272話 ゴキブリダンジョン
現地の人の要望で、俺は近くのダンジョンでのモンスター狩りを引き受けることにした。
対価は船員や乗客たちに宿と飯の提供らしい。船長が費用が浮くな、とか喜んでた。
………そういえば、なんか俺ノリノリで引き受けてた気がする。なんでだ。
そうだ、思い出した。マグロ食ってる時に現地の青年と意気投合したんだ。
まあいいや、人助けは悪いことじゃない。
で、そのダンジョンだが、どうやらできたてホヤホヤらしい。
難易度がわからない以上、現地の狩人達も攻めこむのを躊躇しているそうだ。
ただ、そうやって放置し続けているといつ『異常発生』が起きるかわからない。
そこで、ポンと出てきたBランク冒険者の俺に狩りをやらせようという腹積もりのようだ。
という訳で、俺、ノー情報。
だが、これでも生き残ることに全てを賭けてきた身であるし、ダンジョンの情報くらいは持ち帰れるはずだ。
そのダンジョンは森のなかにあり、辺りは少し暗い。案内役の狩人さんがいなければ見つけられなさそうな地味さである。
で、そこにポッカリと空いた穴ってのが今回のダンジョンって訳だ。
覗き込むと、殆ど中が見えない。
案内役の狩人に別れを告げて、俺はそのダンジョンに足を踏み入れる。
先ほど言った通り、ダンジョンが暗かったので俺は光属性魔力で明かりを作った。
そんな俺の視界に入ったもの、それは。
沢山の、ゴキブリだった。
――――――カサカサ「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
一瞬で逃げ出した俺を、案内役の狩人達が見つける。
「だ、大丈夫か!?」
「SAN値が………!SAN値が………ッ!」
「何があった!」
「暗闇の中に……!突然黒光りするあいつらがっ!」
いっそマグマ○トームでも撃ってくれたら現実味なかったのに………ッ!
「ダンジョンか!何が居たんだ!?」
「くそ、不意打ちとかやめろ………次は何だ、「じょうじ」とか言い始めるのかちくしょう!」
俺のマ○ズランキング高そう!いや無理だわよくよく考えたらあいつら一部は等身大のアリンコとタイマン始めるじゃん普通に俺死ぬ。
「何が居たんだ!教えてくれ…………!」
「…………ゴキブリだ。」
「はい?」
「ゴキブロスだよ!!!!」
「なんだ、そんなことか………。
こちとら生活がかかってんだ。頼むからそんなやつ放っといてやってくれよ。」
「結構おぞましかったんだけどなぁ。へいへい。」
俺はなるべく奴を思い出さないようにしながらダンジョンに入った。
道標のための針をダンジョンに突き刺し、『マジックガード』の上で一息つく。
足元にはゴキどもがいて精神衛生上非常に良くないので飛ぶことにしたのだ。
で、色々回った結果とりあえず不審なことが3つ。
まず、異常に広い。
かれこれかなりのスピードでマッピングしながら飛んでいるが、未だに階段が見えない。つまり一階がアホみたいに広い。
一階だけってダンジョンはまああるにはあるが、あまりない。レアってわけだ。
モチベ的には階段ある方が嬉しんだが。
次に、滅茶苦茶湿っている。
なぜかわからないが、多分ゴキはこれにつられてきたのかもしれない。それにしても流石の繁殖力だ。
そして、最も不自然なのが、モンスターが出ないこと。
ゴキブリしか出ないので忘れがちだが、ここはダンジョンである。
モンスターの出ないダンジョンはない。
『リュミエール・シーカー』でもこのゴキブリどもがモンスターではないのは確認済み。
流れで引き受けたがこのダンジョン、変わってるどころの騒ぎじゃない。
とりあえず、早急なダンジョン攻略が必要だ。
ダンジョンである以上、モンスターとボスはどっかにいるはず。
つまり、魔力がある。
となれば、再優先はモンスターの発見。そうしておこう。
モンスターを発見するだけなら『リュミエール・シーカー』をバラ撒くだけ。
このまま飛び回っても帰る時が辛い。いくら道標を突き刺しまくってるとはいえ、これを探しながら帰るのは骨が折れるのだ。
という訳で、概念魔法による魔法の座標発現で『リュミエール・シーカー』を広げる。
反応、なし。やっぱ変だ。
こうしてしらみ潰しに調査すると、やっと反応が出た。
それは、なんだか滅茶苦茶動き回っている。
方向は今の俺から見て2時の方向。
その前に、『リュミエール・シーカー』でよくそのモンスターを把握。
動き方が変なのだ。そして形状も。
魔力は水と闇のもの。
なんか体をくねらせて動いている。
つまり………水中?
(なるほど)
これで変に湿っているのもわかった。
つまり、このダンジョンは水辺と陸地で構成されたダンジョンなのだ。
で、恐らくモンスターは水の中にしかいない。
ボスも同様だろう。
俺は更なる調査のため、『マジックガード』のスピードを上げた。




