252話 対グランドタートル 2
(どうする…………!?)
急いで地図をチラ見し、『グランドタートル』と近隣の村との位置を把握する。
見た感じ、近いわけではない。
大事をとって一度村で休んで万全の状態で望んだほうが良さそうだな。
最悪の場合、こいつらが死ぬということを示唆されている以上万全を期すという選択肢以外はありえないと俺は判断した。
巨大な魔力反応を見なかったことにして、俺が進もうとした瞬間。
「なんか敵がいそうな気配がするぜ!ちょっと見に行ってくる!」
ギルが『グランドタートル』目掛けて歩き出す。
「おい!?危ないぞ!先に俺が『マジックサーチャー』で感知するから待て!」
「お、そうだな!それがいい!」
慌てて止めて、あたかも今『グランドタートル』の魔力反応を見つけたかのように振る舞う。
「このでかい土属性と闇属性の魔力反応、間違いだろうな、『グランドタートル』のものだ。」
「ホントか!」
「早めに見つかったね。どうしようか。」
「その前に、『グランドタートル』は村にだいぶ近づいちまってるか?」
「いや、まだ大丈夫っぽいな。
だが、その周りの魔物は魔力が高ぶっている。興奮状態にあるから危険っちゃあ危険だ。」
『紅槍』さんも俺のちょっとした演技には気づかなかったようだ。
胸を内心なでおろしながら、こっそりあの魔法を使う。
(『エスプリ・プロープル』。)
心臓がバクバクしていたのが治り、思考がクリアになる。
それが、少し快感に感じられた。
(確かに、これはちょっとヤバそうな魔法だな。)
ヘタすればハマりかけない。
サタンの怒りの吸収で残るのは不思議な虚無感だけだし不快なだけだが、こっちは甘美な感じがする。
使用は控えると心に決めて、俺は口を開いた。
「まあ、今は皆疲れているし、一旦村で休もうぜ。
それだけの時間はある――――――――ッ!?」
あ、やばい。
見られた。
『マジックサーチャー』越しに、見られた。
「ロイド、今日は体調でも悪いの!?休んだほうがいいよ!?」
「見られた…………ッ!」
「な、何にだよ?」
「成る程、『魔力逆探知』まで出来る個体か。お前ら、すごいの引いちまったな。」
「ロイド、つまりどういうことだ?」
「どうやってかはわからないけど、『マジックサーチャー』から逆にこっちの位置とかがバレてる。」
「え!?じゃあ『マジックサーチャー』をきれば………って、そうか!」
「そうだ、あいつには擬態能力がある。
『マジックサーチャー』を切ればどうなるか分かったもんじゃない。」
魔法を使う個体なら尚更だ。
魔法は、発現する前に魔力が集まるから一応予測はできるしな。
そう言ってる間に………言わんこっちゃない。
「あいつ、ここらへん一体に魔法をぶちかますぞ!逃げなきゃマズイ!」
「え、でも魔力制御が悪いんじゃなかったのかよ!?」
「魔力ガン積みして広範囲でぶちかませば制御もクソも要らねえだろ!あいつ、燃費とか考えずぶちかます気だ!『マジック・ティラン』!ほら、逃げるぞ!」
魔力反応を受け取った二人が、慌てて走りだす。
『紅槍』さんは既に退避済みだ。速すぎる。
俺も少ない魔力を工面して人間カタパルトを使い、全力で範囲から遠ざかる。
突発的な状況変化に中々頭が追いつかなかった今や二人も全力疾走し、そして。
――――――――――バキィィィィィッ!
辺り一面が、隆起した。それも複雑に。
力任せに魔法をぶっ放したのがよく分かる。全く効率的じゃないし、魔法陣とかが見えない俺でも酷いとわかる制御力。
だが、それでも生み出した惨状は酷いものがある。
『マジックサーチャー』の範囲外になったから魔力残量もわからないが、恐ろしく魔力を使ったことだろう。
今が好機、と捉えることもできるが………。
――――――――――――ざわざわ………。
いきなり発生した天変地異に、森がゆらぎ、普通の木として平和に過ごしているはずのトレントなどいろんな生物がパニックを起こしている。
この森は異常に広いし、この一帯だけで極端に生態系が壊れるとかはないはずだが、少なくともこの一瞬はたくさんの生物が我を失っている。
「さて、どうする?
『グランドタートル』をこのまま討ちに行くか、一度ここらへんが落ち着くまで待って体勢を整えるか。それとも、クエスト破棄で逃げるか?」
『紅槍』さんが問う。
これは、試験の一貫ということなのだろう。
普通の冒険者なら3つ目を選ぶところだが………生憎と、これからの俺達に求められるのはBランクとしての心構え。
Bランクからは人命に非常に関わるクエストが増えるから、『グランドタートル』から逃げる選択肢だけはない。俺らが逃げている間に被害は拡大するだろうからな。
今までなら、自分の命を最優先というスタイルでよかったが、これからはそうはいかない。
それを教えるために、態々防衛戦用のクエストを待っていたのだろう。
だが、俺には引っかかる点がある。
それは、あの夢。
俺が今『エスプリ・プロープル』を使えた以上、あの夢の信憑性は高い。
なら、答えは。
「一度、近くの村で休む。」
『紅槍』さんは、それに質問で返した。
「何故だ?今は好機だろう?
それに、俺達が『マジックサーチャー』の逆探知で逆に村を危険に晒すかもしれない。」
「まず、こんな状況で戦うには俺達は不利だ。
相手が魔物を率いてる以上、状況がしっかりと見えた状態で戦えないと苦戦する。トレントとかまでパニックで参戦されちゃあどうしようもない。
それに、『マジックサーチャー』については使わなければいいだけの話だ。
『グランドタートル』は今魔力回復のために休息を取るはずだしな。」
「よし、まあ合格だ。」
「やっぱり、試していたのか?」
「まあな。撤退を選んでいたらお前らを落として俺一人で挑んでいた。
さあ、すぐに村にいくぞ。」
俺達は未だパニックに包まれている森の中を進んでいった。




