212話 夜食推奨
俺の意識が戻る頃には、もう既に解剖は分配などの厄介事は終わっていたようだ。
で、今はもう既に夜。
そして、思い出して欲しい。
俺らの大半は、朝飯も昼飯も食っていない。
「っつう訳でだ、今日は『ラケルトゥス・ドラゴン』のシチューを作るぞ!」
「「「おおおおおおお!!!!!!」」」
何故かエプロンを付けたギルマスが、お玉を手に取りながら叫ぶ。
その横には、恐ろしいほどうずたかく積まれた『ラケルトゥス・ドラゴン』の肉が。
驚いたことに、あの野郎、何と骨までも筋肉だった。
流石に脳みそは筋肉じゃなかったが。
因みに、この肉の内6割はAランク冒険者『灰鍵』さんだ。
この男、恐ろしいほど『解体』の技術が高く、死んでるものなら触れただけで大抵バラッバラに出来る。
お陰様で、俺が気を失っている間に解体が終わったようだ。
…………『解体』って、極めたら生きてる奴にも効きそうだよな。
何と未来ある技だ。怖い。
俺が勝手にブルっていると、大量の巨大鍋にどんどん肉が突っ込まれていく。
ダシ、肉。具、肉。調味料、肉。結論、肉。
まさに腹を満たすためだけに作られたような特製スタミナ肉シチューが、鍋の中でグツグツと音を立てながら煮こまれていく。
と言っても、まだまだ時間がかかりそうなので俺がぼぉーっとしていると、突然背中を叩かれた。
叩いてきたのは、偶に一緒に狩りをしたりする冒険者仲間。ランクはCだ。
「お前、すげぇじゃん!よくあんなの相手に戦ったな!」
「実際怖かったんだぜ?
でも、他に人居なかったじゃん。俺が行くしか無いと思ってよ。」
「ホント、お前はよく動いたぜ。
ほらさ、おれはシグとかいつもの奴らとぶっ倒れてたじゃん?
だからお前があんだけ動けたのは正直すごいと思ったぜ。
お前さ、全然死にそうで死なないから遂にかっけえ二つ名がつきそうだぞ。
今ん所『不死身』が最有力候補だな。」
「なんじゃそりゃ。
いや、確かに我ながら無謀な戦いはしてた自覚あるけど。そして自分が生きているのがおかしいことくらいはわかるけど。」
冷静に考えてみろ。
なんであんなクソ強いドラゴンに対して先陣なんか切ってんだ俺。普通人間の生存本能とかなんかからそういうのは躊躇するもんだろ。
勇者にしてもそうだ。
いくら俺が激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームしていても、流石にあれは無謀だったような気がする。
絶対今日の俺は緊張とかそんなのでハイになっていたな。今後は気をつけよう。
「うおーい!第一陣できたぞー!!!!」
「「「うおおおお!?」」」
ギルマスが例の魔道具で声を大きくして叫ぶと、紙の皿を携えた冒険者や騎士がずらーっと並んだ。
因みに、教会は俺らと同じ飯を食うのが気に食わないようですぐ帰っていった。働いてないから腹が減ってないのか。
胸糞ワリィぜあいつら。
そんなことを考えながら、俺も魔手で皿を持って列に並んだ。
因みに、俺の右腕は過度の補強のせいでまた自壊しやがったので、ギプスで固定中だ。
良くなったら『マグナヘイレン』をかけようと思う。
お陰様で傍らから見れば皿が浮いているようにしか見えず、初見の騎士達がびっくりしている。
そういえば今更だけど魔手って高等技術だったよな。俺のスペックが原因かチート(笑)が原因かは忘れたが。
「おー、MVPじゃねーか。ほらよ、大盛りだ!」
「俺そんな食える方じゃないんだけどなぁ………………。
まあ、有難う。」
有難いので、素直に貰っておく。
ぶっちゃけ今は無理してでも沢山食った方がいいような気がする。
よくよく考えれば、この『ラケルトゥス・ドラゴン』はタンパク質の塊だ。
タンパク質大量摂取→筋肉がつく→筋肉の謎パワーで身長も伸びる(投げやり)。
いいコトずくめだ。体力が付けば俺も『豪気』が使えるようになるだろうし。
さあ食おう。
そういえば、支援魔法を胃とかそういう内臓にかけたらどうなるのだろう。
よし、やってみるか。
俺は内蔵に『ウィンド・ブースト』と『フレイム・ブースト』を掛けた。
結論から言おう。
消化がめっちゃ早くなった。
序にナニとは言わないがナニが出た。こう、ぶりっと。
という訳で、俺は現在大食い選手権に出場中である。
『早い、流石我らがギルドマスター!噛むことなく全て飲み込むその姿は圧巻です!』
『いえ、違いますね。あれは、『アクセルブースト』を顎にかけることによってスピードを上げているのですね。』
『なんと!
しかし、そのギルドマスターに追い付く方が二人いますね。彼らは?』
『Cランク冒険者『不死身』と、Aランク冒険者『銀狼』ですね。』
総勢150人の参加者により、開催されたこの大会。
次々と脱落者が出る中、トップ争いをしているのは俺、ギルマス、『銀狼』の3人。
「ハハハ、お前らやるじゃねぇか!」
「人狼族の本気を見せてやるわい!」
「フッ、ちび解消に燃える今宵の俺はそう簡単に負けないぜ。」
キメ顔で次々とシチューを食っていく俺らも、簡易トイレの上で垂れ流しにしながら食ってなかったらカッコ良かっただろうにと考えながら、俺は次々と魔手で作った巨大スプーンでシチューを飲んでいく。
『おおっとぉ!残り時間が1分を切りました!』
『現在残っているのはトップ3人のみ!さあ、どうなってしまうのでしょうか!?』
「チッ、こうなりゃラストスパートだ!
『アブソーブマウス』!」
『ここで『銀狼』選手、切り札を投入!次々とシチューを吸い込んでいきます!』
「負けるか!魔手装甲、展開!」
胃に魔手装甲をつけるという前代未聞の魔力操作をしてのけ、俺は魔手のスプーンを更にでかくする。
耐えてくれ、俺の魔力……………ッ!!!
ここで、ギルマスが本気を出した。
「うおおおおお!!!!!!!!
『アレス・ブースト』ぉ!!!!!!」
赤いオーラがギルマスを取り巻き、その動きを加速させる。
そいつは残像だってくらいに加速する。
(ク………ッ!何だかんだ言ってリードしていた部分が徐々に減って……………!)
「「負けるかぁッ!!!」」
俺と『銀狼』さんが気合で加速する。
俺のkskをなめるなぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!
………………結局、ギルマスが一位だった。ちくせう。
唐突な飯テロを狙ったら食いもんの描写がほぼなくって失敗した件。
でも、思いっきりシチューが食べられるって結構素敵な気がw
 




