20話 前世の科学部がどこかぶっ飛んでるんだが
転生してから2年が経った。
お爺さんから食物を盗ったおかげで、冬を越せた。
それでも毎日が空腹の連続だったし、キャベツも硬くて食えないという地獄が続いたが、一人の命を使ったのだと思うとそんなことで弱音を言ってられなかった。
だから体はあまり成長せず、多分10キロも無い。
が、足りない筋力も体力も魔力で代用できた。
この冬は何人か死んでしまったから、本当に魔力を持てたことの素晴らしさがわかったよ。
だが、こんな苦しみも春で解消された。
春に収穫される作物がこの国では多く栽培されていたのだ。
おかげでこっちは沢山盗れてラッキー、という具合だ。
この世界は寒暖の差がそこまで激しくないので、夏は比較的涼しい部類に入る。おかげで働かされた。服の修理、運搬、魔法を使った盗みの補助等等。
ガチでブラック企業も真っ青だ。ゲームばっかりやってた前世が懐かしい。
しかもほぼ常に魔の手から逃げなくてはいけなくて、
更に『小さな天才』というあだ名までついて恥ずかしいやら忙しいやら。
でもそれなりに楽しかった。生きてるのが実感できたし。
で、また秋に戻ってきた、という訳だ。
今年は不作にはならなかった。だから今年は人から奪い尽くす必要もない。
お爺さんの畑はなかなか大きく、スラムの近くにあったので、警備兵もあまりこない。まさに俺らにとって最高の立地条件を満たしていたのだ。
因みに今植えられているものはじゃがいもとピーマン。じゃがいもに関してはバターが欲しいと何度も思ったよ。
秋になるとだんだん寒くなってくるので、収穫以外にはほとんど皆外出しなくなる。おかげで俺の仕事が減って万々歳だ。
外出しないから服は破れないし、盗みもしないから魔法の補助もしなくていい。するのは運搬だけだけどそこまで忙しくない。
そこで、俺は今盗みの補助を助ける道具を作っている。
具体的に言うと煙玉だ。
作り方は前世で科学部でやったから大丈夫。
簡潔に言うと、硝酸カリウムと砂糖を三対二の割合で混ぜて、導火線をつけて着火すると煙がすんごい感じに出てくるっていう寸法だ。
因みにこの世界では砂糖が滅茶苦茶珍しかったのだが、偶々集会のために山に行った時山でサトウキビを見つけたのだ。
大喜びで持ち帰り、他の人に変な目で見られながらも記憶をたどりながら砂糖を作ることに成功した。
因みに俺の「小さな天才」というあだ名も砂糖を皆にあげた時に誰かが
「よっ!小さな天才!」と叫んだのでついた。
それはともかく、お陰で砂糖を作ることに成功した俺は、今導火線のことで悩んでいる。導火線は作り方も覚えているのだが、その材料の一つが黒色火薬なのだ。
黒色火薬は普通はダメなのだが前世でちゃっかり科学バカ共が作っていて、
作り方も覚えている。
黒色火薬は木炭、硫黄、硝酸カリウムで作れる。水も使うけど。
硫黄と硝酸カリウムは魔法で作れた。水も作れる。
だけど、木炭が手に入らないのだ。
というか、木炭の作り方がわからない。
黒色火薬も導火線も煙玉もその他あれやこれやの爆発物等の作り方も
知っているのになぜか木炭の作り方がわからない。
多分木を燃やしたりするのだろうが確証がない。
本当にどうしよう。
そもそも木炭なんてBBQでしか見たことがない。
後回しにするわけにもいかないし………。
ここの人で誰か知っていそうな人居ないかな……………。
そう考えて周りを見渡すが、皆今年の収穫を貯蔵するのに忙しい。
俺だけ幼いから、という理由で休ませてもらってるのに、他の人のじゃまは良くないしなぁ。雑用係の人たちまで働いてるし八方塞がりだ。
そう考えて一年前から大事にしているマッチを取り出す。
ぼーっとマッチを眺めていると、あることを思い出した。
(木炭って炭素の塊だよな…………!?)
ということは燃やしても酸素と炭素が結びつかないってことか。
結びついちゃったら炭素が残らないしな。
酸素と炭素が結びつかない燃え方かぁ。はっ!?
(空気と結びつかずに加熱すれば…………!?)
