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240話 転生者 3

ニア家当主が、ごく自然な動作(・・・・)でペンを手にとった。


その手が向く先をじっと見つめる。


ごくり。

zzz………。


二人の喉が鳴り、契約書の条件の欄を見つめる。

これが成功するかどうかで、戦争の歴史が変わるかもしれないのだ。


そして、彼は、自然な動作で1番の『10億メル』に下線を引き、サインをした。

最後に、血判を押し。こちらにだす。


(っセーフ!セーフですよロイド君!さあ、受け取って下さい!)


何時になくテンションの高い念波が来る。

まあ、責任重大だったし緊張が解けてテンションが上ったんだろう。

そう思いながら、俺は契約書を取った。


「取引成立ですね。」


「ああ。早速彼女を連れてこよう。」


そう言って、彼が指パッチンすると、程なくして何度も敵対した彼女が現れた。


「なんでしょうか。」


「今日から君の雇い主は彼らだ。

これからは彼らの言葉に従うように。」


「………え?」


それまで、強い殺意を持ちながらも何処か虚ろだった目に、僅かな生気が戻る。


「アリ………エル………?

私は、助かったの………?」


「はい。今日から貴方は自由です。」


口調はいつも通りだが、その姿は嬉しさをこらえているようにみえる。


その声を聞いて、『唸る水流』はその場にぺたりとへたり込んだ。


「はは………。私、助かったんだ…………。」


そう言って、彼女は涙を流し始めた。


そして、そんな光景を見てもニア家当主はなにも言わない。

寧ろ涙をこらえている。

これも闇魔法の効果か。恐ろしい。

ただ、闇魔法といえど人の考えを180度変えられないらしい。

もしかしたら、彼も彼女を酷使させていた自覚があったのかもしれない。

だが、そんなものを差し引いても彼女の力は凄かった。


まだ正確にはわかっていないが、七つの大罪『怠惰』を吸われるせいで逆らわない。

そして、彼女の持つ戦闘力と索敵、隠密能力。


良心の呵責などどっかに吹っ飛ぶような力が、彼を突っ切らせた。

だからといって、人を拷問するクソ野郎を根はいい人とは微塵も思わないが。

ってか寧ろ拷問してやりた――――――――ガコン。


怒りが吸われた俺は、はっと現実に帰った。

見れば、執事さんが変な光景を目の当たりにしたかのように硬直している。

いや実際変な光景だけど。


(おい、アリエル。魔法かかってない人が来たらマズイぞ。帰ろう。)


(あ、あ、はいそうですね。すぐにカナル君たちと合流して退散しましょう。)


「いやぁ、有意義な時間でした。有難う御座います。

では、僕達はここでおいとまさせていただきます。」


「いえいえ、こちらこそ。」


俺達は、早足でカナルたちと合流して比較的広い俺達の家へと戻ることにした。
















その後は、大変だった。

『唸る水流』が、前の面影の一欠片もなく号泣しまくるのだ。

いつもなら女性の涙とかなにが潜んでいるかわからないから裸足で逃げ出す俺だが、なんかこっちも泣けてきた。


そして、嗚咽混じりに話してくれたのはこんな内容だった。


彼女の本名は、フェルト・リース。

ただ、今はもう家が没落しているのでただのフェルトだ。誰だ裁縫しようぜとか言ったやつ。


で、彼女の家は平たくいえば見栄を張って色々やらかして結局防いで潰れた。

しかし、成り上がりの貴族だったために仲の良い親戚がいない。

彼女は、引き取り手を探さねばいけなかった。

そして、引き取られたのがニア家。この際、色々金のやりとりがあったようだ。


ニア家では、暗殺者を育てるための施設があったらしく、彼女はそこに放り込まれる。

あそこのメイドが強かったのはそういう施設があったのも関係しているかもしれない。


そして、彼女はそこでチートを遺憾なく発揮し、そこで最高戦闘力の座を手にした。

そこからは、仕事の毎日だ。

怠惰の吸収のせいで逆らえず、ただただやりたくない仕事をやらされ続ける。

その度に染まっていく両手が怖くて、何度も泣いていたらしい。

けど、主人の前でそれをさらけ出すことは許されない。

ニア家では、強くあることが求められていたのだ。


そして、元日本人としての精神を甚振られ、次第に彼女から生気がなくなっていったらしい。

何処か浮世離れした、人を寄せ付けない雰囲気。いや、恐怖のオーラ。

俺が毎回感じていたそれだ。


そして、やっと今回の一件で救われたわけだ。

因みに、この話は周りには聞こえていない。


「…………なんというか、俺よりも波瀾万丈だな。」


割とハードモードをテンションでPON☆と乗り切ってきた自信はあるが、彼女はルナティックモードだ。しかもボムなし。

絶対魔王は転生先に格差を付け過ぎだと思う。


そうこうしているうちに、彼女の涙も段々落ち着いてきた。


「さて、どうするか。」


カナルが、腕組みながら言った。


「どうするとは?」

「彼女の処遇だよ。

誰の家で引き取る?」


現状、選択肢は3つだ。

ここと、ジルフォン家と、アリエルが借りている宿だ。


「ここでいいんじゃないかな?」


そう言いながら階段を降りてきたのは、先生だった。


「リフォームして部屋も余ってるし。

ほら、貴族様の家だと色々緊張しちゃうだろうし、アリエルさんも冒険者稼業でよく家を空けるだろう?

うちなら大抵誰か居るし、いいと思うよ。」


「…………いいんですか?

私、貴方を殺そうとしましたよ?」


「そうだね、あれはヒヤッとした。

でも今は大丈夫なんだろ?

だったらいいよ。それに人が多いほうが賑やかでいいしね。」


「あ……あ、ありがとうございます!」



こうして、俺達は、4人目の転生者フェルトを助け出すことに成功した。

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