261話 対グランドタートル 最終話
目が覚めたら目の前が毛で一杯だった。
脳の理解が追いつかず、目が点になった。
―――――――――ドガガガガガガガガガッ!
けど、聞き慣れた戦闘音が俺の脳を生き延びるための思考に切り替える。
恐らく、シュウの障壁と『グランドタートル』の魔法がぶつかる音だろう。
とりあえず、自分の上に被さっているものを退けようと魔手で動かした。
すると、急にその毛むくじゃらが人間の姿になる。
背中に岩の砲弾が突き刺さった、ヴェインだった。
(庇われた!?こいつに!?)
「ぶ、無事か………?」
息も絶え絶えながら、心底心配しているような声に、俺は虫唾が走り、悪態をつく。
「てめ、なに庇ってんだ!なんだ、今更親らしく振る舞ったつもりかよ!」
「そう、だ。俺だって、ルー達が生まれてから後悔してたんだ………!」
「遅い、遅いッ!遅すぎるんだよ!もう取り返しなんて絶対につかないだろうが!ふざけんな!」
「ああ、わかってる………。でも、せめて、盾くらいにはなりたかったんだ……!後悔の証として……親として………。」
そういうと、彼は意識を失った。
その顔には、なにかを成し遂げた男の顔があった。
「ちくしょう、クズのくせになんかかっこいい事言いやがってッ!」
そのまま蹴り飛ばそうとして、やめた。
魔手で胸に触れ、脈を測る。
(生きては、いるのか)
そのまま岩を引っこ抜き、『ヘイレン』を施す。
完治はしなかったが、一命は取り留めた。
相当な一撃だったようだ。見たところヴェインは『ウールヴヘジン』の加護で人狼化したようだったが、それでも相当背中が抉れている。
…………俺が食らっていれば、即死だった。
「まあ、間違ってもこれで許すなんてことはないけどな。」
………まぁ、母親はともかくヴェインは俺について真剣に考えて行動してくれたみたいだけど。
その手法が俺を庇うってなんなんだ。もっと他にあるだろ。
なんか釈然としない物があったが、何故か俺の心はスッキリしていた。
「ちくしょう、自分勝手な野郎め………。」
誰に対していったんだろう、と内心思いながら、魔力を練る。
感慨に浸ってる暇は今はあまりない。
(『マジックサーチャー』、『マジックティラン』!)
「ロイド、起きたんだ!」
脳に『マジックサーチャー』が展開されたことで気づいたのだろうか、シュウが俺を見ずに言った。
「ギルはどこだ?」
「今、さっきので疲れちゃったみたいで木の上で寝てる。ほら、右上。」
右上を見ると、ギルが木に『餓狼牙』を突き刺し、その上で寝ていた。確かにギルの体格をすっぽり収めるほどの大きさはあるが、その使い方はどうなんだ。
というかよく『グランドタートル』も気づかねえな。
内心ツッコんでいると、シュウの障壁をすり抜けて岩の砲弾が飛んできた。
「ああッ、まただ!なんで偶にすり抜けるんだ!」
砲弾を魔手でぶち壊して、すり抜ける理由を考える。そういえば、さっきの闇属性魔法もすり抜けて飛んできた。
(概念魔法、か。)
だが、まだ覚えたてのようだ。たまにしかすり抜けないのがその証拠だろう。
「シュウ、あとどのくらい体力が持つ?」
「あまり。5分持てばいい方。」
となると、タイムリミットは3分位と考えていいな。
普通に考えればピンチだが………俺の頭は自然と冴えていた。そして、光属性魔力も。魔力量が増えたのではなく、光属性魔力の純度が上ったような気がするのだ
何か俺をずっと蝕んできたものがすっきり取れたような感じがするのだ。
それが、人の意志や願いによって生み出される魔力に影響した。
だからだろう。
『マジックサーチャー』がいつもと違う視界を与えてくれる。
まるで、『アンチマジックサーチャー』の逆だ。
よくよく考えれば、光属性と闇属性は効果が間逆なことが多い。
体を癒やす『セイント・ブースト』と体を傷めつけて力を開放する『ダーク・ブースト』。闇属性の『呪い』の魔法と浄化の魔法『デコラーレ・ピュリファイ』。
同じように、『アンチマジックサーチャー』の逆の『マジックサーチャー』の強化版があったのだ。
『アンチマジックサーチャー』を遮断する魔法と考えれば、強化版『マジックサーチャー』は干渉を強める魔法。
格好つけて、『リュミエール・シーカー』とでも名付けようか。
ただし、俺のしょぼい魔力量では相性のいい闇属性くらいにしか干渉できない。
だが、それで十分。
『!?『マジックサーチャー』が見えない!?』
『グランドタートル』も『リュミエール・シーカー』は看破できないようだ。
さて、魔力の発生源を光属性魔力でひっちゃかめっちゃかにしてやる。
俺が触ると魔石の質が良くなる現象は、俺の光属性を吸収して闇属性魔力を中和するかららしい。
なら、『リュミエール・シーカー』で直に光属性をぶち込んでも闇属性魔力は中和されるはず。
