに
今では夜空を眺めて和むようになるとは。人ってよく変わるよなぁ。
いつも通り2玉ほどキャベツを平らげた俺は、見つからないように基地へと帰った。
基地に戻り、寝てる人起こさないようにして、
少しずつ持ち帰ったキャベツをかじりながら寝る。
これが俺の最近の日課となった。
他の農園組なら持ち帰らずに現地で食った後はすぐ寝るそうだが、
俺の場合何故かはわからんが夜遅くまでおきても寝坊したり、日中に眠くなるなんてことがなくなった。
前世の生活が原因なら納得できるんだけどな。
軽度の睡眠障害を持っていたために俺は12時就寝からの
3時起床みたいなことが余裕で出来てた。
正直、金縛りやら幻覚がたまにあって辛かったこともあったが、まあ要するに睡眠時間が少なくても何の問題も無かった訳だ。
あれ?まさか今の俺の身長が低いのって睡眠時間が少ないからか?
いや、そんなことは……………。いや、ありえるな。
ならこれからは早く寝なければ、と思って寝ようとしたが、眠れない。
まさか本当に睡眠障害なのか!?
そういえば、偶に金縛りがあったような…………。
ちょっと待て。魔王さんあんた変なところまで受け継がせちゃっているぞ?
やべえ。睡眠薬plz。ちゃんとした奴なら滅茶苦茶効くのに。
あ、そうだ。確か水魔法に『スリープ』ってあるな。
誰か使えないかなー。と思って周りを見渡すが、聞こえるのはいびきだけ。
だよなぁ。仕方がないし、いつも通り眠気が襲ってくるまでキャベツを齧りますか。
ガジガジガジ。
(はぁ…………。これが兎人族とかだったらハムハムハムってなるんだろうな………。)
我ながらくだらないことを考えるな。
翌日。
俺は、昼に農園に潜る、という結論に達した。
という訳で俺は今、昨日とは別の農園で人参を齧っている。
今日俺が選んだ農園は基本的に朝と夕方に耕される。
お陰で昼は潜り放題というわけだ。
他にもこういう形式をとっている人は居るので、これからは昼に盗みに入ることにしよう。
ふっふっふ。これからチビなど誰にも言わせはしない!
まあ、誰かが俺のことをチビっつってるわけじゃないけど。
なんとなく、俺が嫌なのだ。前世でもチビだったから。
それにしても秋にしてはいい天気だな。
昼寝できたら最高だろうに。俺の場合眠気が来ないけど。悔しい。
というか此処で寝てそのまま寝過ごしたら死亡確定だし。やめておこう。
なんかもう本当に俺が兎人族だったらな、て思う。
なんたって小さい子が農園で人参をポリポリ齧ってんだぞ?
兎人族にピッタリじゃないか。
まあいいや。無い物ねだりをしても意味が無い。
――――――――――ガサッ。
「!?」
いや、ちょっと待て。今眼の前の草むらが揺れたぞ!?
あ!野生の兎人族が飛び出してきた!
とはならないだろうが、なんか可愛い小動物でも居るのか!?
気になったので、今揺れた草むらに飛び込んでみた。
が、飛び込んだ先にいたのは・・・・・・。
「Wooof!grrrrrrr!]
猟犬感満載の犬だった。
よし、とりあえず逃げよう。
『ウィンドブースト』展開完了!魔力の手4本準備完了!
ロイド、行っきまーす!
「くっそオオオオオオオオ!」
「grrrrrrrr!(待ちやがれ!このクソ泥棒!)」
やっぱし犬速い!魔力の手のパンチを避けながら俺に追い付いてくるってどういうことだよっ!
「もういいや!喰らいやがれ!」
が、俺はなんとか煙玉に発火させれた。
これで撒ける!俺の勝ちだ!
と、思っていた頃もありました。
「wooooooon!!(効くかボケナス!)」
「いやなんで効いてねえんだよ!?」
煙玉意味ねええええ!
あ、そうか。犬って鼻がいいんだった。
って呑気なこと言ってる場合じゃないじゃん!
次の手は………。
「どうした?クー太郎?」
あ、農園の主も来ちゃった。
てかクー太郎てなんだ、クー太郎て。
「ん?な!貴様まさか俺の畑を!?許さん!とっ捕まえて警備兵に出してやる!」
乙った。
クソッ!2対1とか無理ゲーだろ!
まあ、人の方は煙玉があるからオーケイとしても、犬が無理だ。
あ、ちょっと待てよ?犬は落とし穴にはめればいいじゃん!
幸い犬も主人の登場で少し止まっている。
今がチャンス!
(アース・ホール!)
―――――ボコッ。
「オオオオオオオオォォォォォォン!」
よっしゃ!かかった!
「な!貴様!よくもクー太郎を!殺す!絶対殺す!」
「仕方がねえだろ!?てか物騒だわ!」
ちょっと軽口を叩きながらも急いで煙玉を投下する。
「煙だと?は!
我が風の力集いて彼の者を飛ばせ!『ウィンド・パルス』!」
「嘘だろ!?魔力持ち!?」
「続いて
我が風の力集いて彼の者を助けよ!『ウィンド・ブースト!』
もう終わりだ!コソドロめ!クー太郎の恨みはここで晴らす!」
く!予想外だ!しかも詠唱めっちゃ早口!
なんでこんな所で農民やってんだよ!王宮にでも引っ込んでろ!
駄目だ。こんな誤魔化しで現実から逃げちゃいけない。
なんか嫌なことがあると冗談言って誤摩化すのが前世から続く俺の悪い癖だからな。
もし、ここで捕まれば多分死刑だ。身寄りいないし。
死ぬ直前の痛みを思い出す。駄目だ。死んじゃいけない。
絶対に死ぬもんか。何としてでも逃げ切ってやる。
手始めに、『マジックサーチャー』を展開し、後むきに走っていた体勢を前に戻す。
そのまま、『ウィンド・ブースト』を全開にして走り始める。
『マジックサーチャー』で距離を測ってみるが、差は縮まっていない。
よし、思った以上の成果だ。
「なんでだ!?なんでそんなに速い!?」
ハッハッハ。ざまあみろ。
チート(光属性)のお陰でほとんど魔力を気にしないで
魔法が使えるんだよ俺は!
と油断した瞬間。
―――――ガッ。
「!?」
しまった!石に引っかかっちまった!
「は!油断したな!終わりだ!」
くそう!コイツも石で転びやがればいいのに!
なんでもいい!神でも仏でもいいから俺を助けてくれ!
誰かッッッ!助けてくれ!
助けてくれえええええ!
そう祈った瞬間、急に追いかけてきたおっさんの足元に石が現れた。
「何っ!?」
―――――ドサッ。
何が起こったのかはわからないが、とにかくチャンス!
早く逃げるぞ!
「うおおおおおおおお!」
痛む体を全力で動かして、俺は逃げ切った。
そのまま基地に滑り込み、そしてそのままへたり込んだ。
なんかもう凄え疲れた。
体中が痛い。ヘイレンを使うと、急激に痛みが引いていき、
その勢いで俺は意識を失った。
最近始めたサドンアタックが意外と面白いっ………!?