209話 『ラケルトゥス・ドラゴン』、死す!
魔法の雨が止み、視界が戻った俺は目の前に居るはずのない男がいるのが見えた。
「ギルマス…………!?
あの野郎、本当は体力なんて切れてなかったんじゃねぇか。」
「いや、そんなことはないぞ。少年。」
未だに疲れが残っていそうな騎士団長が俺の隣に立った。
「え?」
「ヤツの恐ろしい所は、あの防御力だけではない。
数々の死線をくぐり抜けてきた、生命力もだ。
ヤツは、少ない食料で3日を生き延び、1時間の睡眠でほぼ全ての体力を回復させ、殆どの病気にかからない。
その生命力は、冒険者の中でもトップクラスだ。」
そう言って賞賛する騎士団長の目の前で、ギルマスが『ラケルトゥス・ドラゴン』に叩きつけられ地面の上をバウンドする。
何の構えすら取らずに突撃し、そして叩きつけられ、地面の上を転がる。
「……………ボコボコにされているようにしか見えないような…………。」
「いや、あれが彼の切り札だ。
生身で受けた一撃全ての衝撃を溜め、3倍にし一気に開放する。
見たまえ、あの赤い剣を。攻撃を受け、ふっとばされる度に肥大化していくだろう?
あれが、彼の切り札『レーヴァテイン』だ。」
「なんでそんなものがあったのに使わなかったんだ?」
「あれを使えるのは一日一回。
尚且つ、一撃を繰り出すだけで豪気をすべて持ってかれるからな。
そして、豪気すら使わず『生身で受ける』とい条件が中々に厳しい。
どうやったのかはしらないが、君がブレスを封じてくれたお陰だ。
あの豪腕による攻撃なら、彼も衝撃を逃がすことで耐えられるからな。」
そんなことを言っている前で、ギルマスが吹っ飛ぶ。
確かに、教会の奴ら以外今までの攻防で誰も動けないレベルまで疲労したが、流石にあれはいくらギルマスといえど可愛そうではないか。
思わず魔力が手にこもった俺を騎士団長が手で制した。
「気持ちはわかる。
だが、君がいっては『ラケルトゥス・ドラゴン』の注意が君に向いてしまう。
それに、隠していてもわかるぞ。
君だって、大分疲れているのだろう?」
「……………ッ!」
よく気づいたな、この人。
まあ、武闘派じゃない俺が隠そうとしたってその道何十年の人には敵わないか。
若干見えで踏ん張っていた俺は、大人しくその場で寝っ転がる。
「ガアッッ!!!!」
目の前のギルマスがそろそろ消耗する頃には、その手にある『レーヴァテイン』は成人男性2人分ほどの大きさとなっていた。
「そろっそろ、決めてやるかな……………ッ!」
ギルマスも覚悟を決めたようだ。
それまで防戦一方だった動きを、スピードある動きに変えていく。
――――――――――――ゴウ!!!
「ぐぅッ!」
豪腕を左肩に喰らっても、ギルマスは吐血するだけで動きを止めない。
魔法によって飛んでくる岩砲弾も膝蹴りで相殺し、ギルマスは『ラケルトゥス・ドラゴン』の目の前に立った。
ギルマスの目線が己の右目にいっていることに気づいたのか。
『ラケルトゥス・ドラゴン』は、視認できるほど膨大な魔力を詰め込んだ『マジックガード』を展開し、その後両腕でギルマスを潰しにかかった。
だが。
「そんな障壁でコイツが防げっかよ!」
ギルマスは『ラケルトゥス・ドラゴン』の右手を蹴り飛ばし、跳躍した。
狙いは、勿論俺が潰した右目。
「さあ!3倍返しだ!ありがたく受け取りなぁ!!!」
「GU、RUUUUU……………!」
――――――――――――ヌッ!
『レーヴァテイン』が、『マジックガード』の中に少しずつ入っていく。
あのドラゴンも全力で『マジックガード』を補強するが、それでもギルマスの腕は止まらない。
「『オーヴァーヒート』ォ!!!」
突如、『レーヴァテイン』から火があがった。
みれば、『レーヴァテイン』の本体も徐々に溶けていく。
「…………勝ったな。」
騎士団長がそう言った途端、遂に『レーヴァテイン』がズブリと『ラケルトゥス・ドラゴン』の脳に突っ込まれた。
「――――――――――――!!!!!!!」
『ラケルトゥス・ドラゴン』が声にならない悲鳴を上げながら、倒れていく。
『マジックサーチャー』を展開し、『ラケルトゥス・ドラゴン』の魔力が消えゆくさまを見ていた俺は、不意に気づいた。
「……………何だ?この霧。」
『ラケルトゥス・ドラゴン』に比べれば、あまりにも貧弱。
そんな霧状の魔力が、『ラケルトゥス・ドラゴン』の脳から出てきたのだ。
そして、霧状の魔力は4つに別れ、4人の人物に突撃を始めた。
狙いは、ギルマス、勇者、騎士団長、そして、俺。
「なぁッ!?」
霧状の魔力は、想像を絶するスピードで俺の中に入り込んだ。
そして、いつかの上級悪魔の綱引きのように俺の精神を直にかき回しにかかる。
(この魔力……………、あん時の上級悪魔かよ!)
俺が、光属性で強引に叩きだすと、今度は霧は『白濁拳』の方に向かっていた。
コイツ、魔石を取り返すつもりか!
一瞬焦った俺だったが、俺はすぐに安堵した。
どういう訳か俺の魔力によって変質した『白濁拳』の魔石が、上級悪魔を拒んでいる。
霧が慌てたように逃げるのを見ながら俺はギルマスと騎士団長の方を見た。
「ハッ、俺の魔力耐性舐めんな。効くかよそんなの。」
「騎士の精神も甘く見られたものだ。この程度で引っ掻き回される精神ではない。」
良かった、二人共精神に害はないようだ。
安心してそのまま勇者の方をみた俺は、目を見開いた。
「う、かぁ………………ッ!」
あんにゃろう、霧に対抗できてねぇ!光属性だってのにどれだけメンタル弱いんだ!?
「『デコラーレ・ピュリファイ』!」
勇者が操られたりするのはマズイので、上級悪魔を引き剥がしにかかる。
しかし、ここで俺ら3人から逃げてきた霧が合流を始める。
「やば……………ッ!」
勇者の右手が、『デコラーレ・ピュリファイ』を弾いた。
そして、勇者の口がパクパクと動き出す。
「『フッ、勇者といえどこの程度か。
それより、貴様ら良くも我を二度も苦しませてくれたな。
この体で、たっぷりとお返しをしてやろう………『聖剣開放』。』」
直後、勇者の体が発光しはじめた。




