266話 新聞
「お前さんにちょっと依頼があるんだが。」
出港して少し経った頃、自分の船室で俺は船長に話しかけられた。
俺が首を傾げると、彼はそのまま話をつづける。
「護衛をしてくれ。この船の。」
「そのくらいならお安い御用だ。」
なんか変なことを頼まれるかと若干思ったが、なんのことはなかった。
護衛依頼は俺の得意分野だ。広範囲索敵能力に射程無視、更に睡眠時間は少なくて済むし。
それに、どうせなにか危険があれば俺は尽力する予定だったしな。
「おお、ありがてえ。
あと、もう一人冒険者の人がいたから頼んでおいたぜ。出来れば協力してくれや。」
「船室の番号は?」
「115だ。」
「ありがとう。すぐ行く。」
俺は、立ち上がるなりすぐにドアを開ける。
ドアはボロい見た目の割には綺麗に開いた。
続いて船長も俺の船室から出ると、俺に手を振って去っていった。
少し俺も歩いて115番室の戸を叩くと、中から亀系の亜人が出てきた。
何とものっそりした男である。目もトロンとしていて、猫背だった。
だが、俺にとってはもっと目につく物があった。
彼の右手に握られた新聞紙である。
「んー?おめー誰だ―?」
「その新聞紙、どこで買えるんだ!?」
「な、なにいきなり言ってるだおめえ!?」
俺にとっては懐かしい品である。
しかも、紙が新聞紙特有のアレだった。
「こりゃ魔法都市で普通に売ってるやつだべさー。ギルドマスターさんと最近噂の冒険者さんが共同で機関を設立したらしいだよ。」
「なんだと………!?俺があんな狭っ苦しい部屋に行きこもってる間にそんなものが………!」
完全に盲点。なんか城塞都市と違って活気が無いから外に出る気が正直でなかったのがだめだったのか。
やばい、何が書かれているのか非常に気になる。
「ちょっとそれ、見せてくれないか?」
「その前に、おめえさんはは誰だぁ?」
「そ、そうだ自己紹介がまだだったな。
俺はロイド。『不死身』の二つ名で通ってる。」
「『不死身』………。お、おめえ、もしかしてこの人かい?」
そういって、彼は新聞紙の一面をさした。
そこには、しっかりと『最年少Bランク到達記録更新!リーダーは二つ名『不死身』の9歳!』と書かれていた。
こうしてみると中々鼻が高い。
「そいつだ、そいつ。」
「そんなすんげえ人が目の前に………。おら、亀の亜人のロウっていうだ。
あれ、もしかして今回一緒に護衛する冒険者はおめえさんか?」
「そうだ。よろしく、ロウ。」
「こちらこそお願いするだ!おら、感激だ。」
「それで、新聞紙なんだが………。」
「いくらでも貸すだよ!」
「ありがとう。」
俺は、ほくほく顔で船室に戻った。
新聞は、月2で発行されてるものだった。
俺は、そこから気になるトピックをピックアップしていく。
『勇者様が邪神の加護討伐に乗り出す。』
いずれ暴走する可能性のある『邪神の加護』持ちの討伐を勇者様が始めました。
『邪神の加護』持ちは、過去の魔王討伐戦においても幾度と無く勇者様方に足止めを食らわしてしまっていたので、それを未然に防ぐためと考えられます。
勇者様の今後のご活躍に期待したいところです。
例の勇者様(笑)である。
どうやら真面目に魔王討伐を目指しているようである。
ショタ魔王に転生させられた身としては非常に心苦しいぜ。まあ多分俺にできることはほっとんどないが。戦力的に。
『開催まで一ヶ月!亜人限定、闘技祭!』
一ヶ月後、カンプーフ大陸の風の街『シェルフィン』で闘技祭が開かれます!
今回は亜人限定の大会!腕自慢の男達は是非とも参加を!
これは、この後に現在エントリーしてる選手の中で有名な人の一覧が書かれた記事があったのだが、そこに俺が師事しに行く『風帝』がいたのだ。
公表もついていて、どうやら優勝候補らしい。
流石に弱いわけがないよな。二つ名もあの『地帝』と並ぶし。
『又もや快勝!期待の冒険者、『光の剣士』率いるパーティが未知の遺跡を一つ突破!』
これは、例の転生者であるらしい。内容はどうでも良かったから割愛。
光の剣士という二つ名から、チートは光属性魔力なのだろう。
多分俺より圧倒的に魔力量が多いに違いない。俺なんか珍しい光属性持ちなのに二つ名が『不死身』だよ。ダメだこれじゃモンスターだよ。闇属性だ。
『帝都で謎の巨大ゴーレム、再度現る。』
勇者様が敗れたという巨大ゴーレムが、今度は帝都の裏にある小さな山で出現したという報告がありました。
かの有名な『最強の魔法使い』様は、このゴーレムを『五大獣』の一体であることを予言し、帝国の冒険者に調査を促しているようです。
なんにせよ、帝都に済む皆様の平穏のため、早期原因の究明してもらいたいものです。
これについては心当たりがありまくる。
孤児時代のリーダーだ。あの人は危険がないと発動していなかったから、よほど何かがあったのだろう。
それにしても、何故こんな神話級のモンスター二体に俺は遭遇してる(カナルの場合遭遇はしていないが)のか。
甚だ疑問だ。
とまあ、新聞できになった記事ははこんなもんだった。
月2でだしているらしく、中身も非常に豊富だった。あの人もなかなかいい機関を設立する。
俺は、ロウに新聞紙を返しに行った。
その時にお互いの体験談をして仲が少し深まったわけだが、まあそれは別の話。




