254話 対グランドタートル 4
ヴェインの家は、子供二人に妻一人の構成だった。
因みにこの世界の村では一夫多妻とか余裕である。
「帰ったぞ。」
「おとーさんお帰り!」
小さい女の子がトテトテとヴェインに近づき、抱きつく。
その後ろから、右手に布を巻いた男の子がきた。
俺より少し幼いくらいか。身長同じだけど。
見れば、右手を怪我している。布を巻いてたのはそのせいか。
(『ヘイレン』)
右手を治してやると、その男の子は目を丸くした。
「手が治った!?」
「痛そうだったからな、治しておいた。」
「もしかして、魔法?」
「その通り。因みに俺は回復魔法が得意な冒険者だからな。ここにいるうちは怪我したら俺んところに来い。すぐ治してやる。」
「うわぁ!冒険者すげー!かーちゃん!手が治ったよ!」
「そ、そう、魔法……。良かったわね……。」
見れば、台所には30代の女性がいた。この人がお母さんなのだろう。
俺を見る目に若干の恐怖が見て取れるなぁ。やっぱり魔法はここでは危ないもののようだ。
「そうだ!兄ちゃん、冒険者なんだろ?稽古つけてくれよ!」
「こら、ルー。お前にはまだ危ないからダメって言っただろう。
冒険者さんも気にしないでくれ。」
「そうやって父ちゃんはいつもいつも!
俺だって体を毎日鍛えているんだぞ!」
確かに小さい子にしてはしっかりしてるな。俺より筋力はありそうだ。
「まあ、俺も回復魔法があるからちょっとした怪我だったらすぐ治せるし、そもそも俺は体は弱いから大丈夫じゃないか?」
そう言って、ヴェインを見る。
「だ、だが………魔法使いは………」
「本当は、稽古だってつけてやりたいんだろ?早く強くなってもらって、一緒に狩りにでも行きたいんだろ?」
「………!」
その顔は、図星を指された時の顔だぜ。
「……わかった。
ルー、気をつけるんだぞ。冒険者さん、宜しく頼む。」
「父ちゃん、ありがとう!
冒険者さん、外出ようぜ!」
「おう。」
そういや、ギルとシュウは何処行った………?
そう思って外を見ると、他の子供達と鬼ごっこをしていた。
「ぎ、ギル!『ブースト』は卑怯だって!」
「ギルくんはやーい!」
「イェーイ!」
……………早速馴染んでやがる…………。
7歳ほどの少年にしては、素早いパンチ。
クリーンヒットすれば、何もない俺だと余裕でノックダウンだ。
それを、最小限の動きだけで躱す。
「パンチだけじゃダメだ、体全体を使え。」
「くそ、なんで一回も当たらないんだ!」
こうして考えると俺もだいぶ強くなったな、と思いながら右足をかける。
「うわっ!?」
「はい一本。さっきよりはマシだけど、手数が足りてない。」
「思うんだけどさ、魔物相手に素手なんかで戦うのか?」
「俺はやってるけど、まああまりみないな。
けど、体全体を使うということを覚えるには素手が一番だ。」
「そっか……。でも、冒険者さんがそういうのなら納得だ!」
こうしてみると、まるで弟でも持ったような気分だ。
割と素直な子で、吸収も早い。体がこの年齢にしてはできている、というのもあるのだろう。
「よし、もう一回!」
「してやりたいのは山々なんだけど、もう暗くなってきた。帰ろう。」
「えっ……。
あ、でも、冒険者さん光属性っていう珍しい魔力を持ってるんだろ?それで照らせばいいじゃん!」
「あまり親を心配させてやるな。見てるだろ、お前の父さんの心配そうな顔。」
「そうだなぁ……。
あれ、冒険者さんもまだ子供だろ?親はいいのか?」
「ああ……。俺達は全員親に捨てられた奴で集まったパーティだからな。」
「そ、そうだったのか。ごめん、変なこと聞いて。」
「いや、別にもうどうでもいいと思ってるからいいよ。」
嘘だ。未だに捨てられてなかったら、とか考えてたりする。カナルとかが通ってる学園を見ると、なんか無性に悔しくなるんだよな………。
自然と口数が少なくなった俺達は、そのまま家に戻る。
「かーちゃん、ただいま!」
「ルー!大丈夫だった!?怪我はしてない?」
「大丈夫だよかーちゃん。怪我は少しはしたけど全部冒険者さんが治してくれた。」
「そ、そう…………。」
相変わらず母親側は俺を恐れているなぁ……。
「ところで、俺以外の3人は何処に?」
「みんな、にかいにいるよ!」
「ありがとうな。」
教えてくれた女の子の頭をなでて、俺は二階に登る。
どの部屋かは、すぐわかった。
「『グランドタートル』は、まだ休眠中か?」
ドアを開けるなり聞く。
あの『グランドタートル』、流石に魔力を使いすぎたようで少しばかり休眠に入っていたのだ。
「うん。森に入って色々調べてみたけど、魔物はいつもどおりだった。
それと、森はまだ騒がしいよ。トレントが一部暴れてた。」
「そうか、トレントが暴れてるならまだ厳しいな………。」
トレントはD級のモンスターだが、それは魔力がほぼ無い上にいつもは大人しいからだ。というか、大きな異変でもない限り暴れたりしない。
ただし、物理の戦闘力はC級。
しかもいつもは木に擬態している以上、何が起こるか分かったもんじゃない。
そんなトレントがパニクってる以上、迂闊に森には入れない。
知能があるらしいから、『グランドタートル』もそれを見越して大魔法を打ったのかもしれない。そうだとすればやはり厄介なモンスターだ。
「で、ギルはもう寝たのか………。」
「『紅槍』さんに稽古をつけてもらっていたからね。そりゃ疲れるよ。」
「その『紅槍』さんはどこに?」
「外で体を鍛えていたよ。戻るのはかなり遅くじゃないかな?」
「そうか……。どうせギルは起きないし、今日は作戦会議はしないで寝よう。」
「わかった。」
「おーい!冒険者さん達!夕飯だぜ!」
ルー君に呼ばれて、俺達は一回に戻った。




