208話 シリアスブレイカーオウム
評価平均が見慣れた4.1、4.2からいつの間にか4.2、4.3になっていました。
皆さん、有り難うございます!
ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン。
このくっそ長い名前の爆薬は、『実用、量産が現実的な爆薬』の中で最も火力のある爆薬と言われている。
実はもっとパワーのある爆薬もあるのだが、こっちは原料を生み出すだけの『アース・ホール』では作れなかった。
因みに、ダイナマイトは冒険者なりたての時に作ったものだ。
どちらも使う気がなかったから収納袋で隔離しておいたが、まさか使う日が来るとは思わなかった。
「GU、RU、O………」
『ラケルトゥス・ドラゴン』が全魔力をかき集めたブレスを俺に放とうとしたが、上手く口や喉が焼けてくれたみたいで、それは発射されなかった。
よかった、あの咆哮はまさに最後の咆哮だったって訳か。
よし、ブレスと咆哮は封じた。
ならばと、『ラケルトゥス・ドラゴン』はその豪腕を振りかぶる。
しかし、その時俺は既に逃走体勢にはいっていた。
「そうだ、それでいいぜ。おまえは、こっちだけを見てりゃあいいッ!」
至近距離で咆哮を喰らったせいか、大半が気絶している。
気絶しなかったものが起こそうと必死になっているが、それも時間がかかる筈。
なら、俺に出来るのは回復魔法を掛けながら『ラケルトゥス・ドラゴン』のヘイトをとり続けること。
魔手装甲を全開にし、皆から距離を置くようにして避け続ける。
見たところ、化け物みたいな腕力のせいで腕を使う一撃はとてつもなく速いが、それ以外は速そうに見えない。
だが、コイツの一番危険な所はその大きさ。
あっちの体が大きい分、こっちは大きく回避する必要がある。
「うらァッ!!!」
全力で地面を蹴って回避する俺は、何か対抗策がないか考える。
このままじゃあ俺の体力的にジリ貧だ。あと3分が限界ってところかな。
「……………一か八かだけど、試してみるか。」
そう呟いた俺は、隙を見て魔手装甲を解除した。
そして、そのまま魔手を使った人間カタパルト、いや、人間キャッチボールに移行する。
あれだ、キャッチボールしようぜ!お前ボールな!を忠実に体現した感じだ。
「これ、いつもなら楽しいんだけど今日は全然楽しめねぇな!」
すぐ後ろを通って行く豪腕をみて冷や汗を流しながら、それでも心に余裕を持たせるため、俺はわざと絶叫しながら自分の魔手に投げられ続ける。
「GU、ROOUU………。」
『ラケルトゥス・ドラゴン』も周りから見ればふざけているようにしか見えない俺に苛立っているのか、その腕を更に速く降り始めていく。
(クソ、やっぱり二次元の動きだけじゃ無理か!)
ゴウ!と音をたてて通り過ぎて行く腕に髪の先が当たり、ピッと切れるのをみて、俺はそう判断した。
それまで地面を起点に魔手を展開していた俺は、更に空中にも魔手を作り始める。
立体的に動くことで『ラケルトゥス・ドラゴン』の連撃を躱すことに成功したが、ここで問題が出てきた。
(酔う………………!)
酔いによる、集中力の低下。
だから、俺は気付けなかった。
目の前に、『マジックガード』が貼られていたことに。
「!?」
――――――バギッ!
背中から打ち付けたのでダメージは少なかったが、推進力を失った俺の体はそのまま落下していく。
そして、そんな俺の視界にはこれを狙っていたように豪腕を振りかぶる『ラケルトゥス・ドラゴン』が。
チクショウ、確かに『アース・ドラゴン』の亜種なら土属性の魔法を使ってもおかしくないか!
「『セイクリッドガード』ォ!あぐっ!」
折角展開した『セイクリッドガード』も、落下の衝撃で思わず制御を手放してしまった。
あ、やべぇ。
思わず死を覚悟したその時。
――――――――――――キィィィィィィィィィィンン!!!!!
甲高い音を発する黒光りした槍が、『ラケルトゥス・ドラゴン』の脇に直撃する。
「なっ!?『クリスタ・ルーン』!?」
あまりの出来事に、一瞬思考が停止する俺。
しかし、何があったか詳しくはわからないが、『ラケルトゥス・ドラゴン』の攻撃が止んだのだけは理解した俺は、すぐに距離を取る。
ギャリギャリ、と音をたてて少しずつ鱗が溶けていくのを見た俺は、今の一撃が誰のものかすぐ理解できた。
「『地帝』………………!」
周りを見渡してみるが、そこには生き物が殆ど消えていった元草原があるだけ。
多分、地面にすぐ潜って帰ったのだろう。
いけ好かない奴だったが、とりあえずは内心で感謝をしておく。
と、そこまで考えながら息を整えた俺の目の前に、一匹のオウムが飛んできた。
「ロイドクン、ヨクヤッタ!アトハモウダイジョウブダゾ!
ジュンビハデキタ、アノデカブツヲサイゴニコッチニツレテキテクレ!」
どうやら、もう体力の回復は大分済んだらしい。
なら、最後の大仕事と行きますか。
(魔手装甲!『ウィンド・ブースト』、『アクア・ブースト』、『マジックサーチャー』!)
『クリスタ・ルーン』の消滅にともなってより一層苛立ちっぷりが凄くなった『ラケルトゥス・ドラゴン』が、俺にその豪腕を振りかぶる。
しかし、体力を全て使う気で全力疾走をする俺に、それが当たる筈がない。
「こなくそおおおおおおおおおおお!!!!!!」
足の筋肉が肉離れを起こすレベルで全力疾走をしていると、やがて詠唱をしている魔術師の塊が見えた。
「坊主がターゲットを持ってきたぞ!
さあ、ぶっ放せ!」
――――――――――――ズザァァァァッ!!!!!
俺が超スピードでスライディングを決めたのを皮切れに魔術師たちから大量の魔法が降り注ぐ。
最初の一撃のように沢山とはいかないが、彼らには最初の一撃にはなかったアドバンテージが有る。
それは、敵の傷の有無。
「――――――――――――!!!!!!!!!」
潰れた右目に集中する魔法を『マジックガード』で防ぐ『ラケルトゥス・ドラゴン』を、俺はその場でへたり込みながら見ていた。




