267話 水中戦
「ああーっ!端が取られただ!」
「ほれほれ、置けるのはこの一箇所しかないぞ?」
「また負けただーっ」
モンスターが現れるにはまだ早いということで、俺達はオセロをやっていた。
ルールが簡単なので、お互いある程度のレベルで遊べている。
まあゲーム慣れしてる分俺のほうが有利だが。
「そうだ、そういえばお互い冒険者として得意なこととかそういうのを共有してなかったな。」
「おらは殻にこもればこもれば物凄く固いだよ。水中戦をメインにしてるだ。あと顎が強いだよ。」
「まさか武器持ってないけど顎だけで戦ってるのか………?」
「んだ。おらは不器用だから下手になんか持ったら自傷するだ。」
このどこか抜けた男、一応Cランク冒険者らしいのだが。ホントか………?
「じゃ、じゃあどこかのパーティで盾役として戦うとか?」
「おら、鈍いからどこのパーティでも邪険にされてただ。」
「じゃあ顎だけでCランクまでソロで!?」
「そんな驚くことだか?」
そりゃ驚くわ。どこに顎を武器にソロで戦うCランク冒険者がいる。
俺は、僅かな船の揺れに身を任せながら、目の前の何処か間の抜けた男を見た。
…………どういうことだ?
彼の戦闘力を見る機会は、思ったより早く来た。
乗客の一人が船酔いを催して甲鈑に上がったのを俺の魔法で治しに二人で外に出た時である。
「魔獣の群れだ!」
船員が叫ぶが、俺の『リュミエール・シーカー』には大きな一匹の魔獣しか映らない。
なんだと思って魔手で連打をかますと、その魔獣が分裂した。
「密集していただけか!」
俺がそう叫ぶと同時に、ロウが殻にこもってスピンしながら海に飛び込む。
なにその独特なダイビング。高速○ピンとダイビングの合体技か。ポケ○ン懐かしいな。
「ロイドは乗客の人を治療してるがええだよ。おらが全部掃除するだ。」
「ええ!?」
ポツンと残されたが、とりあえず未だに吐いている乗客の人に近づいて『ヘイレン』をかけた。
船酔い程度なら、俺の強力な回復魔法ですぐ治る。
そんな一瞬のうちに、魔獣はすでに半分ほどに減らされていた。
ロウの戦い方は単純だった。
殻の中に吸い込んで、殺す。
彼は魔力を持ってないので確認はできないが、恐らく魔獣の動き方と死に方を考えてそんな感じだろう。
魔力なしにどう吸い込んでいるのか気になるが、恐らく豪気、もしくは亀の亜人の種族的な何かがあるのかもしれん。
彼はその後すぐに魔獣を全滅させて、戻ってきた。
いつの間に準備したのかはしらないが、魔石の詰まった袋も手に持っていた。
「お前、凄い戦い方するじゃないか。吸い込みができるなら教えてくれよ。」
「え、み、見てただか!?おらだいぶ海の底で戦ってただよ!?」
まあ、確かに普通なら気づかないだろうな。
俺も『マジックサーチャー』のままだったらわからなかっただろう。
「俺の索敵能力はそれなりに高いんだ。
ということは、それは秘密ってことか。」
「初めてバレただ………。おらの切り札だから、あまり言いふらさないで欲しいだよ。」
「わかった。あくまで口約束だからあてにならないかもしれないけど言わないようにするぜ。」
「助かるだよ。」
俺達がそんな話をしていると、船員たちが集まってきた。
「カメのお前!すげーじゃねえか!」
「てっきりそこの有名らしい坊主がなんとかするもんだとばかり思ってたぜ!」
「俺らの出番がねぇぞ!」
マッチョに囲まれるロウ。頑張れ。殻の中に引きこもっちゃって出てこないけど。これはあれだな、俺の前世だ。休みの日はほっとんどパソコンの前から離れなかったな。科学部の奴らがよくカラオケに誘ってきてたが基本無視だった。
あいつらテンション高いんだよ。なんでアク○リオン叫ぶんだ。古いわ。
「おら、全員持ち場にもどれ!亀のあんちゃんがビビってるだろ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………」
船長が助け舟を出したが、ロウは新手かとビビって殻に篭もりながら悲鳴をあげてた。船長歩くとドシドシなるからな。
「あの………さっきはありがとう。」
ロウをニヤニヤしながら見てた俺は不意に後ろから声をかけられた。
振り返ると、さっき『ヘイレン』を使った少女がいた。
「ああ、どうも。船酔したらいつでも呼んでくれ。病気でもなんでも治せるぞ。」
呼んでくれてもいいが、会話とかをしようとすると途端に逃げ始めるぞ。
ジョセイコワイ。
ササッと退散しようとしてると、呼び止められれた。
「あ…あの!」
「ん?」
「撫でさせてください!」
「え゛っ」
冷や汗がブワッと出てくる。
思わず後ずさりすると、少女は肩を落として帰っていった。
謎の罪悪感。そんな俺を撫でたいのか。
そういえば、俺外見ショタだよな。
ということは、あの娘ショタコン………?将来が心配だぜ………。
案外船旅も退屈じゃないことを、俺はこの日知った。
 




