215話 道民の本気
若干シリアスっぽい感じになりました。
この城塞都市に来て初めての冬は、今までの帝国のそれと比べて遥かに寒かった。
「――――――――――という訳でさ、道民として忘れちゃなんねえものがあると思うんだよな?」
「いや知るかよそんなもん。」
つれない返事をするカナルに俺は溜息をつきながら、俺は懐から一つのパックを出した。
「……………………なんだ?それは。」
「よくぞ聞いてくれた!
これぞ寒さに苦しむ人々を永きにわたって救い続けた人類の叡智の結晶!
使い捨てカ☆イ☆ロだッ!!!!!」
「…………………。
俺の知識だから合ってるかは知らんが、使い捨てカイロってそんな永きにわたって使われてないんじゃないか?」
「30年ちょいしか使われてないぜ終わったアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!!」
シュウに魔力が生まれたのが発覚した後、沢山の人が教師役を申し出た。
ギルはギルマスが引き取ったので、「〇〇はワシが育てた」が出来そうなのがシュウしか居なかっただろう。
ぶっちゃけ、俺らの快進撃はそれなりに有名だし、やりたい気持ちはわからなくもない。
でもって、絶賛ぼっち状態となった俺は暇つぶしに使い捨てカイロ、要するに化学カイロをちゃちゃっと作り、カナルの家に侵入したのだ。
ジルフォン家は俺を嫌っているので、表からは行かずに魔手で施錠を開けて窓から入った。
音はカナルが防音しているのでそう簡単には漏れないだろう。
「ってか、何で対象が俺なんだよ。
別にアリエルでもいいだろ。」
「あいつは今回の件でCランクになって遠征行ったから居ねぇよ。」
「そういやお前らはドラゴンと戦っていたんだっけか。」
「冒険者は大変だぜ、全く。
ガチで死ぬかと思った。」
「じゃあ何で冒険者をやっているんだ?お前ほど発明で稼いでいれば金には困らないだろう?」
む、そう来たか。
確かに金だけなら十分足りているな。
「………強くなりたいから?かな。」
「!?
強くなりたい?」
「結局俺も男だったってわけだ。
それに、もう自分の無力を泣きたくはないしさ。」
脳裏に浮かぶのは、昔死んでいった仲間たち。
何とか餓死者を出すのだけは防げたが、疫病やスラムの荒くれ者達に殺された者とかはそれなりに居た。
彼らも、力さえあれば死ぬことはなかっただろう。
そして、フィルも。
ああ、思い出すだけで胃がムカムカしてきた。
やっぱ殺すべきだったなあの糞野郎。
「おいどうした、目が滅茶苦茶険しくなっているぞ。」
「ああ、ごめんごめん。
でさ、話戻るけどこの化学カイロ売れそう?」
「売れそうだな。
因みに作る費用はどのくらいだ?」
「バーミキュライトとかそこら辺の調達が難しそうなのが魔法一発でできるし、正直調達すべきは活性炭と袋のための布だったからなぁ。
まあ、条件に合う布がなかなか無くて苦労したけど。
正直1000メルもあれば一個作れるぜ。」
「へえ。因みにその布ってのはどっかで売ってたものなのか?」
「いや、動物系モンスターの内臓の革だ。
良い具合に空気が入る細かい穴があって助かったぜ。」
因みに、ここで軽く化学カイロの原理も説明しておこう。
まず、カイロの中には主に以下のものが入ってる。
・鉄粉
・水
・バーミキュライト
・活性炭
他には塩類が入ることもあるな。
でもって、恐らく中学校あたりでやったと思われるが、鉄が錆びる、もとい酸化するときは熱を発する。
化学カイロでは、この鉄粉に水や活性炭を使って鉄の酸化を早めることによって熱を出しているのだ。
察しのいい人ならすぐ気づくだろうが、このカイロはそのまま放置しておくと勝手に発熱して使えなくなる。
現代日本なら色々通気性の悪い物質やなんたらで密閉出来るのだが、ここは文明の遅れている異世界。
しかし、この世界には生命の神秘なるものがある。
具体的には、実はモンスターの大半は革に圧力をかけると凝縮し、空気の通りが悪くなるのだ。
これは、元々モンスターが衝撃から体を守るために持っていた機能なのだが、それを利用することにした。
鉄粉を一旦袋の底に集め、空気を押し出し、そしてそれを海苔巻きのように巻いて縛る。
そうすることで革に圧力がかかり、通気性が悪くなるので保存は一応効くようになるはずだ。
「……………思ったんだが、お前、カイロそのものは売らずに権利を売ったほうがいいんじゃないのか?」
「どうした、唐突に。」
「気づいてないとは言わせんぞ。
お前、貴族に大分狙われているだろう?」
「…………………。」
まあ、確かにな。
こんだけはっちゃけてて目をつけられないんならそれはもう一種の才能だよ。
「俺としては、これ以上貴族を刺激するのはよして欲しい。
だから、せめてもの妥協策として売買する権利と作成する権利と作成方法、この3つを分離して売りだすというのはどうだ?
お前が最近始めた孤児院を経営するくらいの金は舞い込んでくるだろう?」
存外悪くないアイディアだ。
かなり稼げるし、尚且つ貴族からも狙われない。
金さえ出せば手に入るのだから、態々一応成功率0%の俺の脅迫に出ることもないだろう。
「お前も偶にはいいアイディアを出すんだな。」
「殺すぞ」
「ういっす」
その後、俺達はしっかりと損得などを話し合い、俺は権利の承認に商人ギルドを利用するためにダルファさんの元へ向かった。
ダルファさんが居れば何かしら騙されることもないだろうしな。




