259話 対グランドタートル 9
コイツと戦って、思ったことがある。
「『リザードティアー』!」
「『マジックガード』『ストーンバレット』」
「『弾壁』!」
「ちくしょう、黒色火薬すらロクに効いてねえ!」
燃費さえ考えなければ、魔物を率いて戦うよりも単体のほうが馬鹿みたいに強い。
『マジックサーチャー』がなければ到底戦えない擬態能力、アホみたいに硬い防御魔法、精度はないが威力だけは抜群の土魔法、そして何よりも素の防御力の高さ。
ギルの剣しか実質届いていない有様だ。
手持ちで効きそうなのは……ダイナマイトとヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンくらいか。
他になんかないかな、と収納袋を漁った俺は、とある魔道具を思い出した。
そう、あの、魔法の効果を二乗するものだ。
二乗するってどういうことなのかよくわからないが、パワーは出るだろう。
だがしかし、消費魔力が跳ね上がるらしいから使えるのは一瞬。
しかも、あのクソみたいに硬い『マジックガード』を使わせないと言う条件も必要だ。
しかし、そんな状況を生み出せるのは現状ギルしかいない。
俺やシュウでは根本的な火力が足りない。
そのためには情報伝達が必要。それも、知能の高い『グランドタートル』には聞こえないように。ちくしょう、アリエルからあの魔道具もらっときゃ良かった。
だが、ない以上俺に出来るのは魔法を使ってどうにかするしか無い。
(『ウィンド・ロール』)
風魔法で声を届けれるか。
声を風に乗せるというのは、実際出来ない。そう考えると『エ○―ズ』のACT1って便利だったんだな。ACT3にばっかり目がいっていた。
という訳で、俺が今回やるのは風の振動で声を生み出すという手法だ。
あいうえお。
「~~~~~。」
(あ、これ無理なやつだ。)
というかよくよく考えたらこんなのが出来るわけがない。
くそ、どうやって声を届ければ…………。相手に知能があるのは面倒だな……。
あ。
光でいいじゃん。
聴覚でダメなら視覚。
早速シュウを魔手でちょんちょんつつき、俺の魔道具を使うチャンスを作ってもらう。
ギルにも同じことをやろうと思ったが、よくよく考えればギルは字が読めない。
という訳で、完璧に俺のことを『グランドタートル』の意識の外に追いやらせてもらう。
意識が外に追いやられるかは、俺の『マジックサーチャー』を『グランドタートル』がどれだけ視ているかでわかるのだ。
「ギル、全力を出して!」
「わかった、『ドラゴニュート・ソウル』!」
という訳で、ここからの指示出しはシュウに任せる。俺は極力影を薄めるため、魔力を持続的に消費する魔手でペチペチ殴る。
そして、『グランドタートル』の魔法を全て完璧に防ぐ。防御特化と捉えさせ、警戒心を薄めるのだ。
反面、ギル。
シュウの生み出す壁を見事に足場にして『重力魔剣』と『餓狼牙』の二刀流を巧みに確立させ、完璧な高速の立体機動を実現している。
更に、ギルの最強の強化技によってパワー、スピードは段違い。
その一振りは、恐ろしい事に『グランドタートル』の甲羅に『マジックガード』を叩き割りながらヒビを入れるほどだ。
『グランドタートル』の魔力が乱れ、焦っているのがわかる。
ギルは結構楽しいようで、満面の笑みを浮かべながら連撃を繰り出す。
だが、その額にはやはり疲れているのか汗が飛び散り、彼の移動のたびに舞う木の葉に纏わりつく。
やはり、長時間は流石に持たないか。
俺がそう思った瞬間、視界の隅にヴェインが居るのを見つけた。
木々の中に隠れているようで、静かにこちらを伺っている。
何を狙っているのかは分からないが、とりあえず危ないから避難するよう言おうとした。
が、俺の中の黒い何かがそれを押し留めた。
いいじゃないか、ここに来たってことは死ぐらい覚悟してるだろう。
なら、死のうがどうだろうが自分には関係ないだろう?
俺の黒い感情は、そう語りかけてきた。
その瞬間。
――――――――ベキッ!
「やっべ!」
『ふ、フハハハハハ!チャンス到来!』
ギルの『重力魔剣』が遂に折れた。
ただ、『餓狼牙』は血を吸うと修復するのでまだ無事だ。
そして、この瞬間。
チャンスを目の前にし、俺のことが完全に『グランドタートル』の意識の外に追いやられた。
貪るようにギルに土属性魔法を叩きこみまくる『グランドタートル』の背中に一瞬で到達。
手を掲げ、魔道具に魔力を集める。
「『ストロム・ベルジュ』!
『そうだ、チャンス到来だ。
小僧、貴様を殺すための、な!貴様が何かを狙ってたのはお見通しなんだよ!』なに!?」
後ろからトレント!?
そこで、俺は自らの生を選んだ。
魔道具によって超強化された『ストロム・ベルジュ』が、後ろのトレントを一瞬で切り払った。
と同時に、恐ろしい倦怠感。魔力切れだ。更に出力に耐え切れず魔道具まで壊れる。
『『ロックブラスト』!』
「せ、『セイクリッドガード』!」
「『障壁』!」
相変わらず一瞬で回復する魔力に頼り、本当に一瞬だけ壁の展開に成功する。
その一瞬にシュウの壁が張られ、全ての岩の弾丸を弾く。
だが、それで完璧に俺の魔力がなくなった。
『『ナイトメア・ホール』』
その一瞬に、シュウの障壁をすり抜ける黒い弾丸に俺が貫かれる。
意識が一気に遠のいた。
『貴様の光属性と『マジックサーチャー』は非常に厄介だった。体を破壊してもすぐ治る上、精神に干渉するものは光属性魔力が邪魔だった。
だから、貴様の魔力が一気に失われる瞬間を待っていたのだ。そう、その忌々しい光属性魔力が切れる瞬間をな。
あとは我が擬態能力で完全封殺。せいぜいいい夢をみるがいい。』
長い『グランドタートル』の種明かしを聞きながら、俺の意識はフェードアウトした。




