226話 くぅ~疲れm「休ませないよ」……え?
――――――――――――ゾワッ
背筋の凍るような殺気を感じた途端、爆睡していた俺は飛び起きた。
一週間の旅の疲れを取ろうと思っていたのだが、どうやらそうもいかないらしい。
(魔力球)
光属性の魔力球が周りを照らす。
今のところ、誰も居ないな。しかし、その殺気は未だ止まらず、俺のSAN値を直接削ってくる。
(『マジックサーチャー』)
魔力も探知しているが、反応はなし。
それと、アダマンチウムは一応注意しとかなければいけないな。
そうそう使われることもないだろうが、食らったら概念魔法で空中魔手パンチくらいしかできなくなる。
――――――コトッ。
(物音!)
音のした方へ振り向いた時、背中を氷で抉られた。
(しまった………!『ヘイレン』!)
痛みを感じる前にすぐ治す。
けど、次の一撃は何としてでも防がないといけない。急所に喰らえば復帰は不可だ。
「『オープン』『セイクリッドガード』!」
『白濁拳』を呼び出し、俺の全身を覆うように『セイクリッドガード』を展開する。
展開した面積が広いため、魔力の消耗が激しいが、練っておいた魔力も動員してどうにかする。
とんでもない氷の矢と黒い矢をぶつけられまくったが、俺の『セイクリッドガード』はビクともしない。
(で、敵は――――――)
魔力球で照らして顔を確認。
「――――――やっぱり、てめえか。」
「………」
無言で黒い球が飛んでくる。
それを『セイクリッドガード』で防ぎ、そして即解除。
(魔手装甲!)
アダマンチウムが怖いが、『マジックサーチャー』を打ち消さなかったからそれはないだろう。
それよりも怖いのが、殺気から飛んでくる黒い魔法や、『マジックサーチャー』に感知されない能力。
間違いなく、闇属性の持ち主だ。
(おいおい、光と闇は極端に少なかったんじゃなかったのかよぉ!)
何が起きるかわからないので、全力で回避する。
黒い矢が壁にあたった途端、部屋の壁が崩れ去る。
ってかいい加減起きてくれ皆。
そう思った瞬間。
「詠唱破棄、『アクアスラスター』!」
部屋の外から水の大砲が打ち込まれる。
『唸る水流』は、それを無詠唱の氷の壁でしっかり防いだ。
「先生!」
「相変わらず滅茶苦茶なのを呼ぶね………。我が水の力よ、集いて彼の者を華麗に叩き斬れ!『クリスタロス・スライス』!」
今度は巨大な鋭い剣の一閃。
『唸る水流』は、そこで初めて回避行動に出る。
『クリスタロス・スライス』は、そのまま壁を綺麗に切り裂いた。
「ありゃりゃ、せっかくリフォームしたばっかなのに。」
「んな事言ってる場合ですか!というより他の人達は!?」
「二日酔いさ。詠唱破棄、『マッドキャノン』!」
(あいつら………………)
先生のお陰で戦況は拮抗し始めたが、それも先生の魔力が切れるまで。
相手はBランク級のモンスターが溢れ出る場所で延々と狩りをし続けた奴だ。
ってか何でこんなのが堂々と学園生活送れんだよ畜生め。
「『セイクリッドガード』!」
「『ストーンショット』!」
『セイクリッドガード』が全ての攻撃を防ぎ、『アクア・ブースト』で強化された『ストーンショット』がばら撒かれる。
「――――――!」
彼女は、それを焦ることなく全て防ぎ、そして先生に接近。
『セイクリッドガード』で何でも防ぐ俺よりも、攻撃力のある先生を先に処理しようとしたのだろう。
しかし、そいつは罠だ。
――――――ボゴッ。
先生は、実は戦いが始まってから一度も動いていない。
理由はただひとつ。
先生の目の前の落とし穴にかからせるため。
「!」
驚いた彼女は、即座にその場で跳躍した。
その反射神経は素直に褒めるべきだし、実際最も正しい解答だ。
だが現実問題、空中にいる彼女はあまりにも無防備。
「詠唱破棄、『ティアマトの嘆き』!」
「『エクスカリバー』!!!!!」
二人の魔法使いの、全力の魔法が彼女へ襲いかかる。
彼女は大きく目を見開き、そして意を決したかのように、魔法を唱えた。
「『アバドン・ゲート』」
彼女の目の前に、漆黒の円盤が生まれる。
そして、2つの魔法が円盤に飲み込まれた。
「「!?」」
『ティアマトの嘆き』はともかく魔を切る『エクスカリバー』も!?
俺が驚いていると、『唸る水流』の全身からどす黒い魔力が吹き出していく。
その魔力は彼女を包み込み、更に俺達を威圧した。
それだけでなく、俺が肩を脱臼し、先生が魔力を使い切ったというのに全くダメージを与えられなかったという事実が、俺らに重くのしかかる。
だが、それ以上に大きな問題があった。
それは。
(マズイな、あの魔力……見覚えがある…………!)
この不快感しか感じない、それでいて圧倒的な魔力………。
間違いない。あれは―――――――――
「成る程、お前まで転生者だった、てわけか。」
―――――――俺の中にいるおっさん、あれと同じだ。




