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282話 対『風帝』

俺が『風帝』を見に行くと、負けた割には何も気負ってない様子だった。


「おお、テメエか。それでワシの弱点はわかったか?」


「いんや、特に。とりあえず弓に弱いってことくらいかな。俺使えないから意味ないけど。」


「そうじゃろうな。」


本当に、Aランクってのは同じ人間か疑うような連中だということがわかった。

お前ら人間じゃねぇ!って奴だ。


「けどまぁ、負けるつもりはないんだけどさ。」


「ほう、言ってくれるもんじゃ。ならこうしてはおれんの。」


そう言って『風帝』は座っていたソファから降りた。


「閉会式は強制じゃないしの、ブロック通過程度じゃ貰える報酬は微々たるもんじゃ。金ならありあまっとるしの。」


「つまり?」


「今から試験をやるってことじゃ。」


「どこで?」


「近くにワシらの里がある。そこでじゃな。安心せい、ワシが連れてってやる。」


「いや、自分で飛ぶぞそんくらい。」


こいつに背中見せるとなんかされそうで怖い。


「生意気なやつじゃのう………。ならいい、さっさとついてこい。」


そう言って『風帝』は駆け足で控室を出る。

俺もそれに倣って走る。

それを運営の人が止めようとする。


「あーっ!ランヴォルさん!閉会式がまだ残ってますよ!」


「ワシ一人いなくても大丈夫じゃろう?」


「いや、大丈夫ですけど!こっちの面子が立たないといいますか!」


「いいじゃろう、報酬代が浮くんじゃぞ!」


「ああ………もう………。」


「なんかすみませんね………。」


とりあえず謝るだけ謝っといた。

でもなんか諦めてる感じだったな………。


「これでシェルさんとランヴォルさんか………。」


ああ……もう一人いたのか………。

俺は内心で合掌しながら走った。















「ココらへんでいいじゃろう。おいチビ、降りるんじゃ。」


「誰がチビだおい。」


『風帝』が指定したのは、森のなかにポッカリと空いた場所だった。

俺が『マジックガード』から降りると、『風帝』は俺から距離をとる。

そして、銀貨を取り出した。


「今からコイツを投げる。コイツが地面に落ちた瞬間、開始じゃ。」


「いいぜ。」


俺が了承すると『風帝』は銀貨をピン、と弾いた。

銀貨はそのまま3回ほど回転し、そして――――――――


(フラッシュ!)

「ぐお!?」


先手必勝。まずは視界から潰す。これで空に飛べねえはずだ。


「『ストロム・ベルジュ』!」


そして、魔手を『風帝』の周りに展開、『ストロム・ベルジュ』で一気にカタをつけようとした所で。


「ッ!?」


魔手に存在する僅かな痛覚が、俺を襲った。


「カッカッカッ、発想は良かったぞ。ただ、すこしばかり遅かったのう?」


「あの風の結界か.....。」


「今回は動いたものを切り裂く奴じゃよ。」


見れば、俺の魔手は全てズタズタに引き裂かれ消え失せていた。


(とりあえず、『リュミエール・シーカー』。)


相手の魔力の流れを感じ取る。迂闊に動けばズタボロにされるため、下手に動けない。


(厄介だな………)


「さっさとその『ウィンド・ロール』で突破したらどうじゃ?」


『風帝』が安い挑発をかける。

だが、この結界の発動条件は『風が動くこと』つまり『意図的に風を起こせばそこで斬撃を生み出せる』のだ。

ここで『ウィンド・ロール』で風を動かさずに動いても風魔法で俺周辺の空気を弄り攻撃してくるだろう。

厄介な魔法だ。


だから俺は。


「『セイント・ブースト』、『ウィンド・ブースト』。」


常時回復でゴリ押す(・・・・・)