というわけで、色々やってくれた腹いせに魔石の位置を探り当て、概念魔法で直接魔力を流し込む。
『ぐぼおおああああ!!!???なんだこのおぞましい力は!!!????』
「うっせえ、お前のほうが何十倍もおぞましいわ!」
『グランドタートル』の闇属性魔力がこれ以上ないほどかき乱され、土属性しか残らなくなる。
『グランドタートル』はその体を支えるために土属性魔力を割かざるを得ない。
これで、魔力は封じたも同然。
「よっしゃ、ギル起きろ出番だ!」
「わかってる!」
相変わらずの恐ろしい戦闘への嗅覚を発揮したギルは、起きたどころかもう既に飛び上がっていた。
その手にあるのは、『餓狼牙』一本。
『くそ、『グラウンド・ブースト』ォォォォォォォォォ!!!!!!!』
「ははっ、なんか魔力の細かい動きまで見えるぜ!」
『ドラゴニュート・ソウル』を発動させ、更に『グランドタートル』の魔力のムラを把握しきったギルは、そのまま体を捻る。
「『ワイバーン・シュナイデン』!」
『ぐぼあ!?』
ついに、あの強靭な甲羅が割れる。
だが、あとひと押し足りない。そう、剣一本分足りなかったのだ。
「ギル、退け!」
「あいよ!」
ギルが、その一言で飛び退く。
『くそ!まだ死んでなるものか!『ロック・バースト』!』
「その悪あがきごと砕いてやる!『エクスカリバー』!」
岩の散弾を受けながら、『エクスカリバー』を展開。
そして、いつも通り重さに耐え切れずそのまま振り下ろし。
ギルに足りなかった剣一本分というわけだ。
―――――――――――――――バッキィッ!
『ば……か………な…………。』
掠れるような断末魔を上げながら、『グランドタートル』は息耐えた。
と同時に、限界に達した俺の体が崩れ落ちる。
その肩を、シュウが支えてくれた。見れば、ギルも『餓狼牙』を杖にし限界のようだった。
そりゃそうか。というか、『餓狼牙』の切れ味が良すぎて地面にサクサク刺さるのが怖い。
そして、俺は最後にヴェインを魔手で担いだ。
「……………。」
「その人がロイドのお父さんだったんだね。」
「……なあ、シュウ。」
「なに?」
「お前はさ、親父のことをどう思ってる?」
同じ境遇を持つ人間として、聞きたかった。
まあ、シュウが捨てられた理由は俺と違って苦渋のものだったけど。
「うーん………。
正直に言えば、やっぱり僕は捨てられたくなかった。
けど、みんなと会えたからいいかなって。捨てられたからこそ沢山の人と会えたわけだから。」
「そっか。」
確かにそうだ。
そんな悲観的になることもないか。
それに。
「今の生活もなんだかんだいって楽しいしな。」
少なくとも、日本よりは。
その頃、小学5年生ほどの子供が玉座に座り、水晶を見ながら笑みを浮かべていた。
「見込んだとおりだね。というか予想以上だ。ここまで面白い人生を紡いでくれるなんて。『怠惰』は刺激的だったけどちょっと鬱すぎたし、『色欲』は自由で面白かったけど強すぎて刺激が足りなかったんだよね………。『暴食』に至ってはなんだかむず痒いや。」
彼が足をプラプラさせていると、その部屋に執事らしき悪魔が入り、報告した。
「魔王様。5つ目の守護者も討伐に成功したようです。」
「ご苦労さん。あと2つか。勇者の動向は?」
「『最強の冒険者』と共に修行中のようです。着実に力をつけていますが、よろしいので?」
「大丈夫だって。あの計画さえ完遂すれば勇者なんて目じゃない。
それに、今は彼女といるんだろ?あの二人を突破するなんて、軍の半分ぶつけてやっとの話だよ。」
「出過ぎた真似をいたしました。」
「妥当に考えたらそうなるから、気にしないで。」
「ですが、確実なのですか?
その………彼が7つ目の守護者を討伐するなど。彼の者は魔王様ですら手が届かない存在。あのようなひ弱なものが勝てるとは………。」
「確実さ。そもそも僕がこの計画を始めたのは彼を見つけたのが原因なくらいだ。
だから…………頑張ってね、ロイドくん。」
そう言って、彼は優しく水晶を撫でた。
これにて第二章終わりです。(唐突)なんかあっけない感じもあるかと思いますが。そろそろ物語を進めないと終わらないんです(冷や汗)
因みに、次の第三章が最終章となります。
長さ的には第二章より若干長い感じになるとは思います。
それと、第3章になるのでこれを機にサブタイの傾向を変えたいと思います。
中1の時に書き始めたんであんな感じになっちゃったんですね(白目)
これからは少しまともになるんだな、と思ってください。
それと、人物紹介の位置をずらします。
章ごとに分ける、みたいな感じで………。
よくよく考えたら1話目がネタバレって酷いですよね(汗)
今後共、よろしくお願いします。
ポケモン好き




