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281話 闘技祭 3

その後の第4ブロックの『風帝』の戦いは、全て一試合目とはうってかわって盛り上がった。

その芸術とも言える魔力操作を、まるでショーのように使ったのだ。

そりゃ盛り上がる。試合終了時に砂の地面になんかアートができてたら盛り上がらないはずがない。

更に腹が立つのは、あのジジイが俺に手の内を見せないために今まで使った魔法やらありふれた魔法しか使わないことだ。

なのにいちいち演出がかっこいいため会場は盛り上がる。俺は腹が立つ。

試合後にニヤニヤしてるのはそれもありそうだ。

あと掛けでみんなの懐は温まったのも盛り上がりの要因の1つだ。


(あんのクソジジイ………)


なんにせよ、こちらとしては面白くない。

暇つぶしに『アース・ホール』でアルミ缶もどきを生み出して蹴っているとアナウンスが入った。


「ただいま、第5ブロックで『快刀乱麻』シェル選手が勝利しました!」


おお、と会場がどよめく。

第5ブロックが一番時間がかかっていたから、これで通過者が全員出揃ったことになる。


「それでは、最終トーナメントを始めたいと思います!開始は3時間後!それまで出場者の皆さんは休んでいてください!」


すぐ試合が始まるかな、と思ったがそんなことはなかったようだ。

まぁ、流石に体力的にキツいよな。


「とりあえず、トーナメント表を見てジジイの対戦相手でも確認するか………。」


そう考え、俺はトーナメント表を広げる。

そして、素晴らしい名前を見つけた。


「『傭兵王』ニールか………。」


この男、ジジイの初戦の相手なのだが、腕っ節が強いことで有名なのだ。

だいぶ前に『カンプーフ』の小国同士の小競り合いがあったらしいのだが、そこで20人ほどの軍団を結成し160名がひしめく場所に乗り込んで暴れたらしい。

戦力差8倍の中で暴れ回り自軍からは死者を出さず敵軍を壊滅させるというその戦果から、彼は『傭兵王』の二つ名を持っている。


(これは期待できる)


今までの相手はジジイ相手に本気を出させることができていなかった。

だが、この男ならばできるだろう。寧ろ勝つかもしれない。


「頼むぜ『傭兵王』さんよ………!」


俺は祈りながらパンを口の中に放り込んだ。















「よぉし!15時キッカリ!みんな、観戦の準備はできてるかぁーっ!?」


「「「おおおおお!!!!!!」」」


暑苦しい叫びを聞いて、司会が満足そうに頷く。


「ここに今いるのは猛者ばかり!お前たちがこれから最高にホットな試合を見れることを俺は保証するぜっ!

それじゃあ、第一戦目!早速始めるとしよう!」


司会はそう言って、右を指差す。


「それでは赤コーナー!『傭兵王』ニール!

ティルミ皇国での暴れっぷりはまだ記憶に新しいぜっ!

全てを一刀のもとに切り捨てると言われるその実力、楽しみだ!!!!」


『傭兵王』ニールは、立派な鬣を持つライオンの獣人だった。

一見武器は背負っている巨大な両手剣しかないように見えるが、その懐には様々な道具があるのが見て取れた。

まさに歴戦の猛者、といった感じで、静かに歩くその姿からは風格を感じる。


「続いて青コーナー!『風帝』ランヴォル!

高齢ながらも、その腕は健在!

長きに渡り勇名を馳せるだけでなく、演出家としての腕も高いぞ!

その風魔法は果たして『傭兵王』に膝をつかせることができるか?楽しみな戦いだ!」


『傭兵王』ニールとは真逆の、ヨレヨレな姿で『風帝』は出てくる。

武器もなく、とてもここまで勝ち上がってきたとは思えないような姿だが、その顔に浮かべる不敵な笑みと渦巻く濃密な魔力は彼が強者であることを表していた。


「それでは両者構えて!」


掛け声に合わせて『傭兵王』が剣を抜く。


「始めッ!」


同時に、『風帝』が飛んだ。

そして『傭兵王』も同時に針を懐から投げた。


「喰らうかッ!」


それを羽飛ばしで弾き、更に追加で飛ばして攻撃する。

だが、それは全て最小限の動きで躱され、地面に深々と刺さる。


(すっげえ威力)


だが、俺と違って『傭兵王』ニールは怖気ずに跳躍する。

それを『風帝』が許すはずもなく、


「すまんの、空はワシの領域なんじゃ。」


言葉通り、呆気無く『傭兵王』を叩き落とした。

更に追加で飛ばされる風の斬撃。だが、『傭兵王』には届かなかった。

続けざまに発現される『ウェルトゥス・ディストルーク』。

だが、それでも『傭兵王』ニールは動じなかった。


「………ほう、お主、全力で体を保護してるな?」


「生憎と内臓を潰されて死ぬのは嫌なんでね。」


一戦目を見てなかったりカラクリに気づいてなかった人たちは何の話かわかっていないようだったが、俺は素直に感心した。

決して驕らず、勝利への道を探る。そんな姿勢が『傭兵王』ニールからは感じることが出来た。

その本人は、ニヤリ、と笑みを浮かべる。


「そして、アンタに勝つ方法もわかった。」


「なんじゃと?」


そう言って『傭兵王』ニールが収納袋から出したのは巨大な弓。

それを見た瞬間、『風帝』の顔から血の気が引いた。

すぐさま全力で魔力を練り、魔法を発現する。


「『シルフの怒り』!」


すると、会場全体が持ち上がるのではないか、と思えるような巨大な竜巻がいくつも生まれる。

それを全て無視し、『傭兵王』は弓を構えた。

恐らく種族特性である爪を地面に立てて、竜巻を足だけで耐える。


「クッ、何たる脚力じゃ。『ファカロルの槍』!」


次に生み出されたのは、圧縮された風の槍。

だが、『傭兵王』ニールはそれに対して弓を大きく引いた。


「くらえ、『紫電の一閃』!」


強大な豪気と共に矢が放たれる。

それで体力を使い果たしたのか彼の体は竜巻に呑み込まれた。


だが、彼の放った矢は。


「ガハッ!」


『フォカロルの槍』を見事貫通し、『風帝』の心臓を更に貫く。

そして、彼の体が光に包まれた。


「お、お見事………。まさか、剣だけはなく弓を使うとはな………。」


直後、竜巻が消えて『傭兵王』ニールが5点着地で地面に立つ。

その体は体力切れでフラフラだったが、それでも彼は立った。


「勝者!赤コーナー!『傭兵王』ニール!」


「「「おおおおおおお!!!!!」」」


割れんばかりの拍手が鳴り、その中心にいる男は右手を高く上げながら退場していった。


さて、じゃあ俺も御暇するかね。

俺は選手控室に向かった。

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