283話 弟子入り
「ギエピー!」
気絶から復帰した俺は、痛みから奇声をあげた。
いや、もうなんで気絶できたのってレベル。ベッドの上で寝てなけりゃあもっと酷かったに違いない。
………あれ、ベッド?
周りを見れば、俺は誰かの家の中にいた。
「なんじゃ、やっと起きたのか。」
ベッドの下からしわがれた声がした。
お前んちか、ここ。
「なんでそこにいるんだ、ジジイ。」
「ワシはカラスとコウモリのハーフじゃからの。こういう所が落ち着くんじゃ。」
コウモリは狭くて暗い所を好むと聞く。
そうか、コウモリか。
「道理であんな簡単に滞空できるわけだ。」
「そうじゃの。」
なんて話している間に、俺の怪我は完治していた。
称号の恩恵が大きいな。
そういえば、称号ってどういう仕組なんだろうか。加護は何となく分かるんだが。
「あとそうじゃ、1つ頼みがあるんじゃが。」
「なんだ?」
「お主の裏拳で肋骨が折れた。治せ。」
「ジジイ、風魔法の『ヘイレン』はどうした。」
「お主、これが治せると思うか?」
『風帝』はのそのそとベッドの下から出てきて、シャツをめくり上げる。
「うっげ。」
3本くらい肋骨が肌を突き破っていた。所謂複雑骨折ってやつだ。
出血などは『ヘイレン』で流石に治してたみたいだが。
俺がぶん殴って折ったので流石に意地悪する気とかにもなれずパッパと治した。
「ふぅ……結構これ、キツかったんじゃよ………。」
「俺何日くらい寝てた?」
「丸2日じゃな。」
2日もこれを処置無しで耐えたのか。凄いメンタルだ。
ちゃっちゃと俺を叩き起こして治してもらうことも出来ただろうに。
「あれ、なんで態々俺を叩き起こさなかったんだ?」
「お主死にかけじゃったからの。ワシだって弟子を殺す気はないわい。」
「え?俺合格なの?」
「お主、即興で『マジックガード』を服状にしたじゃろ。」
「ああ………そういややったな。ってかよく即興ってわかったな。」
「前会った時に使ってなかったからの。
あんな事した上にワシを追い詰めるような奴を不合格には出来んわい。」
おお。
「や っ た ぜ。」
こうして、俺は『風帝』ランヴォルに弟子入りした。
「さて、お主にワシが教えることなんじゃが………。」
『風帝』は一度を言葉を切り、肌で感じれるほどの濃い魔力を出す。
(『リュミエール・シーカー』)
そんな俺の魔法に映ったのは、俺もよく使う魔手。
だが、練度が桁違いだった。
魔手が一本、振り下ろされる。
――――――――ゴッ。
俺の魔手3本分の力が、大地にヒビを入れた。
「………メインは魔力操作、ひいては魔力のきめ細かさじゃな。」
「きめ細かさ?」
「あれじゃ、お主の魔手は言うなれば粘土じゃ。ぐにゃぐにゃに動くが、パワーも耐久も足りん。」
「それをどうするんだ?」
「魔力を編むんじゃよ。」
「編む………?」
言われてみれば、俺は魔手についてよく考えたことがない。自分の主力にも関わらず、だ。
念じたら出るもん、と勝手に考えていたが、そうか。
「ぅぉぉおおおおお………。」
「そう簡単にはできんじゃろうな。」
「チッ………。」
初めてだ、魔力操作関連で失敗するのは。
だが。
「やり甲斐ありそうじゃねえか………!」
「因みに、それは第一段階じゃ。」
「え、マジで。」
「最終的には魔手で空を飛んでもらおう。」
「………へ?」
「ワシはそれが限界じゃからな、それさえできれば免許皆伝じゃ。」
「なるほどな。」
「後は組手じゃ。お主の体術は素人すぎる。魔手装甲の高い身体能力を活かさないのは勿体無いしのう。」
「ジジイ、体術出来んのか?」
「出来なければこの歳でAランクには留まれんよ。
ワシには弱いなりの体術がある。それをお前に叩き込んでやろう。そうすればお主でも魔手装甲なしで戦える。」
「言っとくが、俺めちゃくちゃ非力だぞ。」
「そうじゃな。流石にお主は体力がなさすぎるのう………という訳で、朝練じゃ。近くに里がある。
そこで飯を大量に買ってこい。まずは飯を毎日一杯食うところからじゃ。」
外に放り出されると、獣道があるのがわかった。
「あれか。」
「そうじゃな、それと、ここらの森はワシが集めたBランク級の魔獣が繁殖しておるから、避けていけ。」
「なんだその訳わからん森は。Bランクうじゃうじゃいるとかそれもう俺死ねるぞ。いや、大丈夫だよな?俺。」
「元々はワシが自分の鍛錬のために集めたんじゃがな。まぁ、安心せい。あいつらは殺しに来たりはせん。
多分な。」
「多分!?」
「いいから行くのじゃ。」
「理不尽!」
俺はケツを蹴られて森へと入っていった。
 