つまり、何かしらのもので包みながら加熱するということだ。
じゃあさつまいもをアルミホイルで包ながら燃やすのもそれが関係してるんだろうか。知らんが。
まあいいや。物は試し。早速基地から出てそこら辺にある枝を拾う。
ここ最近は強風が続いているから枝は大量にある。
つまり、実験し放題、という訳だ。後はマッチが何本もつかだな。
よし。アルミホイルを作ろう。
(アース・ホール)
前世によくあった薄いアルミニウムが出てくる。
よっしゃ。イメージ成功。実は偶に失敗して変な形のものを出しちゃう事があるのだ。先生曰く「魔力不足」らしい。悲しいわwww。
アルミニウムで枝を包み、マッチで火をつける。
数時間後、スラムでは何やら歓喜の声が響き渡ったという。
「遂にっ………………出来たぞオオオオオ!!!!」
俺は、木炭を手にしながら叫んだ。
因みにもう夜だから、真っ暗だ。横で燃えてる焚き火の周りが凄く明るく感じる。
ふう。すんごい苦労した。もうこの2歳の体じゃ限界だ。
どうしても今日中に作りたかったから無理をしたけど、眠い。
もう寝ないと倒れるハメになるだろう。
スラムで無防備に寝るとかそんなことをして無事でいられる自信がないので
焚き火の火を消し、軽く魔法で光を出しながら基地に戻る。
基地では沢山の人が広場に集まって寝ている。今まで俺が2つしか無いベッドで寝れたのは最年少だったからだ。だった、というのは最近誰かさん(名前は忘れた)が双子を拾ってきたからだ。因みに二人共魔力はなかった。
そんなかんじで最近は俺も広場で寝ている。既にスペースはほとんど取られているので広場の済にうずくまる。もし俺が大の字で寝たら誰かの下敷きになることだろう。早く体が大きくなって欲しいけどこんな環境だし無理か。
ああ、もう眠い。考えるのもだるいな。
俺は体育ずわりの状態で意識を手放した。
目が覚めると、もうとっくの等に皆は起きていた。昨日の作業の続きをしている。
まあでも広場の隅で寝たし邪魔にはなってないだろう。
さて、今日は木炭作りに励むとしますか。
体育ずわりで寝たせいで痛む首をヘイレンで癒しながら魔力の手を展開し、俺は外に出た。
昨日と同様にアルミニウムを作り、樹の枝を集める。
そのうちいくつかを焚き火の形にし、マッチの火を徐々に広げていく。
その後、薄いアルミニウムで樹の枝を包んでいき、焚き火で炙る。
ここまでするのに約30分。昨日もやったのでそれなりに早く進んだ。
アルミニウムに包まれた樹の枝は、炙っていると煙が出てくる。
目には殆ど見えないが、多分これが「木ガス」だと思う。
試行錯誤をしている間に受験勉強で使ってた参考書に書いてあったのを思い出したのだ。お陰で木炭が作れた。
で、この「木ガス」が出なくなると完成なのだが、まあ眼に見えないので
見ただけじゃ判断できない。だからずっと魔力の手をかざしている。
木ガスは臭いがあるし、吸うと咳き込んでしまうので魔力の手をかざして
煙の感触がこなくなったら完成、ということにしている。
あ、一本目が出来た。早速アルミニウムを剥がす。
中には液体と固体がある。
液体の方は「木タール」と「木酢液」だ。
これはいらないので捨てる。
そして、固体のほうが本命の木炭だ。
木炭を手にとっているうちに、二本目がきた。
これも一本目と同じ要領で剥がしていく。
約2時間後、俺の後にはちょっとこんもりとした木炭の丘ができていた。
これらを基地に持っていくのは時間が掛かるし、何よりスペースを取るので運搬作業の邪魔だ。
という訳でこのまま外で黒色火薬を作る。
まず、木炭をすりつぶす。容器は『アース・ホール』で作った石にスラムの人から盗った皮を掛けたもので、すりつぶしているものは魔力の手である。
次に、『アース・ホール』で硫黄を生み出し、潰した木炭と混ぜる。
そのまま一年前も作った硝酸カリウムを生み出してこれも混ぜる。
これからが肝心だ。水を水分が4.5%から6.5%になるよう混ぜるのだが、
水分が多すぎると爆発せず、水分が少なすぎると後々爆発する。
特に後者は勘弁願いたいので水1ミリリットルが1グラムの法則を生かし、
慎重に混ぜる。
今回は水分を6%にした。爆発が目的ではなく、導火線の材料にするために作るからだ。ていうか怪我人が増えるから爆発されると困る。
まあ黒色火薬も煙出すけどな。有害だし爆発するから危なすぎる。
俺は他の人をむやみやたらと怪我させようなんて思っていない。
今黒色火薬を作っている理由は導火線の材料にするためだし。
で、次に全部が均一になるようによくすりつぶす。
もうここまでくると魔力の手なしでは生活できないような気さえするよ。
本当は次は圧縮して威力を上げるのだが、これは失敗すると爆発する上に、
何度も言うが導火線用だから威力が上がっても困るのでなしにする。
後は水分が飛ばないよう粉砕する。
ここは爆発ポイント2だ。水分が少ないと爆発する。
爆発する可能性も考えて遠くから粉砕したが、水分は足りていたようだ。
導火線はタコ糸などに黒色火薬の小さい粒を含ませるか、黒色火薬を芯としてタコ糸などをつけるかの二通りある。
俺は前者を選んだので粉砕したわけだ。
最後に焚き火の熱と『ウィンド・ロール』を使った温風で乾かして水分がめっちゃ低くなるようにして完成っと。
周りを見るとまだ昼過ぎだ。
導火線が作れるな。もしかしたら今日中に煙玉が作れるかもしれない。
俺は、アルミニウムなどを『アース・ホール』で片付け、基地に裁縫道具を取りに行った。
間違っているところがありましたら指摘をおねがいします。