187話 孤児たち、ゲットだぜ!(ピッピカチュ!)
今にも崩れそうなボロ屋、凸凹でロクに整備されてない地面。
普通の人が嗅いだら思わず鼻を摘みそうな悪臭が漂うスラムのど真ん中を、俺は堂々と歩いて行く。
懐かしなぁ、この空気。8年もスラムで生きてきたから当たり前か。
因みに、何でスラムに来たかというと、孤児院に住む人を募集するためだ。
孤児院に住む人をスラムに行って態々募集しにいく管理人とか俺聞いたことがないぞ。
まあ、仕方がない。他にスラムに堂々と入れてる奴がいないんだから。
本当は先生やリーユさんたちにも手伝って欲しかったんだが、生憎と彼らは頭を抱えて蹲ってる最中だ。
………あれ?俺が素直に『アンチポイズン』かけてあげればよかっただけの話なんじゃ………?
自分の行動を後悔しながら歩いていると、俺は12歳くらいの少年と真正面から激突してしまった。
すみません、と言おうとした所で、俺はあることに気づいた。
こいつ、俺の財布探ったな。
少年がスリをしようとしているのを理解した俺は、こっそり財布をスリしやすい場所に変えといてあげた。
案の定、財布を発見した彼は見事な手つきで財布を取り、ものすごい勢いで脱走していく。
おお、この子豪気で『ブースト』してやがるぞ。
しかし、流石に『ウィンド・ブースト』を掛けられた俺の魔手を超えるほど速くは走れないようだ。
俺は魔手を使って彼をマークすることにした。
透明な魔手ならマークしていることがバレにくいだろうし。
これで孤児の溜まり場を探り当ててやるぜ。
それから少し経った頃、俺の魔手が何かに挟まれたような感覚を覚えた。
おそらく、先程の少年が基地のドアを閉めようとしたのだろう。
それを理解した俺は、すぐさま魔手を引っ込めた。
よし、基地の場所は把握したぞ。
後は基地に突撃するだけだ。
俺は、魔手装甲を纏って駈け出した。
「発見!」
基地のドアを見つけた俺は、基地の中にいる魔力持ちを『マジックサーチャー』で確認する。
よし、4人。何か抵抗されても魔手装甲で防ぎきれるな。
意を決して、俺はドアに手をかけ、そして勢い良く引いた。
バコン!という音とともに、ドアが勢い良く開く。
「たのもー!」
突然現れた俺に驚いたのか、中にいる人は驚いた目をしている。
だろうな。いきなり知らない奴が基地に入ってきたらそりゃあビビるわ。
「そのドア、開ける方向逆…………。」
あれ、そっち?
後ろを振り返ると、無惨になったドアが転がっていた。
………………。
マジかよ。
「悪くない提案だな。
確かに、一考する価値はある。」
俺がそこの基地のリーダーに話をすると、基地のリーダーはそう言ってくれた。
因みに、俺が入ってきた時誰も俺の存在にビビらなかった理由は、俺が新たな仲間だと勘違いしたからだそうだ。
俺がもしも自警団の使いとかだったら詰んでたなこいつら。
とりあえず、孤児院に引き込めるならそれでいい。っつうのが、今の俺の考えだ。
「因みに、即決できない理由は?」
「お前が信用出来ないからだ。あと、話しが旨すぎる。」
「ですよねー。」
こんな話、信じろって方が難しい。
旨すぎる話ってのは大体裏があると相場が決まっているしな。
さて、どうしたものか。
「そもそも、何でお前は俺らをそんなに孤児院に入れたいんだ。」
「俺も、元孤児だからだ。」
「「「!?」」」
俺のカミングアウトに、基地がざわめく。
そういえば言ってなかったな。
「成る程、まあそれなら分からないでもない。
ここの暮らしはキツイし、何が起きるかわからないからな。」
「ああ。俺が孤児だった頃も酷かった。
裏切りが出るは貴族に襲撃掛けたりするは取り締まりキツイは………。
挙句の果てに勇者だぞ、勇者!」
思わず愚痴り始めた俺を前にここのリーダーが同情の念を込めて肩を叩いてくれた。
大変だったよ、あの頃は………。
今も大変だけど。
「お、お前帝国の出だったのか………。
勇者の件は聞いたぜ。何でもロイドって奴とあそこのリーダーが撃退した…………って、ちょっと待て!?ロイド!?
お前、まさかあの『勇者つぶしの神童』か!?」
何だその二つ名。俺知らんぞ。
「その『勇者つぶしの神童』ってのはわからないけど、一応俺は勇者を撃退したぜ。」
「「「おおお!!!」」」
又もや基地がざわめく。
あれ、もしかして俺、結構有名人?
よっしゃ、使える!俺の肩書使える!
俺が内心でガッツポーズをしていると、基地の中にいる幼女が俺に質問をした。
「ってことは!もしかして何か私達の役に立つ発明品とか作ってる?」
「おう、作ってるぜ。」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
更に基地の中がざわつく。
早速「くれよー」とか言ってる奴が居るが、俺は、ここで一つ問いかけてみた。
「皆。俺の発明品を、貰うんじゃなくて自分の手で作ってみないか?
俺が提供できるのは、衣食住だけじゃない。
俺の発明品を作って売ることが出来る権利、要するに職も提供できる。」
そう言いながら、俺は収納袋から試作品の自転車を取り出す。
そう、俺の次の作品は、自転車だ。
今まで馬車ばっかり頼っていたこの世界の交通手段を一気に変える道具となるだろう。
当然、バカ売れする筈だ。
これなら、彼らを養うだけの資金も用意に稼げる。
労働力は、今目の前に居る彼らに頼めばいい。
「リーダー、これでどうかな?
俺は、衣食住と職を提供する。
君達は、職によって得た金の一部を俺に渡す。
俺は労働力を確保できるし、君達は普通の生活を手にする。
どうだ?対等じゃないか?」
よし、これで多分キマリだ。
俺の肩書のお陰で、この話に裏があるという可能性は大分低くなっている筈だし。
リーダーの返答は、俺の返答を肯定するものだった。
「わかった。
『勇者つぶしの神童』さんよ、俺はアンタを信じて、その孤児院に入らせてもらう。
ただ、もしも裏切ったりとかした時は覚悟しとけよ?フルボッコにしてやるからな。
それでだ、何時そちらに行けばいい?」
「じゃあ、明日の午前10時で頼む。」
「聞いたかお前ら!
さあ!引っ越しの準備をするぞ!」
「「「了解!」」」
こうして、俺は約40名の孤児を引き取ることに成功した。
さーて、明日からもっと忙しくなるぞ。
あれ、俺ののんびりするという予定はどこに逝ったんだ…………。
考えたら負けだな、うん。