俺がかけ出すと、強烈な斬撃が俺を襲う。

だが、その傷は一瞬で回復した。


「何!?」


「『ブースト』!」


更に唯一使える豪気の技で身体能力を強化。

一瞬で『風帝』の前に到達することに成功する。


「くらえ!」


魔手装甲を制御せずに右腕に纏う。

右腕がボッキボキになるが、それも一瞬で回復する。


「チッ!」


『風帝』は逃げるために自分を風で後ろに飛ばす。

だが、確実に拳は届いた。


「ぐおおお!?」


「ハァ………ハァ………。」


何とか『風帝』を殴り飛ばしたが、こっちの体力、魔力はほぼ空っぽだ。

練りまくっておいた魔力を全部吐き出したのでもう『セイント・ブースト』は乱用できない。


「ゴフッ………まさかワシに拳を届かせるとは思わなかったわい。

正直なめとった。」


「へっへっへ、ざまあみろクソジジイ……。」


「じゃが、仕留めきれなかった時点でお主の勝機は消えたにも等しいぞ。

見たところ、魔力は回復してるようじゃが体力は限界じゃろう。」


そう言って彼は空に舞い上がった。

流石にもう目は治るか。


「さぁ、どうだろうな。俺はなんつったって『不死身(イモータル)』だぜ。」


「ならこいつを突破してから言うんじゃな。」


『風帝』の周りで魔力が蠢く。

『リュミエール・シーカー』で見たところ、射出系の風の魔法のようだ。

ここで魔法陣の勉強をしたのが役立ったな。

けどまあ、馬鹿正直に食らってやる義理はない。


「………よし。」


決意を固める。


(魔手装甲、用意)


いつぞやの、魔手で体を動かすやつだ。

体の何処かがボキボキになるのでやりたくはなかったが、体力的に使わないと戦えない。


「やってやる………!」


「『ウィンド・バレッタ』3号!」


俺の周りに大量の風の魔弾が生み出され、次々と襲ってくる。

それらは、俺に当たると同時に爆散した。

なるほど、こんなものを喰らい続ければいくら再生するとはいえショックで気絶する。

『セイント・ブースト』対策、という訳だ。

なら。


(『マジックガード』!)


盾を着てしまえばいい。

魔手と『マジックガード』でどの方向から来ても防ぎ切ってやる。


「チッ、無駄に硬い奴じゃ。」


「良いのか?こっちの魔力はいくらでも湧き出るぜ。」


「知っとるわい。じゃから、こいつで決めさせてもらおう。」


森が揺れる。

それほどまでに強大な魔力が、風を吸い込む。


「ハハッ」


こんなもんを相手にしてたのか、『傭兵王』ニールは。

ホントに化けもん揃いじゃねえか。


「死んでくれるなよ………『フォカロルの槍』!」


巨大な槍の切っ先が、未だに風の弾丸に晒される俺に向かう。

正直、魔手装甲がなければ立つことが出来ないだろう。

それほどまでの威力。

だけど、だからこそ、そこに勝機がある(・・・)


「『セイクリッドガード』!」


回せる魔力をかき集め、最も信頼できる『セイクリッド・ガード』を展開する。

だが、魔力の回復が追いつかない。


(『マジックガード』、解除……)


風の弾丸に対しての防御を減らす。

その分を『セイクリッド・ガード』に回し、一秒でも多く稼ぐ。


「っぐぅぅッ!」


風の弾丸が体を抉るなか、俺は収納袋に手を伸ばす。

取り出すのは、何度も俺を苦しめた鉱物。


「四散しろっ!」


叫び声とともに投げた鉱物(アダマンチウム)は、ギリギリまで距離を詰めたお陰でしっかりと『フォカロルの槍』に接した。

瞬間。


――――――――バフン!


「な……何じゃと!?」


「見たかジジイ!」


圧縮された空気が一気に解き放たれたことにより俺の体が強風に晒されるが、それを魔手装甲の筋力で無視して跳躍する。

そして、爆風から実を守るので精一杯な『風帝』の翼に手を伸ばした。


「『アクア・ムイ』!『カルト・フリーズ』ッ!」


「ぐッ!?」


片翼が濡れ、更に凍ったことにより『風帝』は地面へと落ちる。

その腹に、俺は落下の勢いを乗せた裏拳を叩きつけた。


「うらぁ!」


ドゴォ、という音とともに『風帝』が地面に叩きつけられる。

直後、俺の体も地面に叩きつけられた。


「ぐげっ」


ヒキガエルのような声を出しながら、なんとか立ちあがる。

そして、倒れた『風帝』の元に立った。

うへえ、こりゃ絶対俺の体中骨折だな。アドレナリンが切れた時が怖い。


「ヘヘ………けど、俺の勝ちだな。」


だが、『風帝』は地面に突っ伏したまま返事がない。

………あれ?


「お、おい!?なんか返事しろよ!?」


焦った俺は『風帝』の呼吸を聞くためにしゃがみ込む。

直後、


「隙ありィ!」


「ごふぅっ!?」


突然『豪気』を纏った『風帝』の頭突きを顎に食らい、俺は意識を手放した。

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