216話 ワタシノタメニアラソウノハヤメテ(棒読み)
「またまた面白いものを作ってくれましたね、ロイドさん!」
ダルファさんの輝く笑顔を前に、俺は事情を説明した。
うおお、物凄い笑顔だ。
「実は最近家が一部壊れまして、暖を取るのに苦労してたんですよ。
ああ、あったかい!」
「そ、それは良かったデス…………。」
…………………まさか俺関連で襲撃されて家が壊れたとかはないよな。
「で、えーとなんでしたっけ?
商人ギルドで権利の登録ですよね?」
「そうそう。お願いできる?」
「大丈夫ですよ。今からでもいけます。」
「そんじゃ…………『オープン』(『マジックガード』!)」
『白濁拳』を動かない右手の代わりに左手で持ち、空中に『マジックガード』を維持させる。
それに飛び乗り、魔手でダルファさんを乗っけて、俺は『マジックガード』を動かした。
「それじゃ、商人ギルドに向かって出発進行!」
「これ私までかなり目立つんじゃないですかねぇ…………。」
「かっとばないぜ俺!」
要するに、それはもう諦めたってことだ。
(な、何だこのおばさん!?)
俺は、商人ギルドに入るなり急に近づいてきたおばさんに警戒態勢を取った。
女性恐怖症とはまた別に、この9年間で養われた危険信号がカンカンとこのおばさんが危険だと伝える。
「あらあらダルファちゃん、可愛いボウヤを連れて今日は何をしに来たの?」
おばさんのねっとりとした、油断の出来ない声をかけられたダルファさんは、心底嫌なものを見るような目で、但し丁寧な態度は崩さず簡潔に答えた。
「新商品の登録です。」
そういった瞬間、おばさんの眼が光る。
「あら、もしかしてこのボウヤが噂のカレ?」
「貴方には関係のないことです。ロイドさん、こっちですよ。」
ダルファさんは早々にこの人との会話を打ち切りたいようだ。
その気持はわかる。このおばさんは、知らない内に飲み込んできそうな何かを持っている。
だから、俺は大人しくダルファさんについていくことにした。
序におばさんに怯えたふりもしておこう。子供ってのはそういう面でも有利だぜ。
「…………チッ。」
おばさんがそれまでの態度を翻して感じの悪い舌打ちをした。
成る程、そっちが本性か。
俺は、彼女に聞こえないように小声でダルファさんに聞いた。
「彼女は?」
「ただのがめついおばあさんです。
あまり近寄らないほうがいいですよ?」
ダルファさんはうんざりしたように言った。
大分あのおばさんに手を焼いているのだろうか。
「ロイドさん、彼女は一旦忘れましょう。
それよりも利権の登録が優先です。」
「そ、そうだな。」
…………………もしかして、彼女の目当ては俺か?
まあ、傍から見れば金のなる木状態だしな。
さっきから険しい目をしていたダルファさんは、その視界に商人ギルドの受付さんを収めるなりいつもの愛想笑いに戻った。
「ダルファさんじゃないですか。
今日はどういったご用件で?」
「ケーンさん、今日は権利の商品登録をしたくてですね。」
ダルファさんがそういうと、ケーンさんと呼ばれた受付の人の目が光った。
「…………ほう、それはあの例の少年関係ですかな?」
……………これはあれか、俺は隠語なのか。
「そうです。
で、商品登録ですが。」
「具体的には何を登録されるのです?」
「ロイドさん、あれを。」
俺がカイロを彼に渡すと、ダルファさんはカイロを振り始める。
「この通り、この品は振ると熱を発する物です。」
「……………成る程、ではその商品を登録すると?」
「いえ、違います。登録するのは三点。
これの作り方、作る権利、販売する権利の3つです。」
「な……………!」
ケーンさんが、驚いた目でこっちを見てくる。
「これも、彼のアイディアですか?」
「そうです。」
「いやはや、想像以上ですね…………!」
(いや思いついたのカナルの方なんだが………。)
物凄く突っ込みたくなったが、やめておいた。
「それで、作り方のほうがこれになります。」
ダルファさんが、俺の作ったレシピを出す。
「わかりました。
写生は我々に任せていただけますか?」
「いいでしょう。それで、値段ですが。」
「わかっていますよ、それくらい。
そこの彼は付いてきますか?」
「お、俺ぇ!?」
なんかもう俺ついていけないんだけど!?
「彼はこの分野においてはまだまだ経験不足です。
私が代わりになりましょう。」
「でしょうね。
……………手加減はしませんよ?」
「望むところです。」
(なんでこんな冷戦勃発してんの!?)
もう僕、ついていけません、まる
俺は、交渉を全てダルファさんに丸投げして寛ぐことにした。
そして、一週間後。
そこには、金庫に入る金の桁数に目を回している俺が居たとか居なかったとか。
バレンタインなんてなくなっちゃえ




