204話 俺氏、鬱る
勇者が完全ヘイト要員(物語的な意味で)な件ェ…………。
なろうでは割と多いですよね。
勇者。
まさか、1年もせずに会うとは思わなかった。
「………………ぶっ殺す。」
「お、おい!?坊主、何があったかわからないがとりあえず落ち着け!?」
突然殺気を放ち始めた俺に、周りがざわつく。
ギロリ、と視線で殺せるレベルで勇者を睨んでいた俺は、一瞬彼と目があったような気がした。
「…………ヒッ!」
押し殺したような勇者の悲鳴を聞いて、俺は彼と目があったのだと確信した。
思わず、口角がつり上がった。
コイツ、俺にビビってやがる。
逆にビビってもらわなくちゃ困る。
こちとらてめぇをぶっ殺したくてしょうがねぇんだよ。
てめぇが、てめぇがフィルを殺したのだけは忘れねえ。
そろそろその報いを受けさせてやってもいい頃だな。
俺も、この一年間で強くなった。
その全てをてめぇに―――――――――
「「『ロイド、落ち着いて!」」』
「!!!」
3つの声が、俺を正気に戻した。
先生、シュウ、そして俺の中にいるショタだ。
「………シュウ、お前まさか忘れてんじゃねえだろぉな?
あの糞野郎は、フィルを………!!!」
「わかってる!でも、今は駄目だよ………!」
『なにより、それを死んだフィル君が本気で願っていると思うかい?
君が、仇討ちのために問題を起こす方が死んだフィル君にとっては辛いはずだよ。」
「………………悪かったな、ちょいと頭を冷やして来る。」
俺は、それまで前線の方にいたのを後方に下がることにした。
「………………ロイドも、今日は誕生日なのに災難だなぁ……………。」
ハハッ、そういやぁ今日は誕生日だったか。すっかり忘れてた。
「――――――とんだ誕生日があったもんだな。」
世の中、案外上手くいかないもんだな。
「『ラケルトゥス・ドラゴン』!後30秒で圏内です!」
上級悪魔との戦いでも使われた、『サイト・シー』係がそう伝える。
すると、魔術師たちが詠唱を始める。
(俺もいつまでもウジウジしている訳にはいかねぇな。
『アクア・ブースト』、『マジック・ティラン』!)
俺は、その魔術師達全体に『マジック・ティラン』を使った『アクア・ブースト』の拡散を行う。
効果は若干薄くなるが、仕方がないな。
「『ラケルトゥス・ドラゴン』、射程圏内突入!」
「よっしゃ、うてぇ!!!」
――――――――――――ドォォォォォン!!!!!
先手を取ったのはこっち。
大量の魔法が、『ラケルトゥス・ドラゴン』へと襲いかかる。
爆炎が、巨大な氷槍が、轟雷が、鋼鉄の大槌が、暴風が、絶え間なく続く。
―――――――――ドゴン!バキィッ!ズアアアッ!
余波で地面が揺れるほどの連撃が止む頃には、草原から全ての生命体が消えていた。
いや、1体だけいるか。
「流石、ドラゴンってぇのはすげぇんだな。」
「嘘だろ!?あれだけ喰らってあの程度の傷!?」
案の定、『ラケルトゥス・ドラゴン』はそこまで傷を負っていなかった。
逆にこの程度でやられるんならS+は名乗れないだろう。
「ハハハ……………。割と全力で魔法をぶつけたんだけどなぁ…………。」
先生も、困ったように呟く。
合成魔法を使っても良かったのだが、先生が最近習得したという魔法の方が威力は高かったので、そっちを使うことにした。
結果、『ラケルトゥス・ドラゴン』の爪を割ることに成功したのだが、先生は満足しなかったらしい。
因みに、俺らの中で唯一、ヤツに大打撃を与えられたのはAランク冒険者『緑杖』さんの風属性最上級魔法『ルドラの息』だけ。
『ラケルトゥス・ドラゴン』の背中をごりっと持っていった彼女だが、そんな彼女も今は魔力切れで白目をむいている。
一方、ムカつくがやはり勇者も大打撃を与えていた。
使っていたのは、『ホーリーレイン』という魔法。
『ルドラの息』でめくれがった『ラケルトゥス・ドラゴン』の背中に追い打ちをかける形となっていた。
しかし、そんな連撃を喰らっても、『ラケルトゥス・ドラゴン』は身じろぎ一つしない。我慢強いだけなのかもしれないが、それでもその耐久力には恐れ入る。
その連撃で魔力の大半を使いきり、肩で息をしている魔術師を見ながら、ギルマスと騎士団長は叫んだ。
「お前ら!よくやった!ここからは俺ら前衛の出番だ!」
「我々騎士団の力、見せてやろうぞ!」
「「「おう!!!!」」」
意気込んだ俺達前衛組は、そのまま地を蹴り、『ラケルトゥス・ドラゴン』へと突撃を開始した。
因みに、どういう訳か俺も前衛組に入っている。
特別枠で、前衛後衛どちらもやることなったのだ。
(『魔手装甲』!『ウィンド・ブースト』!)
トップスピードにのった俺は、そこで唐突な寒気を覚えた。
それは、ギルマスや他の実力者も気づいたようで、すぐに身構えた。
「NUOOOOOOOOO!!!!!!」
遂に、それまで沈黙を貫いてきた『ラケルトゥス・ドラゴン』が声を上げる。
余りの大声に、皆が耳を塞ぎ、足を止めてしまう。
その咆哮に呼応するように鼻をふくらませた『ラケルトゥス・ドラゴン』を見て、ギルが焦ったように叫ぶ。
「ブレスだ!あんにゃろう、鼻からブレスをだすぞ!」
「なぁっ!?」
―――――――――BRRRRRUUOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!
直後、大きく開いた『ラケルトゥス・ドラゴン』の鼻から灰色のブレスが放たれ、足を止めた俺達を襲った。
鼻からブレスを放つ奴は流石にいないはずッ!




