276話 雑談
護衛をすると言ったが、基本的にそんなにがっちり防御するわけではない。
基本は雑談だ。一日は24時間もあるからな。
「それで、商人さんはなにを売り物にしているんだ?」
「基本的には布ですよ。後は特産品もありますが。重すぎるものは運びません。」
「それでこの量って、すげえなおい。」
馬5頭に引かせる馬車である。そう考えるとこの御者さん、中々の腕だ。
「でも商人としては一人でやってるんだもんな。」
これだけの規模があれば丁稚なりなんなりで一人くらいはいるはず。
ダルファさんだって別にあれで一人というわけでもない。
ってことはこのおっさん、中々に凄いのか………?
「はい。私が役に立たないばかりに………。」
「いいんだよ。君がいてくれるだけで僕には100人の商人に勝る味方さ。」
感心していた矢先にまたイチャつき始めた。新婚か疑うレベルだぞ。
「そういえば冒険者さんは今までどんな経験を?」
「ああ。」
雑談ではよく使われるネタである。
冒険者は大なり小なりスリルある経験をしてきているため案外聞いてて飽きないものが多い。
「つっても俺はかなり無茶やってる部類でさ。そうだな、じゃあドラゴンと戦った話をしよう。」
「「「おお!」」」
ドラゴンは英雄譚とかでの代名詞だから食いつきがいい。
あの戦いは俺も中々活躍できたし。
俺は意気揚々と話し始めた。
安心と信頼、そして実績の『リュミエール・シーカー』さんとどこにでも現れる魔手のサーチ&デストロイコンボのお陰で道程は非常に平和なものだ。
平和すぎて御者さんが「大型のモンスターでも出たのか………?」と戦慄していたので教えてあげといた。
周りの風景は岩だらけなせいで全く風景に興味もわかない。
いつもだったら野草を見て面白そうなのがあったら魔手で引っこ抜いているんだがな。
でもまぁ、おっさんの話がなかなか興味深いからいっか。
このおっさん、中々小さい頃から無茶をしているそうで、いろんな見聞があった。
例えばこの人、なんと魔王のいる大陸『魔境』に行ったことがあるらしい。
若気の至りで行ったらしいが、それにしても発想がすごい。
魔境は生還率が10%ほどであるため、基本的に一般人の生還は絶望的と考えていい。
だが、彼はAランク冒険者が魔境で特訓するところに密航し、その後なんだかんだで仲良くなったそうだ。
『魔境』のモンスターって特に気性が荒いことで有名なんだが。
なんにせよ、凄い精神力とコミュ力だ。
たしかにこれだけの商人になるのもわかる。
「そうだ、ロイドさん。」
「ん?」
呼び方もいつの間にか変わっていた。
「ロイドさんといえば、城塞都市でいろんな商品を開発していると聞きます。
どんな風に開発しているんですか?」
「あ、いや、なんかこういうのがあったら便利だなーって思うものがあったら、だな。」
嘘は言ってない。
「できれば、その一部でも。何かアイデアがあれば………。」
「いや、俺もお得意さんがいてそれを裏切れないからさ、うん。察してくれよ。」
「無理には頼めませんね。」
「まぁ、城塞都市に来てくれたら色々話し合えるだろうけどな。
けどさ、俺半年は帰れなさそうなんだよな。」
「そういえば、なんでロイドさんは『レークス』に?
何気に聞いてませんでしたね。」
「『風帝』って知ってるか?」
「彼ですか。有名ですよね。齢120歳のAランク冒険者では最年長。
その繊細かつ強力な風魔法は生半可な者では近づくことすらできないそうです。」
「120歳!?」
「知らなかったんですか!?」
「なんかさ、ある奴にそいつに魔法教えてもらいにいけって言われたんだよ。」
「弟子入りですか。あっ、だったらいいことを一つ教えておきます。」
「なんだ?」
「彼はあまり弟子を取らないことで有名です。
年に100人は弟子入りを志願しますが、実際に弟子入りできるのは5年に一人程度だそうです。」
「なんだそれ。」
倍率500倍とかやべえ。
「なんでも実際に戦わされるそうで。
いい戦いをしても伸びしろがあるか、などを見られるので非常に厳しいらしいです。」
「ってことは結局そのジジイの裁量次第って訳か。難易度たけえなおい。」
「これから弟子入りする人をジジイ呼ばわりですか………。」
「まだ会ってもいないしノーカンだろ。」
それに聞いた感じすげえ偏屈そうだし。
いやだなあ、ここまで来て門前払いされたら俺泣くぜ。
「なんにせよ、ロイドさんなら弟子入りは十分にありえますね。
そういえば、その弟子入りをロイドさんに勧めた人はどういう方ですか?チームメイトとかでしょうか。」
「いんや、『最強の魔法使い』ってやつだ。」
「えっ」
商人さんが目を見開いて驚いた。
あの人、強いのはわかるんだがどうもただの引きこもりにしか見えないんだよなぁ。




